第70回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2017】14
またまた快晴の26日(金)。恒例のプレス・ランチに参加した後、昨日“シネフォンダシオン”部門で『溶ける』が上映された井樫彩監督の日本人記者向けの囲み取材に出席し、同部門の授賞式にも立ち会った。その後、19時30分からは明日が正式上映日となるリン・ラムジー監督のコンペ作『ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア』をドビュッシー・ホールにて鑑賞した。
◆カンヌ市長がジャーナリストと長編コンペの審査員メンバーを招待する恒例の“プレス・ランチ”が開催!
世界中から映画祭に集ったジャーナリストと長編コンペティション部門の審査員団をカンヌ市の市長が昼食会に招き、市内を一望できる旧市街地の高台にあるカストル博物館前の広場を会場にして南仏の伝統料理を饗する“プレス・ランチ”が今年も開催された。
この昼食会は毎年、地方色豊かな伝統衣装に身を包んだ市民たちが立ち並んで音楽を奏でる中、カンヌ市長自らが参加者を会場入り口でお出迎えするアットホームな雰囲気の催しで、長テーブルがずらりと並ぶ様は実に壮観だ。メインの料理は魚の鱈とゆで野菜のアリオリ(マヨネーズ&ニンニクのソース)添えというプロヴァンス地方の家庭料理。
ロゼと白のワインは飲み放題だし、前菜やデザート&コーヒーまでもが振る舞われる実に太っ腹なイベントで、お土産として映画祭のラベルが張られた特製オリーブオイルも配られるのだ。また、ランチに参加した報道陣には写真撮影タイムも設けられるため、長編コンペティション部門の審査員たちのカジュアルなサマー・ファッションを捉えられる貴重な場でもある。今年もカンヌ市長が審査員たちを満面の笑みで出迎え、審査員たちもリラックスしたムードで談笑していた。
◆“シネフォンダシオン”部門で『溶ける』が上映され、日本人記者の囲み取材に応じた井樫彩監督
24日から3日間に渡って全16作品が上映された“シネフォンダシオン”部門(学生作品が対象)は本日、11時から上映されたプログラム〈4〉をもって終了。その授賞式の直前の14時30分から、昨日のプログラム〈3〉で東放学園映画専門学校の卒業製作作品『溶ける』が上映された弱冠21歳の井樫彩監督を日本人記者が囲んだ。
『溶ける』は、閉塞感に満ちた地方の田舎町に暮らし、近所の川に飛び込むことでストレスを解消していた女子高生・真子が、東京から来た従兄弟の青年との交流を通して鬱屈とした感情から解放されていく姿をエモーショナルに描いた45分の青春ドラマで、平柳敦子監督以来、3年ぶりに“シネフォンダシオン”部門に選出された日本人監督作品となった。
22日に現地入りし、幾つかの映画祭上映作を鑑賞したという井樫彩監督は「世界はデカいし遠いな~」と実感し、重圧を感じたそうだが、自分は自分のペースでと決意をあらたにし、制作準備中の次回作『真っ赤な星』に邁進したいとコメント。多くの刺激をもらえた初のカンヌ滞在を、出演俳優の道田里羽(真子役)と赤瀬一紀(真子の同級生役)とともに存分に楽しんでいる様子が伺えた。
◆“シネフォンダシオン”部門の第1席に輝いたのは、バレンティナ・モーレル監督の『ポール・イズ・ヒア』
今年で20回目を数える“シネフォンダシオン”部門の授賞式が16時30分からパレ・デ・フェスティバル内にある中規模会場“ブニュエル”で行われた。この部門の審査員を務めたのはルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督(審査員長)以下、フランスの女優クロチルド・エスム、アメリカの監督バリー・ジェンキンス、シンガポールの監督エリック・クーらの総勢5名。
授賞式ではクリスティアン・ムンジウ監督が総評を述べ、“シネフォンダシオン”部門を立ち上げた映画祭前会長のジル・ジャコブも登壇。この部門にかけた熱い想いと今後への期待の弁を滔々と語った。そして、授賞式に引き続いて同部門の受賞作のスクーリニングが行われた。受賞結果は以下(国名は所属学校の所在地)の通り。残念ながら『溶ける』は受賞を逃した。
☆第1席:『ポール・イズ・ヒア』バレンティナ・モーレル監督(ベルギー)
☆第2席:『アニマル』バフマン&バハラム・アルク監督(イラン)
☆第3席:『ツー・ユースズ・ダイド』トンマーゾ・ウスベリーチ監督(フランス)
(Text & Photo:Yoko KIKKA)