第70回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2017】13
映画祭10日目の26日(金)。“コンペティション”部門ではドイツのファティ・アキン監督の『イン・ザ・フェイド』とフランスのフランソワ・オゾン監督の『ラマン・ドゥーブル』が正式上映され、“ある視点”部門には3作品が登場。“シネフォンダシオン”部門ではプログラム〈4〉の4作品が上映された。また、併行部門の“監督週間”は本日で開幕。明日27日の同部門は受賞作などのリピート上映に充てられる。
◆国際派女優ダイアン・クルーガーが母国語であるドイツ語の映画に初挑戦したファティ・アキン監督の『イン・ザ・フェイド』
2004年の『愛より強く』でベルリン国際映画祭の金熊賞に輝き、2007年の『そして、私たちは愛に帰る』はカンヌで脚本賞を受賞。そして2009年の『ソウル・キッチン』でのヴェネチア国際映画祭の審査員特別賞の獲得と、世界三大映画祭全てでの受賞歴を誇るドイツの若き名匠ファティ・アキン監督。
『イン・ザ・フェイド』は、彼が共同脚本も務めて監督した2度目のカンヌ・コンペ参戦作で、主役にドイツ出身の美人女優ダイアン・クルーガーを起用した注目作だ。ダイアン・クルーガーは、ハリウッド映画への出演も多いドイツ出身の国際派スターだが、意外にも母国語であるドイツ語の映画への出演は、これが初めてである。
ドイツ北部ハンブルクのあるトルコ人コミュニティーで発生した爆弾事件によって愛する夫と一人息子を奪われたヒロインが、やがて犯人への激しい憎悪を抱くようになり、ついに自らの手で復讐を果たそうと決意する……。先日のマンチェスターのテロ事件の衝撃が醒めやらぬ中で上映された本作は、ダイアン・クルーガーの熱演を評価する声はあったものの、その“暴力の連鎖”を助長する“目には目を”的内容に賛否両論が噴出した。
朝の8時30分からの上映に続き、11時から行われた『イン・ザ・フェイド』の公式記者会見にはファティ・アキン監督とプロデューサー2名、主演したダイアン・クルーガーと弁護士役のデニス・モシットーが登壇。そして夫役のヌーマン・エイカーとスタッフたちが記者席の最前列に並んで座り、会見を見守った。
本作の記者会見では、“報復”についての問いを発した英国BBCの記者を始め、案の定、テロ関連に結び付けた質問が続いてしまったが、ファティ・アキン監督は本作について「リベンジ物というよりも家族映画」として楽観的に捉えたいとコメントした。
◆フランソワ・オゾン監督の『ラマン・ドゥーブル』はスタイリッシュ&凝った作りのエロティック・スリラー!
フランスの鬼才監督フランソワ・オゾンのコンペ参戦は、2003年の『スイミング・プール』、2013年の『17歳』に続き、今回で3度目。『ラマン・ドゥーブル』は『17歳』で主演に抜擢したマリーヌ・ヴァクトと再タッグを組んだヒッチコック風のエロティック・スリラーで、一人二役を演じたジェレミー・レニエと共に全裸で披露した大胆な演技が話題だ。
繊細で精神的に脆いところがあるクロエは、彼女を診療する精神科医のポールと恋に落ちて同棲を始める。だが、数か月後、クロエがポールに瓜二つの人物を見かけたことから、秘密の双子の兄弟ルイの存在が明らかになる。ポールがをその件をひた隠しにしていたことに疑念を抱いたクロエは、ルイに近づいた上に……。
夜の正式上映に先立ち、12時30分から行われた『ラマン・ドゥーブル』の公式記者会見には、フランソワ・オゾン監督、撮影監督のマニュ・ダコッセとプロデューサー2人、キャストのマリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジェクリーン・ビセットが参加した。
会見で本作を“とても実験的な映画”だと述べたフランソワ・オゾン監督は「双子という特異な関係性についてと、鏡などを使ってそれをシンメトリーなイメージで表現するというアイディアに惹かれたんだ」とコメント。一方、激しいラブシーンに挑んだマリーヌ・ヴァクトは、「ラブシーンはダンスの振り付けみたいなものよ。周到に準備されたスタントと同じで、どの様に見えるのかってことも判っていたわ」とサバサバとした表情でコメント。
(Text & Photo:Yoko KIKKA)