第70回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2017】12
晴天に恵まれたものの、日陰は涼しさを感じた映画祭9日目の25日(木)。“コンペティション”部門では、アメリカの兄弟監督ジョシュア・サフディ&ベニー・サフディの『グッド・タイム』、ウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督の『ア・ジェントル・クリーチャー』が正式上映。
また、1990年代初頭に一大ブームを巻き起こしたデイヴィッド・リンチ監督のTVドラマ『ツインピークス』の25年後を描く新シリーズの2エピソードが“70回記念イベント”上映され、“ある視点”部門には3作品が登場。“シネフォンダシオン”部門ではプログラム〈2〉の4作品と〈3〉の4作品(井樫彩監督の『溶ける』はこの区分入り)を上映。また、併行部門の“批評家週間”は、本日で開幕し、明日26日の同部門では、受賞作などがリピート上映される予定だ。
◆ロバート・パティンソンが汚れ役で新境地を拓いて魅せたサフディ兄弟監督のコンペ初参戦作『グッド・タイム』
ホームレスの薬物中毒者の姿をリアルに描いた2014年の『神様なんかくそくらえ』で東京国際映画祭のグランプリと最優秀監督賞を獲得した気鋭の兄弟監督ジョシュア・サフディ&ベニー・サフディが、ニューヨークのスラム街を舞台にした犯罪ドラマ『グッド・タイム』でコンペに初参戦した。
精神障害を持つ弟のニック(ベニー・サフディ)と2人で企てた銀行強盗に失敗したコニー(ロバート・パティンソン)は、警察の追っ手をかわして何とか逃亡するが、ニックは逮捕されてしまう。かくして、弟を助けるためにニューヨークのアンダーグラウンドを駆け巡るコニーの長い夜が始まった……。
ニューヨークでゲリラ撮影を敢行し、コニーの一夜の奔走を切れの良い映像とセンスあふれる音楽で描いたアドレナリン全開の快作『グッド・タイム』は、ホワイト・トラッシュ役に挑んだ人気アイドルのロバート・パティンソンが、シャープな演技を披露し、見事に新境地を拓いた注目作だ。
朝の8時30分からの上映に続き、11時から行われた『グッド・タイム』の公式記者会見には、監督したジョシュア・サフディ(兄)、監督&出演したベニー・サフディ(弟)、プロデューサー2人と脚本家、キャストのロバート・パティンソン、バディ・デュレス、タリア・ウェブスターが参加した。
ロバート・パティンソンは会見で、『神様なんかくそくらえ』のポスターにピンときたので、自らサフディ兄弟に連絡を取り、本作の主演に至ったことを明かし、撮影については「メイクであばた面にしていたら、誰も僕だと気付かなかったんだよ。全シーンをニューヨークの街頭で撮影したんだけど、パパラッチはおろか通行人の誰一人としてね」と、時間をかけて役作りに励んだ成果のほどを自賛。
また、別人かと見紛うニック役で意外な功演を見せたベニー・サフディ監督は、ニックのキャラクターやメンタリティについて述べた上で、ロバート・パティンソンと共に“役”を育てていったとコメント。そして、センス抜群の音楽に対して質問が飛ぶと、サウンドトラック・リリースの予定があると明かされた。
◆セルゲイ・ロズニツァ監督の『ア・ジェントル・クリーチャー』は、ドストエフスキーの短編をベースにした人間ドラマ!
ドキュメンタリー畑出身で、2010年の長編劇映画デビュー作『マイ・ジョイ』がいきなりカンヌのコンペに選出され、続く2012年の第2作目『イン・ザ・フォッグ』もコンペ上映されたウクライナ出身のセルゲイ・ロズニツァ監督。その後の2作品は招待部門での上映だったが、3度目のコンペ参戦作となる『ア・ジェントル・クリーチャー』は、ロシアの文豪ドストエフスキーの短編をベースにした物語だ。
ロシアの辺鄙な村で一人暮らしをする女性の元にある日、「送り主に返送」と記された小包が届けられる。それは彼女が獄中にいる夫宛に送った“差し入れ”の品々だった。返送を不審に思った彼女は、荷物を直接渡すべく遠方にある刑務所へと赴く。だが、受付で何度も門前払いを喰わされ、やっと荷物を預かってもらえたと思いきや、検分という名目で中味をズタズタにされた挙げ句……。
『ア・ジェントル・クリーチャー』は、不条理かつ屈辱的な扱いを受ける寡黙なヒロインの姿を通してロシアの体制の暗部を描き出した意欲作なのだろうが、前半の描写には大いに引き込まれたものの、“夢オチ”シーンが挿入される後半の展開に唖然とし、一気に興醒めしてしまった。
16時からの正式上映(プレス向け試写は昨夜の19時~と22時~の2回、上映済み)に先立ち、12時30分より『ア・ジェントル・クリーチャー』の公式記者会見が行われ、セルゲイ・ロズニツァ監督とプロデューサー2名、主演女優のヴァシリナ・マコウツェーヴァ、共演男優のヴァレリュ・アンドリウツァが登壇した。
(Text & Photo:Yoko KIKKA)