『ザ・ビガイルド』の公式記者会見

朝晩は冷え込んだものの、日中は日差しが眩しかった映画祭8日目の24日(水)。“コンペティション”部門では、アメリカのソフィア・コッポラ監督の『ザ・ビガイルド』とフランスのジャック・ドワイヨン監督の『ロダン』が正式上映。
招待部門には3作品が、“ある視点”部門には2作品が登場し、アルフォンソ・キュアロン監督によるマスタークラスも行われている。また、学生映画が対象の“シネフォンダシオン”部門では、プログラム〈1〉~〈4〉の内の〈1〉の4作品が上映された。

◆ソフィア・コッポラがトーマス・カリナンの同名小説の再映画化に挑み、完全なる“女の園”映画に仕上げた『ザ・ビガイルド』

2010年の『SOMEWHERE』でヴェネチア国際映画祭の金獅子賞に輝いたソフィア・コッポラ監督の2度目のカンヌ・コンペ参戦作『ザ・ビガイルド』は、『ダーティハリー』の名コンビ、ドン・シーゲル監督&クリント・イーストウッドによる異色サスペンス『白い肌の異常な夜』(1971年)の原作小説をソフィア・コッポラ自らが脚色して再映画化したものだ。

舞台は南北戦争末期のヴァージニアの男子禁制の寄宿舎。そこに運ばれた重傷の北軍兵士を巡って“女の園”に、性的緊張感やライバル心が生まれ、驚くべき事態へと発展していく。本作をドン・シーゲル版のスリラー色を薄めて得意のガーリームービーに仕上げたコッポラの手腕が実に鮮やかで、当時の米国南部を見事に捉えた映像も秀逸なコスチューム劇だ。

ちなみに、本作で女性たちを虜にする北軍兵士役を母国アイルランドなまりを全開にして魅力的に演じたコリン・ファレルと、突飛な行動に走る校長役を好演した人気女優ニコール・キッドマンは、ヨルゴス・ランティモス監督の『ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』では夫婦役を演じており、共演作2本が今回の賞レースを賑わす形となっている。

8時30分からの上映に引き続き、11時から行われた『ザ・ビガイルド』の公式記者会見には、ソフィア・コッポラ監督とプロデューサー、コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、キルステン・ダンスト(教師役)、エル・ファニング(生徒役)、そして年少の生徒を演じた子役の2人、アンガーリー・ライスとアディスン・リエッケが登壇した。

キャストは執筆の段階から想定していたというソフィア・コッポラ監督は、「ニコールが役にヒネリのあるユーモアを持ち込んでくれるのは判っていたわ。メロドラマに傾きがちなのに、素晴らしくリアルなモノにしてくれた。私にはそれが重要だったのよ」と謝意を述べ、ニコール・キッドマンは映画界で少数の女性監督をできるかぎり応援しているとコメント。

また、『白い肌の異常な夜』の“リメイク”という言葉を慎重に避け、本作は“原作の別解釈”だと強調したコッポラ監督は、コリン・ファレルにイーストウッドが演じた役柄をオファーした理由を「ここにいる女性陣と渡り合える人物で、彼女たちとのコントラストが欲しかったの。コリンはチャーミングかつカリスマ性があるとても素晴らしい俳優なので、男性的でエキゾチックな敵軍の兵士役にピッタリだと思ったわ」と述べた上で、「繊細な女性の世界に、ダークで汚い毛むくじゃらな男が闖入してくる物語」だから、“毛深さ”も起用の重要な要素だったと明かし、当のコリンを苦笑させた。

◆ジャック・ドワイヨン監督の『ロダン』は、今年没後100年を迎える“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダンの伝記映画!

『ロダン』の公式記者会見

『ラ・ピラート』『ピストルと少年』『ポネット』『ラブバトル』等で知られるフランスの名匠ジャック・ドワイヨンが監督&脚本した『ロダン』は、フランスの彫刻家オーギュスト・ロダン(1840年~1917年)の没後100年を記念し、パリ・ロダン美術館全面協力のもとで製作された伝記映画(箱根の森彫刻美術館でのロケも敢行!)だ。

 

1880年のパリ。彫刻家のオーギュスト・ロダンは政府から注文を受けた大作モニュメント「地獄の門」の制作に苦心していた。当時、彼には積年の内妻ローズがいたが、若くて才能のある弟子カミーユ・クローデルと愛し合うようになり……。

2015年の『ティエリー・トグルドーの憂鬱』で男優賞に輝いたヴァンサン・ランドンがロダンを熱演した本作は、前半は2人の女性の間で揺れるロダンの私生活に、後半は物議を醸しながらも情熱を傾けた創作面に重点を置き、“章立て”で構成した作品で、“ジャニス・ジョプリンの再来”と呼ばれる人気歌手&女優のイジア・イジュランがカミーユ役を演じている。

イジア・イジュラン(左)とドワイヨン監督

16時からの正式上映(プレス向け試写は昨夜の19時30分~と22時~の2回、上映済み)に先立ち、12時30分より『ロダン』の公式記者会見が行われ、ジャック・ドワイヨン監督とプロデューサー、俳優陣のヴァンサン・ランドン、イジア・イジュラン(カミーユ・クローデル役)、セヴリーヌ・カネル(ローズ役)が登壇した。

 

会見においてジャック・ドワイヨン監督は、時に悪しき男だったロダンと心の闇に落ちていくカミーユの奇妙なカップルについての見解を述べ、ヴァンサン・ランドンは、数ヶ月かけて髭を生やし、粘土の捏ね方から彫刻のイロハから学んで役作りに没頭していった旨をコメント。そしてイジア・イジュランは「演じる中で、カミーユのフラストレーションが理解できた」と語った。

 

 

(Text & Photo:Yoko KIKKA)