第70回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2017】10
映画祭も後半戦に突入し、青空が広がった7日目の23日(火)。アッバス・キアロスタミ監督が遺した『24フレームズ』の上映、ジェーン・カンピオン監督が手がけた人気TVドラマ『トップ・オブ・ザ・レイク』シーズン2の6エピソード上映などの他、“70回記念イベント”が目白押しだった本日の“コンペティション”部門の正式上映は、河瀬直美監督の『光』1本のみ。“ある視点”部門では2作品が上映されている。
◆昨日、長編デビュー作『オー・ルーシー!』が上映された平柳敦子監督を朝一番にプライベートビーチでジャンケット取材!
『オー・ルーシー!』のジャンケットが午前9時30分から行われ、日本人プレス3名+海外プレス1名で平柳敦子監督を囲んだ。監督は日本語を解さない海外プレスに対しては英語で、我々には日本語で返答する変則的な取材となったが、柔軟に対応する才媛(サンフランシスコ在住の二児の母。極真空手黒帯初段の保持者でもあり、3年前に囲み取材をしただけの筆者を覚えているという抜群の記憶力の持ち主!)であった。
そもそも『オー・ルーシー!』のアイディアは、長編として構想していたモノで、諸事情により一旦は短編として撮ることにし、今回の長編化に際して新たな物語を書き加えて膨らませ、再構築したという平柳監督は、新人監督作品とは思えない豪華なキャストをNHKのサポートで起用できた経緯、撮影時期と期間、演出、拘った衣装や美術について等々を真摯に語ってくれた。
◆『光』の河瀬直美監督は、俳優陣の永瀬正敏、水崎綾女、藤竜也、神野三鈴を率いてカンヌ入り!
1997年の『萌の朱雀(もえのすざく)』でカメラドール(新人監督賞)に史上最年少で輝き、2007年の『殯(もがり)森』で“コンペティション”部門のグランプリを獲得と、映画祭の節目となるアニバーサリー・イヤーごとにカンヌの栄冠に輝いてきた河瀬直美監督。
加えて、2009年には監督週間の“金の馬車賞”を受賞、2014年には“長編コンペティション”部門の審査員メンバーとなり、そして昨年は“短編コンペティション”部門&“シネフォンダシオン”部門で日本人初の審査員長に就任と、まさにカンヌの申し子的な存在となった監督が、70回目のアニバーサリー・イヤーである今年、5度目のコンペ参戦作『光』を携えてカンヌに戻ってきた。
本作は、視力を失いつつある弱視のカメラマン(永瀬正敏)と、視覚障害者向けの「映画の音声ガイド」を制作する女性(水崎綾女)が心を通わせていく様を丹念に綴った珠玉のラブストーリー。主演の永瀬正敏は2015年の前作『あん』に続いての起用で、ヒロイン役には“目力の強さ”でオーディションを勝ち抜いた水崎綾女を抜擢。また共演者の神野三鈴と藤竜也は、本筋の役柄と劇中映画の出演俳優の2役で登場する。
夜の正式上映に先立ち、午前11時から行われた『光』の公式記者会見には河瀬直美監督と澤田正道プロデューサー、永瀬正敏、水崎綾女、藤竜也、神野三鈴が登壇。会見で本作のタイトルについて、「付けるのに勇気が必要な題名」だったと述べた河瀬直美監督は「作った映画は永遠に残ると信じたい。世界中の人に“光”を届けたい」と力強くコメント。
また、主演した『愛のコリーダ』が19日に“カンヌ・クラシック”部門で上映された藤竜也の「この場所には金があれば来れるが、映画祭には金を積んでも来れない」というカンヌに対するコメントと、河瀬直美監督とジム・ジャームッシュ監督の両名に謝意を述べた永瀬正敏のコメントが印象深かった。
◆日本から唯一“コンペティション”部門に選出された河瀬直美監督の『光』が、予定より約45分遅れで正式上映!
グラン・テアトル・リュミエールで、午後22時からの開演予定だった『光』の正式上映が、同会場で行われていた“70回記念イベント”の終了時間が押したため、約45分遅れのスタートとなった。その場に立ち会い、観客の好反応を得た河瀬監督とキャスト陣(永瀬正敏、水崎綾女、藤竜也、神野三鈴)は、その後、市内のホテルに移動。深夜1時から行われた日本人報道陣の囲み取材に応じた。
その取材で河瀬直美監督は「言葉にならないものが自分の中に込み上げてきて、それをまだ整理できていません」と感無量のコメント。永瀬は「エンドロールであんなに拍手をいただいて、その後あんなに長いスタンディングオベーションをいただいて……。格好よく立ち上がろうと思ってたんですけど、(目頭が熱くなって)無理でした。あんなに温かい拍手は初めていただいたと思います」とコメント。
水崎も「気持ちが涙として表れました。皆さんに観てもらうまではすごく不安でしたが、今日こんなに沢山の方に観てもらえ、温かい拍手を本当に長い時間いただけて、感動しました。感謝の気持ちしかないです」と述べ、藤も「河瀬さんの映画で何か大切なモノをもらって、カンヌの観客の方々からも同じような大切なモノを映画人としてもらえました。嬉しかったです」とコメント。神野も「とても強く映画の力を感じました。カンヌのお客様の拍手がそれを私に教えてくれました」と語った。
◆アリアナ・グランデのコンサート会場で発生した自爆テロ事件に対し、“カンヌ映画祭”が声明を発表!
昨夜、アメリカの人気歌手アリアナ・グランデがコンサートを行っていたイギリスのマンチェスター・アリーナで発生(現地時間22日、午後10時30分過ぎ)し、22名が死亡、59名が負傷した自爆テロ事件に対して、“カンヌ映画祭”が声明を発表。この非道なテロ攻撃を非難した上で、被害者とその家族、英国の人々への連携を示している。
(Text & Photo:Yoko KIKKA)