左からバリー・コーガン、ヨルゴス・ランティモス監督、ニコール・キッドマン

本日もコートダジュールの陽光が燦々と降り注いた映画祭6日目の22日(月)。 “コンペティション”部門ではギリシャのヨルゴス・ランティモス監督の『ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』とオーストリアのミヒャエル・ハネケ監督の『ハッピー・エンド』、韓国のホン・サンス監督の『ザ・デイ・アフター』の3本が正式上映。

招待部門ではアンドレ・テシネ“監督の『ゴールデン・イヤー』が“70回記念イベント”として、“ある視点”部門ではパルムドール受賞監督ローラン・カンテの『ザ・ワークショップ』などの3作品を上映。そして平柳敦子監督の長編デビュー作『オー・ルーシー!』が批評家週間に登場した。

◆『ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』はコリン・ファレルとヨルゴス・ランティモス監督が再タッグを組んだ不条理劇!

2009年に“ある視点賞”を受賞した『籠の中の乙女』で世界中の注目を集め、2011年の『アルプス』でヴェネチア国際映画祭脚本賞を獲得したギリシャの鬼才監督ヨルゴス・ランティモス。満を持してカンヌのコンペに初参戦した2015年の奇想天外ドラマ『ロブスター』で審査員賞を獲得した異才監督が、再びコリン・ファレルと組んだ意欲作が『ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』だ。

スティーヴン(コリン・ファレル)は、妻と2人の子供と暮らす裕福なカリスマ外科医だ。だが彼は、気遣ってやった10代の少年マーティンに付きまとわれ始め、やがてマーティンに翻弄された一家は……。エウリピデスのギリシャ悲劇を基にした本作は、ランティモス監督が『ロブスター』でも組んだエフティミス・フィリップと共同で脚本を執筆、物語の不穏な成り行きと衝撃的な結末に唖然とさせられる不条理劇だ。

『ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』の公式記者会見

 

 

朝の8時30分からの上映に続き、11時から行われた公式記者会見には、残念ながら主役のコリン・ファレルは現れず(夜の正式上映時のレッドカーペットには登場!)、ヨルゴス・ランティモス監督、妻役のニコール・キッドマン、マーティン役のバリー・コーガン、娘役のラフィー・キャシディ、息子役のサニー・サジック、そしてプロデューサー2人が登壇した。

 

司会者から「“ファミリー映画”の範疇ではない“家族映画”だね」と水を向けられたヨルゴス・ランティモス監督は、意味深なタイトルはセリフの中からチョイスしたと述べた上で、本作はコメディだと主張。「撮影中、キャストに『これはコメディだよ』って言い続けていた。コンセプトは象徴としての“犠牲”と“正義”で、リアリティとのさじ加減に気を配った」とコメントした監督は、「説明するのは嫌いなので、フィジカル的に演出していったよ」と言い添えた。

エルトン・ジョン(中央)とスパイク・リー監督(右)

◆自家用ジェット機でカンヌ入りしたエルトン・ジョン御大のイベント「エルトン・ジョン:ザ・カット」に参加!

11時からの『ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア』の会見に続いて行われた12時30分スタートの『ハッピー・エンド』、14時からの『ザ・デイ・アフター』の公式記者会見2つを蹴り、招待されていたエルトン・ジョンのイベント「エルトン・ジョン:ザ・カット」に駆けつけた。

 

これは、英国を代表するシンガーソングライターで許多のヒット曲を生み出してきたエルトン・ジョンが、1971年~1973年に発表した名曲3曲を対象とするミュージック・ビデオを世界中から募ったコンテストの優秀作品を発表&表彰するイベントで、主催者は、あの“YouTube”。

 

まずは、プライベートビーチにおいて招待客オンリーの“ランチ・レセプション”が催され、その後、市内の劇場オランピアに場所を移して行われた優秀作品の発表&ワールドプレミア上映会には、自家用ジェット機でカンヌ入りしたエルトン・ジョン御大が立ち会い、ステージ上では彼の生トークショー(なんとMCとして登壇したのは『マルコムX』の監督スパイク・リー!)も行われた豪勢なイベントで、間近で偉大なメロディメーカーの尊顔を拝める貴重な場となった。

 

◆日米合作の『オー・ルーシー!』が“批評家週間”で上映され、平柳敦子監督、寺島しのぶ、ジョシュ・ハートネットが舞台挨拶!

左から平柳敦子監督、寺島しのぶ、ジョシュ・ハートネット

平柳敦子監督待望の長編デビュー作『オー・ルーシー!』が、17時15分より“批評家週間”のメイン会場エスパス・ミラマーで上映された。本作は、2014年に平柳敦子監督がカンヌの“シネフォンダシオン”部門(学生映画対象)で日本人初の第2席を獲得した同名タイトルの短編映画(21分間)の長編化で、吉田大八監督の『腑抜けども悲しみの愛を見せろ』以来、10年ぶりに“批評家週間”に選出された日本人監督作品となった。

何事にも満たされない日々を過ごす43歳の独身OL・節子(寺島しのぶ)は、ひょんなことから姪の美花が行くはずだった英会話学校に通うことに。そこで出会ったアメリカ人講師ジョンに恋心を抱いた節子は、美花を伴って突然帰国してしまった彼を追ってLAに飛ぶのだが……。

本作は、節子が東京とLAで巻き起こす騒動&珍道中を時に赤裸々に時にユーモアたっぷりに描いた快作ドラマで、共演はジョシュ・ハートネット(ジョン)、南果歩(節子の姉)、役所広司(同じ英会話学校の生徒)、忽那汐里(美花)ら。

上映前の舞台挨拶に登壇した平柳敦子監督は、緊張の面持ちで「とにかくこのような機会を頂けたことに感激しております。この瞬間にこの場にいられることを光栄に思います。この旅路は3年前の“シネフォンダシオン”から始まったのですが、その短編を長編としてカンヌに戻ってくることをずっと夢見ておりました」と述べ、続いて寺島しのぶ、ジョシュ・ハートネットを始めとするキャストやクルー、“批評家週間”に対して謝意を伝えた。

一方、「ボンジュール!」と明るく口火を切った寺島しのぶは、その後も全てフランス語で通し、「敦子さんと仕事ができて本当に楽しかったです。とても才能のある監督なので、明るい未来が待っていると確信しています。皆さん、映画をぜひ楽しんでいって下さい」と舞台挨拶。

そして、ジョシュ・ハートネットは「僕はフランス語ができないから…」と、はにかんで会場を沸かせた後、「この作品をサポートするために此処に来られてとても嬉しく思います。短編を観た時から、さらに脚本を読んだ時から、この作品がとても特別であり、素晴らしいものになると判っていました。皆さんにご覧いただけることを嬉しく思います。レビューも楽しみにしているので、どうかお手柔らかに!」と締めくった。


(Text & Photo:Yoko KIKKA)