国内外で常に注目を集める黒沢清監督が劇作家・前川知大氏率いる劇団「イキウメ」の人気舞台「散歩する侵略者」を映画化。数日間の行方不明の後、夫が「侵略者」に乗っ取られて帰ってくる、という大胆なアイデアのもと、誰も見たことがない新たなエンターテインメントが誕生、現在全国大ヒット上映中です。

この度、9月27日(水)に黒沢清監督によるトークイベントを開催いたしました!
本作品のことから、黒沢監督にどうしても聞きたかったことなど、観客の皆様の質問に黒沢監督が応じ、制作秘話や演出意図など、公開後の今だから語れるエピソードを明かし、大盛り上がりのイベントとなりました。
つきましては、下記にてイベントレポートを記させていただきます。

『散歩する侵略者』黒沢監督トークイベント 概要

【日程】 9月27日(水)20時40分~21時10分
【場所】シネ・リーブル池袋 SCREEN1 (豊島区西池袋1-11-1 ルミネ池袋8F)
【登壇者】黒沢清監督 

<以下、イベントレポート>
すでに映画をご覧になった方からは「今までに観たことがない新感覚の映画」、「俳優陣の演技が凄い!」、「散歩する侵略者の伏線が気になる…」などストーリーや設定について様々な論争を巻き起こし、SNS等でも盛り上がっている本作。公開後だからこそ語られる貴重なエピソードが聞けるとだけあって、会場には多くの観客が集まりました。そんな中、登壇した黒沢清監督はまず「公開からしばらく経っていますが、お集まりいただきありがとうございます。今日は僕だけのイベントなので、のんびり、ほんわかしたトークになればいいなと思っています」と挨拶しました。

宇宙人が地球を侵略するという本作の設定に関して、未知なる宇宙人のイメージを具体化するのには苦労したと語る黒沢監督。「実は「宇宙人」というワードは宣伝では言わないようにとのことで、「侵略者」と言っていたんですが、侵略者と言われても余計になんだかわからないですよね。それでも予告編をよく見ると「宇宙人」って言っていますよね。あれはいいんですか!?(笑)松田龍平さんをはじめ、侵略者役のキャストの方にも、宇宙人ってどういう設定ですか? と聞かれたりしましたが、はじめは「わかりません」と答えました。実際にわからなかったので(笑)脚本を書いている時に、「宇宙人」というと、なんだか乱暴な言い方なので、“金星人”にしようかとか、もう少し遠い“アンドロメダ銀河”から来たということにしようかとも思いましたが(会場笑)でも、言い方を変えたところで意味合いは変わらないしよくわからない。結局、「宇宙人」を演じてください、とキャストの方にお伝えしたところ、納得してそれぞれの俳優の宇宙人っぽさを出して演じてくれましたね」と明かしました。

また、長澤まさみ演じる主人公・加瀬鳴海の「あーあ、やんなっちゃうなあ」というセリフに反響が集まっていることについて、黒沢監督は「主には夫の真治に対する言葉なんですが、それだけでなく、環境や仕事のこと、世の中全体に対してのもどかしさ、このままでいけないと思っても何もできない、という全体的な一つのつぶやきとして鳴海の台詞として言わせてみました。長澤さんにニュアンスを伝えるために、僕は滅多にそういうことはしないのですが、今回は脚本に(杉村春子風に)とはっきり書いたら、長澤さんはそれを見て、「はい、わかります」と、実に見事に演じてくれました」と往年の名女優へのオマージュを語りました。

侵略者をはじめ様々な個性的なキャラクターが登場する本作。長谷川博己が演じたジャーナリストの桜井らを追い詰める笹野高史演じる謎の男のキャラクターの設定は一番苦労したと明かし、「笹野さんが率いる男たちの集団がいるのですが、「ジャンパー姿の男たち」と呼んでいました。彼らについては「なんだこの人たちは!?」というのを狙いました。この映画は、所々かなりの部分でふざけていて(笑)。もしこの物語の中で、本気で警察組織や軍事組織などの権力が登場したとしたら、侵略者たちも肉体は人間と変わらないので実はひとたまりもない、まったく歯が立たないんです。彼らは、侵略者に気づいたある組織であって侵略者との緊張関係が進んでいくドラマを進めていくために、組織は強すぎてはいけない、あまりにふざけすぎてもいけないし、どの程度の武装なのか、服装なのかというところでとてもこだわりました。結果、制服などではなく、思い思いのジャンパーを着ていただきました(笑)持っている武器も、警官よりはちょっとごつくて、戦闘用よりは小さな機関銃、フランスの警察官が持っているベレッタM12という機関銃を持っていたり。ものすごい微妙なところを狙いました」とこだわりを語りました。

さらには笹野高史さんのキャスティングにも言及。「最終的には笹野さんが登場すると一気にもっていかれる。大好きなんです、笹野さん。「うわ、出た」と思う“出た”感が半端ないです(笑)怖いといえば怖いし、ふざけていると言えばふざけているんですが、実際に存在しないようで存在するキャラクターに見えるのは、笹野さんの演技の力です。笹野さんに本当に助けられました」と笹野さんの演技を絶賛。また「脚本が出来上がってきたときに、脚本のど真ん中にどんなシーンがきているかというのは非常に重要。そこからガラッと映画のタッチが変わるとても重要なシーンが来ているというのが、脚本の基本形だと考えているのですが、今回も何も考えずに書き終えてパッと開いてみたら、笹野さんの登場シーンだったんですよ! それまでは「宇宙人なんだ」と言っている人がいても、本当かよと?と少しふざけたように物語が進んでいくんですけど、そこからは客観的にも本当におかしな現象が起こっているんだ!と組織が動いているのがわかる瞬間がちゃんと真ん中に来ていましたね」と物語だけなく、現実の脚本にさえ運命的に登場してしまう笹野さんについて熱く語りました。笹野さんのシーンだけではなく、アンジャッシュの児島さんが演じる車田についても言及。「児島さんのシーンもどう考えても可笑しいですよね。そのほかにもところどころ明らかに可笑しなシーンを入れていて、ここは可笑しいんですよとわかるように、カメラの後ろでスタッフが笑っているみたいな声を入れたいくらいだったんですけど(笑)。それはさすがに控えましたが、宇宙人が侵略しにくるという話なので、これは冗談なのか?というのがわかりづらいと思いますが、どのようにご覧になるかは、観ていただいた方のご自由に、ということで。ただ、僕としては珍しく、かなりの部分はコミカルに作りました」

ここで、会場に集まったお客様から黒沢監督への質問を募り、黒沢監督に答えていただきました。なんと、韓国から来たという黒沢監督のファンからは「映画を観てとても感動しました。黒沢監督がロケ地を選ぶ時に重要だと感じることは何ですか」という質問が。黒沢監督は「原作が地方都市という設定ですが、東京から離れてしまうと方言が出てきますよね。方言は使いたくないと思ったので標準語の範囲の場所に設定しました」とコメントし、実際の撮影には栃木や埼玉、静岡のあまり特定できないどこにでもある場所をあえて選んだそう。

また、ファンからの「映画だけでなくスピンオフドラマ「予兆 散歩する侵略者」の方にも出演されている東出昌大さんについて聞きたい!」という質問に、「東出さん演じる牧師、ドラマの方ではどうなっていくのか。果たして同じ人物なのかどうか、見所ですので自分の目で確かめてみてください。東出さん、相当なことになってます。(東出さん出演の人気の某テレビドラマの名前を挙げて)あれどころじゃないっていう(笑)」と今回唯一、映画とドラマの両方に出演されている東出さんについて語りました。

最後に、黒沢監督から会場の皆様へメッセージをいただきました。
黒沢監督:ご覧になったとおりの色んな要素が詰まっている映画ですので、一言で言い表すのは難しいかもしれません。でも、だからこそ、色んな言葉にしていただき、皆さんの心の中にできるだけ長く残ってくれたらいいなと思います。映画というものは簡単に言葉で表せるものだけではありません。皆さんの心の中に残っている何かがどなたかにこの映画のことを語る時に何かの大きな原動力になってくれたら嬉しいなと思っています。じっくり余韻を味わってください。本日はどうもありがとうございました。

以上