ジム・ジャームッシュ監督によるロック・ドキュメンタリーで、イギー・ポップがフロントマンを務めた伝説的バンド「ザ・ストゥージズ」を追いかけた『ギミー・デンジャー』。満席続出の大ヒットを記念し、ジャームッシュ監督の『リミッツ・オブ・コントロール』に楽曲を提供し、2010年にジャームッシュがキュレーターを務めたフェス、ATP New York 2010にも出演、来月はアメリカツアーでイギーと共にdesert daze フェスティバル に出演するなど世界的なライヴ活動を行なっているバンド、BorisのAtsuoさんのトークイベントが上映後に行われた。

実は客席で映画を再度鑑賞していたAtsuoさんは「この映画だけで完成しているわけではなく、やはりストゥージズのアルバムがあっての映画。映画を観た後にまたアルバムを聴くと聞こえ方も変わってくるのでは」と述べ、「ストゥージズのドキュメンタリーが作られたということだけで歴史に楔を打ち込んだと思います。ジムの心意気を感じました。世界一ロックを愛している彼でないと作れない」と本作の感想を語った。

Atsuoさんとストゥージズの出会いは、高校生の時に好きになったバンド、ダムドがきっかけ。「ダムドも、その後好きになったニック・ケイヴもストゥージズをカヴァーしていた。ロックを掘っていくと行きつくところがストゥージズでした」と明かし、劇中ではストゥージズの音楽が激しいだけではなく現代音楽からも影響を受け、かなり実験的なこともやっていた音楽的に深いバンドだったことが明らかにされているが、「シンプルだけに色んな現象を呼び込んでいる楽曲で、聞けば聞くほど魅力的に聞こえてくる」とそのサウンドの魅力を述べた。

また「ストゥージズは“ダメな人たち”なんだけど、こういう人たちも許容していける社会だといいのになあ。今の日本はギスギスしているなあ」と思いながら今日は映画を鑑賞していたとのこと。聞き手のライターの村尾泰郎さんの「そんな“ダメ人間”がロックの殿堂になることもすごいですよね」という言葉にうなずいた。村尾さんは学生時代は弁論部や水泳部に所属し、インテリジェンスなことでも知られるイギーがバンドの中で果たした役割について言及した。

そしてジャームッシュがキュレーションを務めた2010年のATP(all tomorrow’s parties)の時のことについて、「ホテルのようなところを貸し切って泊りがけで参加するフェスで極端に言うと旅館の宴会場みたいなフェス(笑)いわゆるロックフェスではなくあったかい感じ」と独特な雰囲気であることを語り、そこで見たストゥージズの「ロー・パワー」完全再現ライブは「素晴らしかった」と絶賛。Atsuoさんはイギーとは実際に面識はないが、イギーが自身のラジオ番組でBorisの曲をかけてくれたことがあり、親交のあるマイク・ワット(ストゥージズのメンバー)を通してイギーにニューアルバム「DEAR」を送ったところ、「Dear Boris,I love your music.Happy “Dear” anniversary.」とアルバムタイトルにひっかけた粋なコメントが届いたとのこと。
ジャームッシュ監督も「Borisはこの地球上で最も偉大なロック・バンドのひとつ」と称賛のコメントを寄せ、「ライブバンドと言ってくれたことが本当にうれしい。バンドってなかなか理解されない。結婚でもないし、友達でもない。特殊な生き方だと思う。ジムもバンドをやっているのでバンドの不思議さや面白さをわかっているのでは」と嬉しさを滲ませ、2006年ごろから交流のあるジャームッシュは「彼の映画そのもの。公開中の『パターソン』も観ましたが、ニュートラルな感じ。落ち着いてて優しくて、作品そのものですね」と印象を述べた。

Atsuoさんが好きなストゥージズのアルバムは1997年にイギー自身がリミックスし発売した「ロー・パワー」。「オリジナルがあまり好きではなかったのだが、97年バージョンはひずんでて荒々しくて、同じ楽曲でもひずませればこんなにかっこよくなるのか!と。以降Borisもひずませ癖がつきました(笑)人生の一枚です。イギーに『ひずませれば大丈夫!』と太鼓判押された感じ」と影響を明かした。

「どんな人に本作を観てほしいか?」という質問には、「ロックバンドとは?を描いている映画。ロックバンドはなかなかわからないもの。日本人全員に観てほしいくらい。今日本ではロックの入り口が少ないと思うんです。この映画を、ストゥージズを、ロックの入り口にしてくれるといいな」と締めくくった。

『ギミー・デンジャー』は新宿シネマカリテほか全国にて順次公開中。