ノア・バームバック監督

映画祭5日目の21日(日)。本日“コンペティション”部門で正式上映されたのは、アメリカのノア・バームバック監督の『ザ・マイヤーウィッツ・ストーリーズ(ニュー・アンド・セレクテッド)』とフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督の『ル・ルトゥタブル』の2本。

招待部門にはジョン・キャメロン・ミッチェル監督作、フランスの実力派俳優エリック・カラヴァカが初監督したプライベート・ドキュメンタリー、クロード・ランズマン監督の北朝鮮ドキュメンタリー、ホン・サンス監督作など多彩な作品が登場。“ある視点”部門では黒沢清監督の『散歩する侵略者』とイタリアのセルジオ・カステリット監督の『ラッキー』を上映。さらにはクリント・イーストウッドによるマスタークラス(講義)も行われた。

◆ノア・バームバック監督の『ザ・マイヤーウィッツ・ストーリーズ(ニュー・アンド・セレクテッド)』も“Netflix”絡み!

『イカとクジラ』『フランシス・ハ』『ヤング・アダルト・ニューヨーク』など、自身の地元であるニューヨークのブルックリンを舞台にした秀作コメディで知られるインディペンデントの映画作家ノア・バームバックのカンヌ初登場作にしてコンペ選出作となった『ザ・マイヤーウィッツ・ストーリーズ(ニュー・アンド・セレクテッド)』は、芸達者なキャストの掛け合いが見事な家族ドラマの秀作である。

著名なアーティストである父の回顧展のため、成人した息子・娘たちがニューヨークに集まり、家族は久々の再会を果たすが……。年老いてもなお、影響力を振る尊大な父(ダスティン・ホフマン)に振り回され、自分の価値を見いだせずにいる腹違いの子供たち(アダム・サンドラー、ベン・スティラーら)が葛藤する姿をコミカルかつテンポ良く綴った物語なのだが、本作も“Netflix”絡みのため、朝の8時30分からの上映時には『オクジャ』と同様にブーイングと嘲笑が渦巻いてしまった。

そして、上映に引き続き11時から行われた『ザ・マイヤーウィッツ・ストーリーズ(ニュー・アンド・セレクテッド)』の公式記者会見には脚本も兼務したノア・バームバック監督、俳優のアダム・サンドラー、エマ・トンプソン、ダスティン・ホフマン、そしてベン・スティラー(出席予定表には名前がなかったので嬉しいサプライズ!)が登壇した。

『ザ・マイヤーウィッツ・ストーリーズ』の公式記者会見

会見では、ダスティン・ホフマンが質問が発せられる度に茶々を入れ、反りの合わない異母兄弟に扮したアダム・サンドラーとベン・スティラーが喧嘩シーンを振り返って応酬し合ったり、ベン・スティラーが「ホフマン御大もオーディションに参加して起用されたんだよ」と冗談発言をしたりと、終始ジョークが飛び交う和気あいあいの会見で、“Netflix”問題もサラリとかわす大人の対応であった。

◆ミシェル・アザナヴィシウス監督の『ル・ルトゥタブル』の主人公はヌーヴェル・ヴァーグの旗手ジャン=リュック・ゴダール!

『ル・ルトゥタブル』の公式記者会見

映画祭開始直前に招待上映部門からコンペ部門に格上げされた2011年のカンヌ初登場作『アーティスト』で、ジャン・デュジャルダンに男優賞をもたらして勢いに乗り、米アカデミー賞をも制したフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督。2014年の『あの日の声を探して』に続き、3度目のコンペ参加作となる『ル・ルトゥタブル』は、ジャン=リュック・ゴダール監督と彼の元妻アンナ・ヴィアゼムスキーの恋愛模様を描いた作品で、原作はアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝小説だ。

1967年、映画監督のジャン=リュック・ゴダール(ルイ・ガレル)は、自作『中国女』に主演した20歳ほど年下の女優アンヌ・ヴィアゼムスキー(ステイシー・マーティン)と結婚。そして翌年の五月革命を機に、毛沢東主義のアーティストとみなされるようになったゴダールは……。当時のゴダール作品に特有のポップなセンスや色彩、美術、そして背景となる“政治の季節”の雰囲気までをも見事に再現して魅せた作品で、ルイ・ガレルが特徴的なヘアスタイルのゴダールを飄々と演じている。

夜の正式上映に先立ち、12時30分から行われた公式記者会見には、ミシェル・アザナヴィシウス監督とプロデューサー、キャストのルイ・ガレル、ステイシー・マーティン、ベレニス・ベジョが登壇した。
脚色も兼務し、本作で監督初期のコメディ路線に立ち返ったミシェル・アザナヴィシウス監督は、原作について「若い女性の視点で語られた物語で、とってもファニーな本なんだ。幸いにも原作者が快諾してくれたので、殆どのシチューエーションを変えている」と述べ、「これは60年代、良き時代のコミカルなラブストーリーなんだ」と言い添えた。

一方、映画祭初日の『イスマエルズ・ゴースツ』に続き、2度目の公式記者会見となった売れっ子俳優のルイ・ガレルは、主役を張った本作を「ジャン=リュック・ゴダールを画家のカラヴァッジョ的キャラで描いたコメディ」だとし、「ゴダールは言葉を破壊し、僕らは言葉を作り上げるのさ」とコメント!

(Text & Photo:Yoko KIKKA)