ポン・ジュノ監督

快晴が続いている映画祭3日目の19日(金)。“コンペティション”部門では、韓国のポン・ジュノ監督の『オクジャ』とハンガリーのコーネル・ムンドルッツォ監督の『ジュピターズ・ムーン』が正式上映。“ある視点”部門で2作品、招待作品3本が上映された他、“カンヌ・クラシック”部門には大島渚監督の『愛のコリーダ』が登場!

◆鬼才ポン・ジュノ監督の初コンペ作『オクジャ』は、“Netflix”の潤沢な資金で製作された一大娯楽大作!

2006年の『グエムル 漢口の怪物』が“監督週間”で上映され、一躍脚光を浴びたポン・ジュノ監督。続いて2008年の『TOKYO!』と2009年の『母なる証明』の2作が、“ある視点”部門に選出され、大いに気を吐いた韓国の鬼才が満を持してコンペに初参戦した。

“Netflix”の潤沢な資金によるスケールの壮大さと最新VFX技術の駆使、そして豪華なメジャー俳優の共演も大きな話題となった『オクジャ』は、韓国の人里離れた山奥で10年間、遺伝子操作で開発された巨大な動物“オクジャ”を大切に飼育してきた素朴な少女ミジャ(アン・ソヒョン)が、故あって大都会ニューヨークへと渡り、多国籍企業ミランド社のCEO(ティルダ・スウィントン)の陰謀に立ち向かう姿を特殊な動物愛護団体の動きも絡めて活写した一大エンターテインメント大作だ。

朝の8時30分からの上映(オープニング・クレジットに“Netflix”のロゴが映し出されるや、場内にブーイングと笑い声が巻き起こった!)に続き、11時から行われた本作の公式記者会見には、ポン・ジュノ監督とプロデューサー、出演俳優のティルダ・スウィントン、ジェイク・ギレンホール、ポール・ダノ、リリー・コリンズ、アン・ソヒョン、スティーヴン・ユァンが登壇した。

当然ながら会見では、映画館では鑑賞できない“Netflix”製作のオリジナル作品であることに関する質問が多かったが、ポン・ジュノ監督は韓国ではスクリーン上映されると断った上で、“Netflix”に対して「大きな額の製作費をポンと出してくれた上に、撮影にも編集にも口を挟まず、完全な自由を与えてくれた」と感謝し、映画祭初日に行われた審査員会見でのペドロ・アルモドバルの発言に対しては、「今夜、彼が本作を観てくれることが嬉しいよ。彼の大ファンなので、何を言ってくれても構わないです」とコメント。

また、ブラジルの記者から宮崎駿監督からの影響を問われるや、多大な影響を受けたと語ったポン・ジュノ監督のみならず、大物女優のティルダ・スウィントンも宮崎監督の大ファンだと明かして、熱弁を披露。宮崎監督の褒め合い合戦の体をなす会見と化していったが、最後に、登壇者全員に“ペットとの関わり”を聞くというユニークな質問が飛び出して、お開きとなった。

『オクジャ』の公式記者会見
『オクジャ』の公式記者会見

◆コーネル・ムンドルッツォ監督の『ジュピターズ・ムーン』は、シリアスな難民問題を背景にして描いた異色のSFファンタジー!

コーネル・ムンドルッツォ監督

2014年の『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』で観客の意表&度肝を抜き、“ある視点賞”部門最優秀作品賞に輝いたハンガリーの鬼才監督コーネル・ムンドルッツォのコンペ初参戦作『ジュピターズ・ムーン』は、シリアスな難民問題を背景にして描いたSFファンタジーの異色作だ。

不法に国境を越えようとした難民の青年アリアンが、警官に発砲されて負傷する。ところが、そのショックにより、地面から浮き上がって空中を漂よえる能力を得た彼は……。何よりも本作は、その驚異的な“浮遊描写”が出色で、アメコミヒーロー映画のスピード感あふれる飛翔とも、無重力空間の宇宙遊泳とも全く異なる描写の映像マジックに目が釘付けになってしまった。

夜の正式上映に先立ち、12時30分から行われた『ジュピターズ・ムーン』の公式記者会見にはコーネル・ムンドルッツォ監督とプロデューサー、女性脚本家、アリアン役のゾムボル・レジェ、難民キャンプの医師役のメラーブ・ニニッゼが登壇した。

12~13歳の時に接したロシアのSFコミックブックが本作のアイディア・ソースになっていると述べたコーネル・ムンドルッツォ監督は、その圧巻の空中浮遊描写について「リハーサルを重ねて“浮遊感”を振り付けしていった。さらにリアル感も追求したかったので、クレーン撮影なども多用して工夫した」とコメント。

また、ベテラン俳優のメラーブ・ニニッゼが「ナイスなストーリーなので出演を決めた」と力強くコメントする一方で、主役に抜擢されたゾムボル・レジェ(演劇学校を卒業したばかりの新人俳優で、本作が映画初出演作!)が実にシャイで、終始うつむき加減だったのが印象的であった。

『ジュピターズ・ムーン』に出演した俳優二人


(Text & Photo:Yoko KIKKA)