『ワンダーストラック』の公式記者会見
『ワンダーストラック』の公式記者会見

映画祭2日目の18日(木)。見事に晴れ渡った本日、“コンペティション”部門で正式上映されたのは、アメリカのトッド・ヘインズ監督の『ワンダーストラック』と、ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『ラブレス』の2作品。そして招待作品部門には、名女優ヴァネッサ・レッドグレイヴの初監督作品、三池崇史監督の『無限の住人』(公開中)が登場!

“カンヌ・クラシック”部門では今村昌平監督の『楢山節考』など5作品を上映。また、映画祭オフィシャル部門の第2カテゴリーである“ある視点”部門、さらには映画祭の併行部門(主催団体が異なる)の“監督週間”と“批評家週間”も本日、開幕!

◆『ワンダーストラック』は、時代の異なるNYで起きる2つの物語が不思議な因縁で結ばれていく秀作ドラマ!

1998年の『ベルベット・ゴールドマイン』で芸術貢献賞を獲得し、2015年の『キャロル』ではルーニー・マーラに女優賞をもたらしたトッド・ヘインズ監督のコンペ参戦作『ワンダーストラック』は、「ヒューゴの不思議な発明」で知られる作家ブライアン・セルズニックの同名児童小説の映画化で、製作は“Amazon”スタジオだ。

トッド・ヘインズ監督

グラン・テアトル・リュミエールで、朝の8時30分から行われた『ワンダーストラック』の上映では、入場に手間取るほどのセキュリティ・チェックが試行され(会場入場前に荷物チェックが念入りに行われた上に、会場では空港と同様の金属探知機の下を通過!)で、会場付近は大混雑となった。

『ワンダーストラック』の主人公は、1977年のミネソタに住む少年ベンと1927年のニュージャージーに暮らす少女ローズの2人。ベンは会ったことのない父を探して、ローズは憧れの女優に会うために、それぞれニューヨークへと向かうが……。本作は、共に聴覚障害を持つ2人の物語を時代色たっぷりに描きながら交錯させ、2人の因縁をドラマティックに紐解いていく珠玉作で、共演はミシェル・ウィアムズ、ジュリアン・ムーア、コーリー・マイケル・スミス、トム・ヌーナンら。

上映に引き続き、11時から行われた『ワンダーストラック』の公式記者会見には、トッド・ヘインズ監督とプロデューサー3名、ミシェル・ウィアムズ、ジュリアン・ムーア、ミリセント・シモンズら俳優陣4名、そして本作で脚本家デビューを果たした原作者のブライアン・セルズニックが登壇した。

原作が実に独創的かつシネマティックな素材だったので、1927年のパートをモノクロでサイレント、1977年のパートをカラーで描くことを即決したというトッド・ヘインズ監督。セントラルパークで子役探しをした末にローズ役のミリセント・シモンズに出会った監督は、「この娘を見つけられて本当にラッキーだった。これ以上の適役はいない」とコメント。実際にも聾唖で映画初出演のミリセントは、ベタ褒めする監督に対する謝辞と撮影時の思い出を手話と豊かな表情で伝えた。

残念ながら、もう1人の主人公・ベン役のオークス・フェグリーは記者会見に参加しなかったが、ベンの親友の黒人少年ジェイミーを演じたジェイデン・マイケルが会見中、「クール!」を連発。そのおしゃまな態度で会場を和ませ、物語の鍵となる人物を好演したジュリアン・ムーアが発した「あらヤダ。意地悪な質問ねぇ~」も会場を沸かせた。

◆ロシア映画界を牽引するアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『ラブレス』は、リアリズム演出が光る“ある崩壊家庭の物語”

アンドレイ・ズビャギンツェフ監督

2003年の初長編作『父、帰る』でヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞を手にしたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督は、2007年の2作目『ヴェラの祈り』でコンスタンチン・ラヴロネンコにカンヌの男優賞をもたらし、“ある視点”部門で上映された2011年の『エレナの誘い』では、同部門の“審査員特別賞”を獲得。そして2014年の前作『裁かれるは善人のみ』でコンペ部門の脚本賞を受賞した強者監督である。

3年ぶりのコンペ参戦作となった『ラブレス』は、エゴを丸出しにする離婚直前の夫婦の姿をリアルに捉えながら、“未成年者の失踪”の多発が社会問題化しているロシアの現状を浮き彫りにした渾身作で、不穏な物語の行く末を映像で雄弁に語った寒々しいオープニングの自然景観ショットがまさに出色であった。

離婚を控え、自宅のアパートを売りに出している夫婦。夫には妊娠中の若いガールフレンドが、妻には彼女との結婚を熱望する裕福な恋人がいて、それぞれに新しいパートナーとの新生活の準備に忙しく、何かと口論が絶えない。だが、ある日、彼らがないがしろにしていた12歳の息子が、忽然と姿を消してしまう。ボリスとジェー夫婦は失踪した息子を探し出そうとして奔走するが……。

夜の正式上映に先立ち、12時30分から行われた『ラブレス』の公式記者会見には監督とプロデューサー、撮影監督、そして本作が監督との3度目のタッグ作となる夫役のアレクセイ・ロズィン、初出演となる妻役のマルヤーナ・スピヴァクの5人が登壇。
その席でロシアでの映画製作の難しさについて語ったアンドレイ・ズビャギンツェフ監督は、作品におけるランドスケープと建物の選び方(祖母の家のシーンなど)に対するこだわりと重要性についても強調し、賞レースへの自信のほどを滲ませた。

『ラブレス』の公式記者会見

(Text & Photo:Yoko KIKKA)