2006年版「この恋愛小説がすごい」1位に輝いた、島本理生原作の恋愛小説「ナラタージュ」を嵐・松本潤主演、ヒロインに有村架純、恋愛映画の名手・行定勲監督(『世界の中心で、愛をさけぶ』)がメガホンを取り映画化、10月7日(土)に全国公開となる。9月17日(日)、本作の監督を務めた行定勲と漫画家でコラムニストの辛酸なめ子、MCに女装パフォーマーのブルボンヌが登壇する、恋愛トークショー付試写会を実施した。

映画では、主人公であり離れて暮らしているけれど離婚が成立していない教師の葉山(松本潤)、そんな葉山先生をひたすら一途に想い続ける泉(有村架純)、そして、泉を好きになりながらも葉山を想う泉の気持ちに悩み嫉妬に狂っていく小野(坂口健太郎)という3人の恋模様が描かれる。三者三様のタイプの違う“愛する“表現が描かれるが、観客に一番気持ちが分かる人物は?を問うと、半数以上が「泉」に手があがる。しかし、行定監督と辛酸さんともに答えたのは、「葉山」。辛酸さんが「感情を見せずに相手が罠にかかるのを待ってるというような、自分からいかないズルさが表れていますよね」といい、その曖昧な態度という点では、行定監督も同じく「理解できる」と回答。「葉山は、何度も謝るじゃないですか。『ごめん』て憂いのある顔で。でも謝っても自分自身を変えようとしない」という葉山像を語る。葉山を演じたのは、国民的アイドル・嵐の松本潤。もっさり頭にメガネで曖昧な態度をとる葉山のイメージは松本さんとはかけ離れているが、「嵐の松本潤をまったくなくすこと」、それこそが狙いだったといい、松本さん自身も「その役、俺じゃなくていいことですよね?それ、面白いですね」と、出演を快諾したことを明かした。一方、ブルボンヌの回答は、「小野くん」。「相手に携帯を見せろって言ったり、感情を露わにされるとより理解できる。一回カーッとなって酷いことをいうけど、あとで謝ってしまうというシーンを見て、デジャブかな?って。映画ではイケメンの坂口くんが言うから許せるんですけどね」と自身の過去の恋愛と重ねながら、笑い飛ばした。

本作は、高校教師と生徒として出会った二人が、時が経ち再会した後、決して許されはしない、けれど、一生に一度しか巡り会えない究極の恋に落ちる様を描いた大人のための恋愛映画。その道の名手と言われる行定監督だが、「恋愛映画が一番役者に委ねやすい」と醍醐味を語った。葉山を全身全霊で愛する泉を演じた有村さんは、出演にあたり、「泉のようなディープな経験をしたことはなく、どういう表情を出せるか、監督が求めるものが出せるか、分からないし不安だけど演じてみたい」という思いから出演に至ったという。「(映画の中で)美しい表情と醜い顔、カッコイイところとどうしようもないなという顔がないと、ただの説明になってしまう」と行定監督が語る通り、素ではないかと思わせるほどのそれぞれの役者のカッコ悪い一面が映し出されている。

今回、観客からの恋愛相談を実施。「結婚と恋愛は違うんですか?」という質問に対し、行定監督は「違う!」と断言。本作で原作と映画との設定の違いの一つとして、小野の夢が「靴」職人ということ。それは、「靴は恋愛と似ているから」という脚本家の提案で、「小野君は靴を作るけど与えて強いている役割、泉は裸足になる権利もあって」と、登場人物の立ち位置の違いも表しているという。そこから、「靴はサイズがあってピッタリと思っていても、必ず靴ずれをする。靴ずれをしても気に入った靴は履き続けるけど、気に入らなかったら捨ててしまう。気に入ったものを履き続けるっていうことが「結婚」にあたるんです」と分かりやすく解説すると、会場全体から感嘆の声があがった。さらに、「大人の恋愛は、お互いが依存しあわない=自立している関係と思っているのですが、どう思いますか?」という質問が飛ぶと、辛酸さんは「自立して、お互い波動があって高め合える、人道的な関係じゃないですかね」と言うと、行定監督も「自立しているとそれはうまくいきますし、そうでないとうまくいかない気はします」と言うも、「映画は障害があるほどドラマチックになる。苦しい想いをしたら、そこから逃れようと、変化しようとするのですが、変化することって難しい。『ナラタージュ』は『変化しないこと』を描いています。それがリアルなんです。なかなか変化できないから、ズルズルとした関係になってしまう。縁があってはじまったことはなかなか終わらせられないのが大人の恋愛だと思います」と現実の恋愛について自論を述べた。

最後に、辛酸さんは「湿度が高い作品。水分によって、観ていると女性ホルモンが高まってくる。枯れていたのが蘇りました。映画を観てて思ったことは、女性は自分から追ってはいけないということです。男性の嫉妬とかズルさとか業が渦巻いた作品で、生態が理解できました」、行定監督は「いま見て理解できなかったとしても、時間をおいて見ると、見る度に分かってくる。それは成長したということです。映画を観て、似たような感情にふれたとき、きっと大人になったって分かるんじゃないかと思います。映画はきっかけを作っているだけで、観た後に考えてくれることが一番嬉しいです。分かりやすい映画が多い中で、分かりにくい映画ということで心に残る、考えさせられる映画もあるということを広めてもらえればと思います」と、力強くアピールし、イベントは終了した。