本日より『サーミの血』が新宿武蔵野館、アップリンク渋谷にて公開いたしました。
本作の公開を記念し、新宿武蔵野館にて、鈴木賢志さん(明治大学国際日本学部教授・一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長)、森百合子さん(コピーライター・北欧BOOK代表)をゲストにお迎えしトークイベントを開催しました。


■日時:2017年9月15日(土)15:15の回上映後
■会場:新宿武蔵野館(東京都新宿区新宿3-27-10 武蔵野ビル3F)​
■ゲスト:鈴木賢志(明治大学国際日本学部教授・一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長)
森百合子(コピーライター・北欧BOOK代表)

​北欧スウェーデンの美しい自然を舞台にサーミ人の少女の成長を描いた『サーミの血』が9月15日(土)より新宿武蔵野館、アップリンク渋谷ほかにて公開いたしました。
映画の公開初日を記念し、スウェーデンや北欧文化について詳しい明治大学国際日本学部教授で一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長の鈴木賢志さんと、北欧BOOK代表の森百合子さんが登壇、新宿武蔵野館にてトークイベントを開催いたしました。

本作は、北欧スウェーデンの美しい自然を舞台に描かれるサーミ人の少女が、家族、故郷を捨て自由を求めて奮闘する姿を描いた作品。
最初に映画を観たときの感想を鈴木さんは「スウェーデンというというか、北欧の国全般としても言えるのことですが、“理想の国”というイメージで、この映画を観るとショックを受けると思います。だから、日本の方がこの映画を観るとまず葛藤がおきると思うんですよね。私自身もすごく葛藤がおき、とても複雑な気持ちになりました。ただ、こういう“自国の闇”をきちんと理解し、問題提起していくことが、スウェーデン映画らしいと思いました」と述べると、
森さんも「本当にそうだと思います。スウェーデンというか、北欧のよさは、“自国の闇”を映像で伝えようとする動きが早いんですよね。それは社会的な問題もタブーとせず提起しやすい環境があるからだと思います」と鈴木さんの解説に激しく同調した。

映画で描かれている1930年代、スウェーデンの背景について鈴木さんは「”中立”という言葉から美化されがちですが、言い方を変えてしまえば半分ナチスと友達というような状況でした。同化政策の施行など当時のドイツへ憧れがあったのだと思います」と解説。森さんは「あの時代はとても劣悪で、みんなボロボロのアパートに住んでいました。今でいう「北欧ブーム」を指すような文化は1930年から40年にかけての改革でできたものです」​と説明。

スウェーデン教科書を翻訳したことがある鈴木さんは、教科書にSNSのことが書かれている事に触れ「日本だとSNSは情報収集のツールみたいな感じですが、スウエーデンの教科書には、発信するものと書かれていて、“自分の言葉が権力者に影響を与える”とはっきりと書いてあるんですよ。それがすごく浸透してきているので、“発信”することが上手になっています」とスウェーデンの発信力の高さを述べた。

年老いたエレ・マリャの髪型が、寄宿学校時代に習っていた先生の髪型に似せていると森さんは指摘。「出身地もその先生と同じ嘘をつき、つらい目にあいながらも、やっぱりスウェーデン人に憧れがあって、なりたい存在だったのかなと思います。そこがせつないところではあるんですけれど」と分析。また映画では描かれていなかったその後のシーンについて質問が出ると森さんは「エレ・マリャはとても身長が低いのに、息子さんは背が高ったので、かつて恋をしたニクラスのような男性と巡りあって結婚したんだと思いました。ちょっと能天気そうな息子さんがどこかニクラスと似ているし、孫はなんとなく妹のようであり、エレ・マリャはおそらく彼女が育ってきた家族と同様に、良い家庭を持てたんだろうと思いました。それはこの映画が描く悲しい歴史にエレ・マリャが呑み込まれることはなく、希望を与えてくれる」と解説した。

<プロフィール>
■鈴木賢志
1968年東京生まれ。専門は比較政治社会学。日本、イギリスの大学を経て1997年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所で研究・教育に従事。2008年に帰国し、明治大学国際日本学部教授。2015年より一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長を兼務。近著に『日本の若者は希望をなぜ持てないのか』(草思社)、『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む: 日本の大学生は何を感じたのか』(新評論)がある。

■森百合子
コピーライター。北欧BOOK主宰。北欧4ヶ国で取材を重ね、現地の暮らしや食を紹介する本を執筆。著書に『北欧のおいしい話』『3日でまわる北欧』(スペースシャワーネットワーク)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)など。著作活動の他に『北欧ぷちとりっぷ』などイベント企画や、テレビ・新聞・雑誌などメディア出演まで幅広く活動中。hokuobook.com