佐々木俊尚さん登壇!『旅する写真家』公開記念トークイベント「ドゥパルドンの人生が映し出される貴重な作品」!報道の視点から本作を語る!!
この度、ドキュメンタリー映画『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』(配給:アンプラグド)の公開を記念し、9月16日に佐々木俊尚さんをお招きしたトークイベントが行われました。
映画『旅する写真家』公開記念トークイベント
■日時:9月16日(土)
■場所:シアター・イメージフォーラム
■登壇者:佐々木俊尚さん(作家・ジャーナリスト)
本作は、フランスを代表する報道写真家・映画監督であるレイモン・ドゥパルドンが40年に渡って世界中を旅し、撮りためてきたフィルムの映像と、現在フランスの田舎町を撮り続けている姿を交互に編集したドキュメンタリー作品である。現在75歳のドゥパルドンが大判カメラを持ってフランスの田舎景色の写真を撮っていくドゥパルドンの姿と、過去に激しい報道写真を撮影してきた写真家としてのドゥパルドンの映像が交互に流れていく。そんな本作を作家・ジャーナリストとして活躍している佐々木俊尚さんが、この2つの構成はどう関係しているかを語った。
まず、報道写真家としてのドゥパルドンの映像について佐々木さんは、「いろんなシーンがありますが、その中でも印象的なものは“プラハの春”。共産党政権の圧迫がきつく、市民が立ち上がって抑圧から解放運動を起こした有名な事件ですよね。その一部始終をドゥパルドンは撮影していて、当時でもわからなかった様子が貴重な映像として映し出されています」と、本作の報道映像の中で貴重なシーンを伝える佐々木さん。その中でも1番の見どころシーンを聞かれると、「フロンソワーズ・クロストル事件ですね。フランス民俗学者のフランソワーズ・クロストルさんがチャドのゲリラに誘拐され、監禁された事件。彼女がどこにいるかも分からない中、ドゥパルドンがゲリラとの交渉に成功し、監禁されていた彼女へ取材した映像が流れます。取材をする中で彼女が『フランスの人たちに怒りを覚えている』と、誰も助けに来ない母国に対し泣きそうな表情でカメラにメッセージを訴えている姿を撮影しています。そしてドゥパルドンはフランスに帰り、取材映像をテレビで流します。そしてフランスでは『こんなことを我々は放置していたのか』と多くの人が気づく結果になりました。しかし一方で『取材して映像を撮るだけでどうして助けなかったのか』とドゥパルドンに対する非難が殺到し、ついには逮捕されるという結果となるんです」と衝撃な場面を語った。このような衝撃的な映像を撮ってきたドゥパルドンについて「目の前の出来事に手を出してしまった瞬間、報道としての域を超えてしまう。けれども報道カメラマンである前に人間なのではないかという考えに答えを出すのも難しい。そのジレンマの中で生きてきたドゥパルドンの人生も映し出される作品となっています」と、報道の現場にいたからこその視点で本作の魅力を伝えた。
また現在もカメラを持ち、旅を続けているドゥパルドンについて、「写真は常にセンセーションを求められるけれど、一方で淡々と撮っていても分かりにくいし伝わりにくくなってしまう。ドゥパルドンの写真はセンセーショナルがないのが特徴的で一瞬の劇的なものでもない。けれど不思議なのは、彼の写真はその瞬間の前と後のストーリーをほのかに感じさせるんですよね。本当に不思議です」とドゥパルドンの写真の魅力を語り、また「ドゥパルドンがふと『太陽がまだ高いな。だが待ちすぎると実物以上の写真になる。美しい光は危険なんだ』と言うんです。美しいドラマチックな写真を撮り続けると、本質から離れてしまう。だから美しくなりすぎないように写真を撮ることが大事だというドゥパルドンの哲学が浮かび上がる言葉が印象的でした」ドゥパルドンの言葉に惹かれたことを明かした。
最後にこの映画のテーマについて、「この作品は、始めに言った通り過去と現在の映像を交互に映しているんです。もしかしたら分かりにくい作品かもしれない。けれど我々は本作の報道映像の劇的なものを見る目と静かな風景を見る目を分けることが実はできないんです。“一点の視点でものを見続ける大切さ”というのがこの映画の一つのテーマになっていると感じます。ぜひ気に入って頂ければ嬉しいです」とメッセージを残した。
映画『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』は9月9日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開中。