心の境界線を見つめた映画『さよならも出来ない』第七藝術劇場にて舞台挨拶!(1)
※『さよならも出来ない』スタッフ&キャストの皆さん。後列右から斗内秀和さん、松野泉監督、龍見良葉さん、日永貴子さん、鶴岡由貴さん。
前列右から土手理恵子さん、長尾寿充さん、野里佳忍さん、上野伸弥さん。
9月1日、大阪市淀川区の第七藝術劇場にて映画『さよならも出来ない』の上映最終日の舞台挨拶が行われた。
登壇したのは松野泉監督、キャストの野里佳忍さん、土手理恵子さん、龍見良葉さん、上野伸弥さん、日永貴子さん、長尾寿充さん。
京都市、シマフィルム株式会社、株式会社映画24区が主催する映画の人材育成事業<シネマカレッジ京都>。2014年に行われた12回に渡る俳優ワークショップから映画『さよならも出来ない』が生まれた。
映画録音技師、映画監督、ミュージシャンの顔を持つ松野泉さんがワークショップ講師と監督を務めた。松野泉監督が参加者が出し合ったアイディアを元に脚本を書き上げ、2015年に撮影。その後、2016年11月にはプレミア上映となった第17回TAMA NEW WAVEでコンペティショングランプリ&ベスト女優賞(土手理恵子)を受賞。2017年3月には大阪アジアン映画祭でインターナショナルプレミア上映が行われ好評を博した。6月に京都・立誠シネマで一週間の劇場公開。8月26日より第七藝術劇場にて1週間の上映と共に連日ライブやトークショーなどのイベントを行って来た。
『さよならも出来ない』、言葉と感情の力
『さよならも出来ない』は、別れたあとも部屋を境界線で区切って3年も同居を続けている環(土手理恵子)と香里(野里佳忍)の2人と、その周囲の人々の心の動きが丁寧に描かれている。
舞台挨拶では観客から、劇中の元恋人たちと周囲の人物の演技が小津安二郎作品を思い出させる静かな口跡であるのに対して、出雲弁を話す叔母夫婦の演技はこなれており、その違いについて質問が挙がった。
主人公・環の叔母で柔らかな出雲弁と007並みの行動力を持つケイコ役を演じた日永貴子さんは、
「ちょっとした感情の機微や微妙な変化が消されないように、 最初から棒な感じで読むところからスタートしました。みんなそこをキープしてどんどん積み重ねていったんですけど、わたしと叔父さんは自分の芝居の癖が邪魔して。方言を棒で言うのが凄く難しかったですね(笑)」
スーパーマイペースで呑兵衛のケイコの夫を演じたのは長尾寿充さん。ワークショップは皆ほど熱心ではなかったと告白しつつ、
「小津安二郎という指摘は非常に鋭いですね。私が飲み屋で 敬礼するシーンがありますが、松野さんからリハの時に『秋刀魚の味』で出てくる敬礼を少し変えて行こうという演出があって、それはちょっとと思ったけど、私も小津安二郎が好きなのでやってみたら、やりすぎて本番であまりやらないでくださいと指摘を受けました(笑)」と撮影を振り返った。
しっかりしているのかおっとりしているのか分からない主人公・香里の姉のアオイを演じた龍見良葉さんは、
「感情をあまり込めない話し方をずっと続けて、自然と自分の中から出てくる感情が乗ってセリフが出るのであればOKとされていましたので、意識したわけではなく、自然な流れで棒読みに見える喋り方になっているじゃないかと思います」
キャストの言葉を受けた松野泉監督は、人生経験、演技経験ともにベテランの日永さんと長尾さんには、元々イントネーションがあり言葉にすることで表現が生まれる「方言」を敢えて使ってもらったという。
「自分の中で染み込んだ癖とかいうものがあり、ご自身で表現される言葉に対して何かしら確信があるものを変に押さえるのは逆に不自然じゃないかなと思ってお願いしました」
演技経験が少ないキャストへは、
「自分から何か表現しようとするんじゃなくて、芝居する相手のリアクションとして自分の表現があるというやり方をした方が自由にやれるんじゃないかと思って演出しました。それが不自由に見えたら僕としてはちょっと失敗かな」と演出意図を明かした。
時の流れが感情を生み出した『さよならも出来ない』のラスト
続いて舞台挨拶で出た各キャストのコメントを紹介していきたい。
環が不在でも頑なに境界線というルールを守り続ける生真面目な香里を演じた主演の野里佳忍さんは、元々俳優志望ではなく、監督か制作をやりたいと考えていた。ワークショップのことを知り、演出される側の立場で松野監督の演出術を身に着けたいと参加した。『さよならも出来ない』で役を全うしているように見えるならみんなに引っ張って貰えたからだと語る。
「みんなにはこれからどんどん活躍して欲しいなという思いがあります。自分が何を学べたのかというと、ご覧の通り 喋るのが苦手で人とコミュニケーションを取るのが得意じゃない方なんですけど、 ワークショップを受けて演技や演出、映画を通して人とどう向き合っていくかを学べました」
元カレの香里と境界線を引いた部屋で同居を続ける環を演じた土手理恵子さんは、野里さんの言葉に感銘を受けつつ、
「規模の大きい映画と違って、なかなか宣伝がうまくいかないこともあったんですけども、こんなにたくさんの方に観て頂けて嬉しいです。ワークショップから皆で一緒に作って来た時間がこの映画に反映されてると思います。もっとたくさんの方に見て頂きたいので、よろしければお友達に話して頂いたり、SNSを使って広めて頂いたり、ご協力頂ければありがたいです」
龍見良葉さんは、『さよならも出来ない』は2回以上見る観客がとても多いと語る。
「一度見ただけではすごくモヤモヤしてよくわからないって言う感想や、二度見たらすごく腑に落ちましたという感想を頂いたりします。今日ご覧になった方の中にもモヤモヤするような感情を抱いた方がいらっしゃったら、この後、東京と神戸で上映が続きますので、ご縁があればぜひ見ていただきたいと思います」
環の同僚で猛アプローチを掛けてくる西野浩を演じたのは上野伸弥さん。
「僕も一回目見た時よりも二回目の方がぐっときました。もどかしい話なんですけど、二人の過ごしてきた今までの時間が凄く見えるなぁと感じました。
ワークショップではずっとお芝居をするのではなく、お互いに自己紹介したり、人の話を聞いたり、手紙をそこに居ない人に向かって読むといった事をやりました。みんなのことがよく知れる大切な時間でしたが、それが映画に反映されているのを見て、本当に嬉しく思います」
松野泉監督は、今まで映画を作って来てこのように長い時間をかけて出演者と過ごしたのは初めてだったと語る。
「この映画で出演者がどういう風に映ってるのかは、ある意味僕の責任でもあるんですけど、僕自身は出演者皆が魅力的だったし、この映画のことが好きです。その気持ちが少しでも観客の皆さんに伝わればと思います。ありがとうございました」
最後にワークショップから生まれた『さよならも出来ない』ならではのエピソードを日永貴子さんの言葉で紹介したい。
日永さんは、映画のラストとシナリオのラストが違うことを明かし、
「あのラストは二人が撮影中一緒に過ごして、環と香里として 時を重ねて行った中での結末だったんです。私はそこが凄い素敵やなと思っていて。最後に監督がどうしたい?って聞いたら、ああなったんですね」
二人が選んだ結末とは?観客の皆さんにはぜひ劇場で見届けて頂きたい。
『さよならも出来ない』は9月9日より東京・K’s cinemaにて一週間の上映予定。同時に『音も、映画も、さよなら出来ない。~松野泉の仕事~』と題して東京公開記念特集も開催する。
その後は10月7日より一週間、神戸・元町映画館にて上映予定となっている。
(レポート:デューイ松田)
【続く(2)では主演の野里佳忍さん、土手理恵子さん、松野泉監督のミニインタビューを紹介!】