福山雅治主演・是枝裕和監督作『三度目の殺人』≪映画監督・是枝裕和×脚本家・坂元裕二≫ 「あのときに対談させてもらったことがすごく大きく残っている」 是枝監督が坂元裕二の『それでも、生きてゆく』から得たヒントとは?
この度、東宝・ギャガ共同配給による是枝裕和監督最新作『三度目の殺人』が、9月9日(土)より公開いたします。
『そして父になる』から4年、是枝監督と2度目のタッグとなる福山雅治を主演に、是枝組初参加となる名優・役所広司を迎えた本作は、監督が近年描いてきたホームドラマから一転し、かねてより挑戦したいと考えていた法廷を舞台にした心理サスペンスです。
勝ちにこだわる弁護士・重盛(福山)が担当することになったのは、死刑がほぼ確実な殺人事件。容疑者は、二度目の殺人を犯した男・三隅(役所)。三隅の供述は会うたびに変わり、動機は一向に見えてこない。やがて浮かび上がってきたのは、被害者の娘・咲江(広瀬)の存在だった。なぜ殺したのか?本当に殺したのか?二度の殺人を犯した男の深い闇。その先に待ち受ける三度目の殺人とは―? 映画史に残る心震える心理サスペンスが誕生しました。
この度、本作の公開を記念して、Apple 銀座で開催される「Perspectives」に、是枝裕和監督と「最高の離婚」「カルテット」などのテレビドラマや映画作品を多数手がける脚本家の坂元裕二が登壇し、トークセッションを実施致しました。「Perspectives」は影響力のあるクリエイターたちが自身のクリエイティブな制作過程を語ったり、才能を披露するToday at Appleの人気プログラム。是枝監督は「Meet the film maker」の際に『そして父になる』で登場、二度目のApple銀座での登壇となりました。イベントでは、本作の物語の魅力を互いの目線で語るほかに、是枝さんの映画と坂元さんが執筆したドラマの隠された共通点を語り合うなど、映画ファン垂涎もののトークが繰り広げられ大盛り上がり!イベントの後半では観客からの質問を受け、観客も大満足のイベントとなりました!
■登壇者(敬称略):映画監督 是枝裕和、脚本家 坂元裕二
■日時: 8月25日(金)
■場所: Apple 銀座 / 3F シアター(東京都中央区銀座3-5-12. サヱグサビル本館.)
<イベントレポート>
日本を代表する映画クリエイターの貴重な話を聞こうと映画ファンが押し寄せ、立ち見の出る程の満席の会場でいまかいまかと待ちわびる中、是枝裕和監督と坂元裕二さんのお二人が登場すると、会場からは大きな拍手が巻き起こり大盛り上がりの中イベントがスタート。
トークがはじまるやいなや坂元さんは「僕はもうすでに『三度目の殺人』を観たんですが、観れば観るほど、どんどん面白くなっていって、とてもよかったです。」と本作を大絶賛。早速、本作で演技合戦を繰り広げる福山さんと役所さんの出演のきっかけについて是枝監督へ切り込むと、それに対し是枝監督は「福山さんとは『そして父になる』のときから、いくつかやりたいとお話していたプロットがあったんですが、どれも着地しなかったんです。そこで、今回のアイデアを思いついて、A4用紙3~4枚のものでオファーしました。役所さんに関しては、そのあとのロングプロットになった時点でお声がけをしました。」と、台本が仕上がる前にオファーしたことを明かしました。
坂元さんは「これまで演じてきたどの役所さんとも違う印象でした」と感想を述べると、是枝監督は「役所さんは、演出家としては、一度向き合って勝負しないと一人前になれないんじゃないかと思うほどの方だと思うんです。」と心のなかでは覚悟が必要だったことを明かし、「特別な役作りをされるわけではないのに、きちんと、人殺しなら人殺し、弁護士なら弁護士、田舎の林業の教養がないのに人のいい男にみえたりもする。僕は初めてお芝居やる方と映画を作っていくことが多いので、役所さんはまだ早いなと思っていました。でも、去年役所さんから突然年賀状がきて”そろそろですね”って書いてあってので、こういうのは縁だから、これならできるなって思って、オファーしました。」と、役所さんとの仕事に踏み込んだきっかけについても言及。
脚本はあてがきで執筆することが多いという是枝さんに対し、「あてがきってよくわからないんですよね。どんな感じですが?」と坂元さんが問うと、是枝監督は「基本は声なんですよ。オーディションでいろんな方に会った後に、脚本を読むと、声が浮かぶ人と、浮かばない人がいるんです。そこである人の声で登場人物が動き出すと、次第にその人であてがきになっていくんですよね。」と、キャストの声を頼りに物語を組み立てていくといい、弁護をするうえで真実は二の次と考える冷徹な弁護士・重盛を演じた福山さんについては「福山さんは基本エンターテイナーで、撮影以外でも周りを楽しませている明るい人なんですけど、あてがきしていると嫌なやつになっていくんですよ(笑)。嫌なセリフを話すときの蔑んだ感じとか語尾の雰囲気がうまいんです。」とコメント。
また、本作で描かれる、役所さん演じる殺人犯の三隅と、坂元さんが脚本を執筆したドラマ「カルテット」の松たか子さん演じる真紀というキャラクターの謎の残し方が似ていると明かす二人。是枝監督は松さんの演技力に圧倒されたようで「松たか子さんが演じられているキャラクターがメインの4人の中で、背景が大きくて、その埋め方がすごいなって思っていました」と絶賛し、坂元さんも「松さんは日本一のコメディエンヌだと思っていて、彼女がいれば確実に笑いがとれると思っています。何を投げても打ち返せる人なんだろうなってわかっていたので役に関して気を使っていなかったですね。」と、役所さんと同様、複雑な役を演じるうえで、大きく信頼を寄せていたことを明かしました。
さらに、是枝監督は、本作と坂元さんとのもう一つの共通点として、坂元さんが脚本を執筆したドラマ『それでも、生きてゆく』を挙げ、「坂元さんは、三崎文哉(風間俊介)を書きながら、自分が彼をどう理解しているのか、もしくは瑛太さんや満島ひかりさんが演じるキャラクターに対してどう理解しているかを探りながら、人物像を作られているじゃないですか。僕は、福山さんが三隅のことを理解できるのか、できないのかの前に、僕自身が理解できないところも残したいと考えていたところでヒントになったのが、坂元さんの風間俊介さん演じる三崎文哉に対するそういったスタンスなんです。あのときに対談させてもらったことがすごく大きく残っていて、今回の演出にも反映しています。」と、本作の脚本を執筆するうえで、坂元さんから大きな影響を受けたことを明かし、「僕は三隅がどういう人物なのか、脚本を執筆する上で理解しようとしていたんですけど、結局途中でわからなくなってきてしまって。そんな状況の中で、目の前で役所さんが演じた瞬間に、あれこんな人を僕は書いたのかなって思ったんです。それで、演技がうまいってこういうことなんだなって思いましたね。今回は役所さんから生まれたものを見逃すまいと必死だった気がします。台本には特に何も書いていないのに、何でここで笑ったんだ?って、撮影が終わる度、台本を読み直したりしたんですけど、そう思う時点で僕も役所さんにハマっているんです。役所さんに聞いたら、台本に書いてますよって言うんですよ。こわくなりますよね(笑)」と語りました。
ここで一般の方が、お二人へ直接質問ができることに!
以下、質問タイム。
Q,(是枝監督へ)映画を通して、一番表現したいことは何でしょうか?
是枝監督「難しい質問ですね…。個々の作品で自分に問いたいことは毎回あるのですが、『三度目の殺人』だと、人は人を裁けるのか。人は人をどこまで理解できるのか、っていうことを考えてみたいと思って撮りました。」
Q,お金がもらえなくても、映画を撮って、脚本を書きますか?
坂元さん「脚本は設計図だと思っているので、それをただ書いていても楽しくないんです。僕は俳優さんに演じてもらうことが好きなので、そうならないのならば書かないかもしれませんね。」
是枝さん「僕はモノを書いて飯を食えるようになりたいって大学の時は思っていました。映像をやりたいっていったときに、親には苦労するから趣味にすれば?って止められたのですが、僕にとってはそれで食えるようになろうっていうのは目標でしたね。」
Q,お二人の作品には毎回名言や名シーンがあると思います。執筆するうえで、視聴者へのメッセージは意識していますか?
坂元さん「僕は、物語に自分が出ないようにって心がけている。登場人物が語りだすことが大事だと思うから、メッセージというのはそのさらに下のところに存在していると思っています。」
是枝監督「僕も坂元さんが話すように、登場人物が話している世界のメッセージ化されていないところに、僕らが意識していない伝えたいことや、逆に伝わってしまうものがあると思うんです。僕はそういうことがあるものがいい作品なんだろうなって思っています。」
以上