2009年の作品発表時、世界の国際映画祭・映画賞で25以上もの賞に輝き、2010年の日本公開時にも、大きな話題を呼んだ『息もできない』。  この度、7月19日に9周年を迎えた新宿ピカデリーにて、この伝説の映画『息もできない』の三夜限定(8/7、8/8、8/10)上映&トークショー開催! 

記念すべき第一夜である8月7日(月)には、本作の製作・監督・脚本・編集・主演を務めたヤン・イクチュン監督と「聖の青春」での演技で数々の映画賞を受賞、「あなたのことはそれほど」など主演ドラマの好調も記憶に新しい東出昌大さんが登場!
かねてより、『息もできない』のファンであった東出さんはヤン・イクチュンとの初対面に大興奮!「全シーン全カットに魅力されました。一番好きな韓国映画です!」と熱く語るなど、俳優と監督、また俳優同志として、話が尽きないイベントとなりました。

◆日時:8月7日(月)◆会場:新宿ピカデリー スクリーン6
◆登壇者:ヤン・イクチュン、東出昌広(俳優) MC:伊藤さとり ※敬称略


『息もできない』上映後、MCの呼び込みで大きな拍手の中、ヤン・イクチュン監督、東出昌広さんが登場。このイベントにあわせて来日したヤン・イクチュン監督は「このように観に来てくれてありがとうございます。この映画は日本で2010年公開されまして、このように観客の皆様にお会いするのは久しぶりです。そして撮影したのが2007年なので、10歳年をとりました。スミマセン」と日本語を交えて挨拶。 続いて東出さんは「今日は新宿駅前で台風中継やっているくらいの悪天候の中、足を運んでいただきありがとうございました。素晴らしい映画を観た後なので皆さん余韻に浸りたいところだと思いますが、僕もヤン監督とお会いできる機会がなかなかなかったので、今日はいちファンとして掘り下げてお話できればと思います!」と挨拶し、トークがスタートしました。

MC:まず東出さんは、本作のどんなところに魅了されたのですか?
東出:
そうですね、全シーン、全カット素晴らしくて、普段から韓国映画拝見していますが、一番好きな韓国映画です!しゃべりにきたんだけどしゃべれなくなってしまうというか、どこから突っ込んでよいかわからないくらい素晴らしいです。(ヤン監督が自ら資金を集めて実現した映画ということには)想像が及ばないです。
ヤン監督:
そんな風にいっていただけて、本当に感謝しています。この映画のシナリオを描いたのが2006年、自分でシナリオを描いて、演技もして、撮影もして、演出もしたということが今となっては夢のようなことで現実感がなかったのですが、東出さんや観客の皆さんにお会いして現実感がわいてきました。今日東出さんに会えるということで、『桐島、部活やめるってよ』を拝見しました。俳優や監督にとっては初期のころの作品が大事だと思って。東出さんは、演技をするときに何かあえて表現しようというのではなく無表情の中にも重みを感じられて、そんな演技が印象的でした。私もあと身長が10cm高ければ、東出さんのようにかっこよく表現できるんじゃないかな、と思うんですが、僕の場合は本当に苦労しなければなりません(笑)
東出:
この脚本はどうやって書かれたのですか?
ヤン監督:
まず、真っ先に書いたのがオープニングのシーン。蛍光灯で殴って、自分が助けてあげた女性に唾を吐いたりする場面です。これは福岡のある人口の湖があるところで書いたんです。当時、短編映画の演出をしている友人が福岡にいて、そこに出演してほしいと依頼されて10日間くらい滞在しました。撮影の合間、3日間くらい時間があるときに街を歩いていたら、あるおじいさんが釣りをしていて、そのそばでは鶴が飛んでいたりとすごく平和な光景をみた。そんな中でどうして自分があんな暴力的な場面が思い浮かんだのかはわかりませんが(笑)。韓国へ戻って、インディーズ映画を紹介する番組MCをやったり、演技の講師の仕事をする中で、なんだかすべてが面倒になってしまって、仕事を辞める理由として“シナリオを書く”と(笑)。でも実際にこのシナリオが自分の心にスッと入ってくることがあって、オープニングシーンを膨らませ2か月半かけてシナリオを仕上げました。 私は実際に目にしたり、経験したことを書き連ねていきます。私が幼かった時代は、全斗煥や盧泰愚といった暴力的な大統領がいた時代で、その当時の暴力というのは家族にまで影響を及ぼして、暴力に影響を受けた社会が存在していた。もどかしい状況で、無意識のうちにそれを解消したいという思いがあった。演技ではそれを解放することができず、何かほかの方法でそのもどかしさを解放したい、その思いがシナリオや演出となって解消することになりました。
東出:
本作にでている俳優さんが皆さん真に迫った演技をしていて、韓国の映画業界では俳優さんは何か共通のメソッドをどこかで訓練されて現場に臨んだりしているのですか?キム・コッピさんもお若いのにすばらしくて、どのようにキャスティングされたのですか?
ヤン監督:
キム・コッピさんのことで思い出したのですが、当時本当にお金がなくて。シナリオを書いているときは実は別の女優さんを当て書きしていて、撮影に入る段階にその女優さんの事務所に依頼しギャラ交渉したら向こうは「500万ウォン」と。でもこちらは用意できたのが300万ウォンで、予算オーバー。つまり200万ウォン(日本円で約20万円)の差のためにキム・コッピさんがキャスティングされました!(会場大爆笑) 実は私はこの映画を撮影する2年前にコッピさん出演の短編をみていて、その映画でコッピさんには全くセリフがなかったのですが、強い印象を受けたんですね。そんなことを思い出してお願いすることにしました。私がキャスティングするときには、遠くにいる俳優さんではなく身近にいる俳優さんから探すことが多い。これまで無名時代含め仕事をする中で出会った人や一緒に作品をやった人の中からキャスティングをしました。
私は演技をするときや演出をするとき、現場でのリハーサルや台本の読み合わせをして練習をするのが好きではないんです。一番最初のテイクが好きで、初めて経験するという意味があると思って。自分自身演技をするときもリハーサルなしですぐに本番に入るタイプです。だから『息もできない』の撮影序盤数日は、俳優から「どういう風に撮影するのか説明してくれ!話してくれないと困ります」と抗議がきました(笑)。映画の中でファンギュという役をしていた俳優さんが、3回目くらいの撮影のときに(劇中にも出てくる韓国語で)チクショーと言う感じの悪い言葉なんですが、それを言いながら「どういう風に撮るかいってくれないとわからないじゃないか!」と声を荒げていました(笑)
MC:東出さん、今のお話を聞いて、もしヤン監督のもとでお芝居をすることになったらどうですか?
東出:
そんな機会が与えられるなら、すごく嬉しいですし楽しみです!日本にも(ヤン監督のようなスタイルの)監督さんもいらっしゃいますし、役者としてはそういうスタイルも嬉しいっていう方も多いのでは。

MC:そして観客の皆さん、この二人が共演したら最高だと思いませんか?
東出:
(観客からの大きな拍手を受け)もしそんなお話があるのならばありがたいです。どんな役でもがんばります。
ヤン監督:
もし共演が実現するのであれば、私が『ロード・オブ・ザ・リング』のようにCGで東出さんをホビットに、私をガンダルフにして、一緒に出演できたらうれしいです。(との話には東出さんも会場も大爆笑)
東出:
ヤン・イクチュン監督は、日本でもこれまで『かぞくのくに』やこれから公開の『あゝ、荒野』に出演されたり、韓国でのご活躍もさることながら日本と韓国の橋渡しをしてくださる方だと思います。韓国映画や台湾映画にはとても素晴らしいものが多くて、合作をすることに意義があるのではなくて、国境をまたいで、色々な(政治的な)境界をまたいでお互い手をとりあって、芸術分野で互いに頑張れるというのは素晴らしいことだと思うし、僕らも映画やドラマを作る側の人間なので、尊敬しつつ、こちらもがんばって尊敬される役者、クリエーターになれればと思います。

最後に、ヤン監督が俳優として出演する最新作『あゝ、荒野』(前篇10/7、後篇10/21公開)について「昨年撮影しましたが、当時は今より10kg痩せていました(笑)その際はボクシングも運動もがんばって、菅田(将暉)さんと熾烈な戦いを演じました。この作品が観客の皆さんにどう伝わるのか気になっています」と話すと、東出さんも「絶対みます、皆さんも観ましょう!」と即答するなど、東出さんはヤン監督との初対面の機会を終始楽しんでいる様子が印象的。本作のファンを代表するかのように色々な質問を投げかけ、ヤン・イクチュン監督も当時を振り返りながらの興味深い話が続き、MCからトークの終わり時間が近づいていることが告げられると、「ウソだー。まだまだ聞きたい!」と東出さんが思わず言ってしまう一幕も。

このあと『関ヶ原』『散歩する侵略者』と出演作の公開が相次ぎ、現在は「脚本がすごく良くてクランクインが待ち遠しかったと思った大人の恋愛ものです」と話す濱口監督の新作(『寝ても覚めても』)を撮影中という東出昌大さんと、ヤン・イクチュン監督の初対面トークは同じ映画人として、互いへのリスペクトも感じられ、ときにユーモアも交えながら熱く盛り上がったイベントとなりました。