第 69 回カンヌ国際映画祭でフィリピン映画界に三大映画祭で初めての主演女優賞をもたらした『ローサは密告された』が公開となりました!公開後には、「ものすごくリアル」「隠されていた感情のうねりが徐々に大きくなってラストに結実」
「フィリピン警察のやらかし具合は酷いなんてもんじゃない」「びっくりするほど面白かった」と熱量たっぷりの感想がならびました!

本作は、第69回カンヌ国際映画祭で、クリステン・スチュワート、シャーリーズ・セロン、イザベル・ユペールらを抑えて、ローサを演じるジャクリン・ホセにフィリピン初の主演女優賞をもたらした。監督は、45 歳のデビュー作「マニラ・デイドリーム」で 2005年ロカルノ映画祭ヴィデオ・コンペ部門金豹賞を受賞し、「第3黄金期」と呼ばれるフィリピン映画界を牽引しているブリランテ・メンドーサ。世界三大映画祭のコンペ常連であり、
カンヌ国際映画祭監督賞のほか、世界中で50を超える賞を獲得し、タランティーノやショーン・ペンがその才能を絶賛するなど各国の映画人から高い評価を得ている。

本作に惚れ込んだ2人が『ローサは密告された』を独自の視点で解説!!超貴重なトークイベントの様子をお伝えいたします。


【丸山ゴンザレスさん 7/29 実施イベント内容】
初日29日には本作を「異様なリアリティがある」と指摘、いま日本で最も危険地域を知る男と言っても過言ではない人気ジャーナリストの丸山ゴンザレスさんが登壇!

驚愕1 スラム街の住人はみんなデブ?!
「スラム街が本当にリアルでした。ちょっと違う点は、スリムな人はもっと少ない。ジャンクフード食べてるのでみんなデブです。(笑)」と冒頭から会場を笑いの渦に。

驚愕2 善悪の価値観が全くちがう!
「フィリピンを訪れる度に思うのは“頭で理解するものじゃない!” ということ。それほどにフィリピンは日本と善悪の価値観は全く違います。
いいとか悪いとか正義とか二の次です。個人や家族のメリット、自分たちの利益が第一なのです」

驚愕3 シャブ(麻薬)は日本人でも買える!
麻薬事情について聞くと、「日本人であってもフィリピンでは麻薬は簡単に手に入れることできます」というゴンザレスさんの発言に会場は騒然!
「僕の知り合いにシャブ中がいるのですが、よくフィリピンで仕入れているそうです。英語ができてコミュニケーション能力があれば大丈夫。
ローサがいるような“サリサリストア”(雑貨店)の人たちが売人の仲介してくれます。でもフィリピンのシャブは国産なので質が悪いらしいです。
なので、「注射はやめとけ!炙りにしろ!」ってよく言われてますね(笑)と日本では信じられない身近な麻薬事情を明かしました。

驚愕4 警察が一番信用できない!驚きの捜査方法
警察と関わったことありますか?という問いには「もちろん。この前、仲良く散歩しました(笑)」とまたもやオドロキの発言が!
「日本人だと分かると、すぐ難癖つけてお金を要求されたりと、警察は全く信用なりません。そもそも途上国の警察は、そんなに頭が良い人が就く職業ではないです。
警察になるための試験は簡単で、多くの人が目指すんです。だから日本と比べて警察の質が悪い」と、警察が抱える問題についても言及。
「そして一番問題だと思うのは警察が“密告”を捜査の手法に取り込んでいるのです。日本みたいな科学捜査より目撃情報などを重視しています」と警察システム自体も警察の腐敗を一要因であることを指摘しました。

観客の質問にお答え!Q&Aコーナー!
衝撃のスラム街の現状をみた直後の観客がゴンザレスさんに直接質問!
Q最後にローサが食べていたものはなに?
A“フィッシュボール”というツミレみたいなものです。どこにでもあります。監督になぜ選んだのか聞いてみたんです。
その場ですぐに食べれるものだったから、と言っていました。でも、ソースはマズいんで、つけないでくださいね。(笑)

Q子どもが警察署にいるのは当たり前のことなの?
A言い方に語弊があるかもしれませんが、フィリピンの子供の命は軽いです。稼げるまで成長しないと意味がない。もちろん、ストリートチルドレンもいますが、
親がいても食わせてもらえない子もいます。そういった子どもたちが自分で食べ物探すために居座ってるんです。意外に快適なんですよ。

Qローサ家族がかき集める5万ペソって日本円にしてどれぐらい?
Aおおよそ11万〜12万ぐらい。ひと家族の年収ぐらいです。日本円でいうと2〜3万が月給。とんでもない額を請求しているのがわかると思います。

フィリピン警察や麻薬のオドロキの実態が次々と暴かれた刺激的なトークイベントとなりました!


【原一男さん 7/30 実施イベント内容】
「この映画を観て思ったことをお話ししようと思います」と、席に座らず、前のめりで語り始めた原監督。
30分間立ち上がったままで本作の魅力を語り大白熱となったトークイベント!

日本映画は「余命がまもなく…」という軟弱な映画ばかり!
昔、私が助監督していた浦山桐郎さんは「映画は人民のものである」と言いました。人民=市井の人々、つまり映画は貧困層を描くものでした。
しかし、世の中が豊かになるにつれて、誰も社会派映画を欲しなくなりました。今の日本は「余命がもうすぐ…」という難病でお涙頂戴な映画ばかり。
『ローサは密告された』を見て強く感じたのは「日本は変わってしまった!」ということでした。フィリピンに比べて日本は豊かになりました、でも「幸せか?」と言われると「ウーン…」となる世の中です。

映画作りには必須!?ワイロを使った過去の体験を告白!
映画の中で警察が当たり前のようにワイロを要求していましたが、私も、一回だけ撮影でワイロをつかったことがあるんです。
『ゆきゆきて、神軍』で奥崎謙三さんについてパプアニューギニアで撮影することになったんですが、カメラを持ち込むことができないと事前に言われてました。
でもワイロを渡したらいいんだよ、って教えてもらって。案の定、税関で止められて。「これで…」とお金を渡したら、簡単に通してくれました。
本当にワイロは当たり前のことなんです。警察たちは、決して私達に憎しみがあるわけじゃありません。給料だけでは生きていけない、だから小銭稼ぎする。
そんなシステムが成り立ってしまっているだけなんです。

クソみたいな社会を生き抜いてやる!ラストシーンに涙した!
今村昌平監督は「映画は人間を描くもの」といいました。私は、一言加えて「映画は人間の感情を描くもの」と理解しています。人間は社会に組み込まれて生きていきます。
その社会の中には必ず縛りや、矛盾がある。その仕組みを強いられるのは貧困層の人たちです。この映画では主人公の感情をとおして
「政治体制の矛盾、闇、社会のもつ歪み」を描き出しています。「クソみたいな社会を生き抜いてやる」という決意を感じられたラストシーンには、
思わず共感してもらい泣きをしてしまいました。どれだけ大変なことがあっても腹は減る。食欲というのは人間のエネルギーの根源です。素晴らしかった。

いまの映画技術+昔ながらの視線が合わさった=最先端の映画!
3台のカメラで撮っているそうですが、私が観ても分からないくらいに、自然に撮られていました。脚本も渡さない、まさしくドキュメンタリーの撮り方。
その結果、貧困層の人たちの息遣いが、リアリティをもって描かれていますよね。デジタルカメラで撮られる意義も感じられます。デジタルカメラは肉眼で感じられるより明るく写るんです。
だから本作も「ノーライト」(照明なし)で撮られています。場所がもっている光で表現できるのです。
本作は今の映画技術と昔ながらの視線が合わさった映画。まさしく“最先端”の映画だと思います。

最後に新作の話になり、「長年、『ゆきゆきて、神軍』で奥崎謙三さんみたいな政府に喧嘩をうるような人を探していましたが、どこを探してもみつかりませんでした。
今の時代の人々は非常にヌルく生きている!!」と原監督らしい喝が!「でもいま奥崎さんみたいな人が現代にいたら、ネットで炎上して、潰されてしまうのだろうな…」と
生きづらい今の世の中を嘆く場面もありました。

丸山ゴンザレスさん、原一男さん、お二人独自の視点で語られた、とっても内容濃いトークイベントとなりました。

【イベント概要】
日時:7月29日(土)、30 日(日) 両日ともに 13:30 の回上映終了後(上映時間 110 分)
場所:シアター・イメージフォーラム(渋谷区渋谷区渋谷2丁目10−2)

登壇者
29 日:丸山ゴンザレスさん(ジャーナリスト・編集者)
無職、日雇い労働などからの出版社勤務を経て独立。現在は国内外の裏社会や危険地帯の取材を続ける。
人気旅番組「クレイ ジージャーニー」に危険地帯ジャーナリストとして出演中。7/24 に新刊「世界の混沌を歩く ダークツーリスト」に出版。
《コメント》
一気に見逃し料の話をする警察の雑さ、商店街のタバコ屋などで覚せい剤を扱っている感覚など、
思わず「アレ知ってる!」と反応したくなる異様なリアリティがある。

30 日:原一男さん(映画監督)
『ゆきゆきて、神軍』『全身小説家』などの代表作を持つ伝説的な日本を代表するドキュメンタリー作家。
今年『ゆきゆきて、神軍』が 公開 30 周年を迎え、記念上映を行う。
《コメント》
フィリピン社会の持つ矛盾と腐敗、絶対的貧困。そして警察権力の賄賂の横行。 そんな唾棄すべき世界の中で、
そこでしか生きられない民衆に注ぐ映画人の優しい眼差し。 この作品の最大の見所は、庶民を見つめる作り手の優しい眼差し、そのものである。