時を越える傑作『砂の器』だからこそ、シネマ・コンサートで! 大谷信義・松竹会長と森田健作・千葉県知事の特別対談
日本映画史に燦然と輝く不朽の名作『砂の器』(1974年公開)が、話題のシネマ・コンサートに遂に登場。8月12日と13日に東京・Bunkamura オーチャードホールで上演される。
シネマ・コンサートは映画のセリフや効果音はそのままに音楽パートを生演奏するという、欧米発信の映画をライブ感覚で楽しむ新しいエンターテインメント。日本でも本格的なブーム到来となったシネマ・コンサートだが、これまで洋画作品の上演が中心。そんな中、満を持して日本映画の傑作『砂の器』が上演される。
本公演に先立ち、公開当時宣伝スタッフだった大谷信義・松竹会長と、犯人を追い詰める吉村刑事を演じた森田健作・千葉県知事の特別対談レポートが到着した。
『砂の器』といえば気鋭の音楽家・和賀英良(加藤剛)がオーケストラと共演するシーン、緊迫の捜査会議シーン、お遍路姿の親子が四季折々の全国を旅するシーンを交互に織り交ぜ、バックには本作のために作曲された組曲「宿命」が劇的に流れる圧巻のクライマックス40分。ところが、このような形に出来上がることを現場スタッフや出演者たちは想像できなかったそうだ。
後半の島根県・亀嵩のロケーションから参加した大谷会長は、「(野村芳太郎) 監督の頭の中には音楽がどう入ってくるかが、わかっている。でも我々や俳優さんには、それは知らされてないんです。後半であんな素晴らしい音楽が入ってくるなんて想像もしませんでしたから」と振り返る。
当時、青春ものを演じる事が多かった森田知事にとってシリアスな刑事役は初めて。野村芳太郎監督から「森田くん、台本をあまり読まない方がいいよ。読んじゃうと意識するから。青春ドラマのように溌剌とやれと!」と仰天の指示を受け、撮影現場では大いに戸惑った。「おかしかったら監督はダメだと言ってくれるだろうと、肩の力を全部抜いて」自然体で臨んだという。
野村監督の演出については「固めて演出するのではなくて、俳優さんにある程度自由に演じてもらって、それを組み立てていくというタイプの監督さんでした」と大谷。そんな野村流ともいえる独特の演出を象徴する撮影現場でのエピソードがある。高木理恵子(島田陽子)が列車の窓から散らした事件の手掛かりを吉村刑事(森田)が、這いつくばって探す“紙吹雪の女”のシーンだ。撮影は真夏の炎天下で行われたが、1日経っても2日経っても監督からOKが出ない。3日目にはさすがの森田知事も「ワタシの何がいけないんですか?」と問うと、「森田くん、あの雲の流れが気に食わないんだと」と返され焦れもピークに。「後からこのシーンを見ると雲なんか写ってない(笑)」。しかし3日間、森田知事を徹底的に追い詰めて撮った絵は「いい加減してくれよ!という顔にちゃんとなっているんです。これは大監督だな」と野村演出を感慨深けに振り返る。
また、今西警部補(丹波哲郎)と吉村刑事(森田)が捜査の進捗を焼き鳥屋で熱く討論するシーンでは、リハーサルから酒をどんどん飲めと煽られた。実は二人とも全くの下戸。充分に出来あがった状態での本番で丹波は『被害者三木のり平は〜』と喋る。この時の丹波の演技の凄まじさに誰もカットをかけない。終盤にようやく、被害者は三木”謙一”だと監督が気付いて撮影を止めたほど。
さらに捜査会議のシーンでは、『じゅんぷうまんぱん(順風満帆) 』というところを丹波が間違えて『じゅんぷうまんぽ』と喋った箇所があった。しかしながらこの時は迫真に迫る緊張感を大切にしたいと結局カットしなかったそう。
大谷会長は「(俳優にも)観客と同じ立場で、先が読めないまま演じてもらいたかったんでしょうね。横で見てると、あまりピリッとした演出にみえないこともありましたが(笑)。そこを大事にしたのではと思います」と野村演出を分析。
俳優もスタッフも手探りの中で撮影が進められた『砂の器』だが、完成試写を見た森田知事は「出てよかった!感動しました。同時に、もっと一生懸命にやればよかった。でも一生懸命にやらなかった事が良かったのかなとも思いましたが(笑)」と4回試写を見て4回とも感動して泣いたという。一方、大谷会長も「涙が止まりませんでした。暗い試写室だったのでハンカチを堂々と出して泣きました。また、監督に騙されていたんだな(笑)と。シナリオの段取り通りに撮っている現場では、この迫力は全くわかりませんでしたから。映画の持っているエッセンスを全部もってる作品」に感動を隠せなかった。
いよいよ開催が迫った映画『砂の器』シネマ・コンサート。大谷会長は最初にこの企画を聞かされた時に、なるほど!『砂の器』だから、こういう事ができるんだ!と膝を打った。「松竹にとっても大切な作品。でも決して古典ではなく、何年経ってもくり返し見られ、その時代の名作であり続けるからこそ」と話せば、森田知事は映像と音楽の生演奏の組み合わせに「よく考えたものだなぁ」と感服した。「(この作品の)音楽を生で聴きたいという人も多いはず。何よりもワタシがいちばん見てみたい!」とシネマ・コンサートに期待を寄せた。
映画『砂の器』シネマ・コンサートのチケットは一般席が完売し、現在一部映像が見えづらいコンサートシート(見切れ席)を販売中。詳細は公式サイトを参照。
プロフィール
大谷信義さん
1945年生まれ。慶応義塾大学卒業。68年に松竹入社、98年、社長就任。2007年、会長就任。数々の映画の制作を指揮したほか、歌舞伎座社長も務め、松竹の映像・演劇・事業部門を統括している。
森田健作さん
1949年生まれ。69年、松竹映画「夕月」でデビュー。ドラマ「おれは男だ!」などで俳優として活躍後、92年に参院選、98年に衆院選で当選。2009年に千葉県知事選初当選、現在3期目。
<映画『砂の器』シネマ・コンサート/公演概要>
日時:2017年8月12日(土) 開場16:30/開演17:00
8月13日(日) 開場13:30/開演14:00
会場:渋谷・Bunkamura オーチャードホール
上映作品:砂の器(松竹・橋本プロ=提携作品/1974年10月19日劇場公開)
上演時間:2時間23分(途中休憩:20分あり)/上映作は2005年リマスター版)
原作:松本清張 脚本:橋本忍、山田洋次 監督:野村芳太郎
音楽監督:芥川也寸志/作曲:菅野光亮
指揮:竹本泰蔵/演奏:東京交響楽団/
ピアノ:近藤嘉宏/コンサートディレクター: 和田薫
企画・制作:松竹・松竹音楽出版・PROMAX 制作協力:東京音楽工房
チケット価格(税込み):全席指定9,800円 コンサートシート(見切れ席): 7,800円
<映画『砂の器』シネマ・コンサート/公式サイト>
http://promax.co.jp/sunanoutsuwa/