”恐ろしい忘却”を選ばないために。映画『STOP』第七藝術劇場にて合アレンさん・中江翼さん舞台挨拶
十三・第七藝術劇場で公開中のキム・ギドク監督の『STOP』。
7月23日(日)、プロデューサーの合アレンさんと主演の中江翼さんの舞台挨拶が行われた。初日である7月22日(土)の舞台挨拶に続いて、急遽の登壇となった。
『STOP』は、福島原発事故を題材に、キム・ギドク監督が監督、撮影、照明、録音を全て一人で行った作品だ。ハードなテーマに接した鑑賞直後の観客をリラックスさせるように撮影時のエピソード、ハプニングなどが二人から紹介された。
キム・ギドク監督は韓国人、その他のスタッフ、俳優たちは日本人というチームでの撮影となった『STOP』。韓国語しか話せない監督のために通訳をつけたが、撮影現場に通訳がいない日にはGoogleの翻訳アプリでコミュニケーションを取ったと、スマートフォンやアプリが日常使いになった現代ならではのエピソードが語られた。
食事シーンでは監督が辛ラーメンを用意しており、辛いものにアレルギーがある中江さんがを食べられないと伝えたところ、「わかった」と答えた監督が、麺を水道の水でジャブジャブ洗ったエピソード、雨で曇ってしまった望遠レンズを監督が電子レンジで「チン」して焦げてしまったエピソードなどが披露され、観客の笑いを誘っていた。
また、東京都内でのゲリラ撮影にあたっては逮捕を心配する監督のために、中江さんの旧知のプロデューサーが、いざというときのために待機するなど、様々なスタッフの協力の元、作品が完成したという。
撮影の4日前に急遽主演のオファーが来たという中江さん。台湾で芸能活動をしていた経験から外国人監督との仕事に躊躇はなかったが、脚本を読んでこのままでは撮影に入れないと俳優としての責任を感じ、福島に出向いた。知事に面会し、現状を聞き、地域の状況を立入禁止の区域も含めて見学させてもらったという。
中江さんは原発事故について、
「日本だけじゃなく地球全体の問題だと思う」
後世の人たちが東日本大震災と原発事故を知るとしたら、歴史としてや教科書の一部としてでしかなく、この時代の日本人がどういったことを考えて生きてるかはわからないのではないか、と語る。
「俳優として何ができるか考えた時に演技することしかできないので、100年、200年後の方がこの作品を見て、当時の人ってこんな恐ろしい思いをしたのかと言うことを、少しでも心で理解してもらえればいいなと思っています。もちろん僕自身どうなってるかわからないんですけど、みんな問題ない生活を送れているといいなと思っています」
『STOP』は、キム・ギドク監督が原発事故直後に脚本を書き始め、外国人がこのような作品を作ってもよいのか、迷った末に3年後に制作を決めた。原発事故による奇形児というテーマが入っていたために制作の支援を受けられず、上映が決まるまでにも様々な困難があったとして、アレンさんから上映館に対する感謝の言葉があった。
「監督は大事なことを言っています。 私達人間には”恐ろしい忘却”と”生きていくための忘却”があると。どうしても私たちは日常生活の中で”恐ろしい忘却”を 選ぼうとしてしまいがちですが、まだほんの6年しか経っていないんです。
この映画については賛成反対色々あるでしょうけど、そのテーマを議論にあげることに意味があると思っています。本当の自由な感想で構いませんのでいろんな SNSなどにあげて頂けるととても嬉しいです」
中江さんが 様々なエピソードを積極的に披露し、アレンさんは作品について伝えるべきことを語る。限られた条件の中で現場を共にした者同士のチームワークの良さが感じられる、そんな舞台挨拶だった。
『STOP』の収益の一部は福島と、キム・ギドク監督の古くからの友人、行定勲監督の故郷である平成28年熊本地震の被害地域に寄付される。
第七藝術劇場での上映は2週目7月29日からは時間帯を夜に変え、8月11日まで予定している。