この度、第65回ベルリン国際映画祭で監督賞となる銀熊賞を受賞し、ポーランドのアカデミー賞であるイーグル賞で主要4部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞)を受賞した映画『君はひとりじゃない』が、7月22日(土)より、シネマート新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開します。(配給:シンカ)
本作はポーランドの俊英女性監督が独創的に描く<再生>の物語。ベルリン国際映画祭、ポーランドのイーグル賞など数々の映画賞に輝き、アメリカでも辛口レビューサイトRotten Tomatoesで88% Freshという高評価をたたきだした話題作!日本でも2015年の東京国際映画祭、そして2016年のポーランド映画祭で上映が行われ、その評価の高さから本公開が待ち望まれていた作品です。娘役のユスティナ・スワラは監督がFacebookから見出し、本作が演技、映画ともにデビューとなる。世界から注目を集める本作に是非ご注目ください。

さて、本日7月10日、本作の公開を記念してトークショー付きの試写会を実施しました!毎日新聞やぴあなどに執筆されている映画ライターの高橋諭治氏、そしてMen’s NON-NO、TV Bros.や朝日新聞などに執筆されている同じく映画ライターの森直人氏が登壇。映画上映後のイベントとあって、本作の魅力を余すことなく徹底解説!訪れた一般の観客は興味津々でトークを聞いていました。

【日時】7月10日(月) トークショー 20:05~20:35(30分間)※上映後イベント
【場所】東宝東和試写室(東京都千代田区一番町18 川喜多メモリアルビル)
【登壇者】高橋諭治(映画ライター)、森直人(映画ライター)

まずは一言ずつご挨拶!高橋は、「僕は昨年の東京国際映画祭で拝見しましたが、その時はセラピーシーンの写真と原題の「BODY」という情報しかなくて何が何だか?と思っていたけれど、観たら震えるような感動を覚えたんですよ。今日はよろしくお願いします。」と熱くご挨拶。一方森は、「僕は高橋先生に教えを乞います。」と笑いを誘うご挨拶。

早速徹底解説がスタートすると、高橋は邦題のヒントにもなった主題曲“You’ll Never Walk Alone”について語った。「これは1960年代に大ヒットした曲ですが、21世紀の今も世界中で愛されている歌です。サッカー好きの人はピンと来ると思いますが、イングランドのリバプールFCのサポーターソングです。直訳すると「君はひとりで歩かない」となりますが、自分が、自分の愛するチームの12番目の選手となって“俺たちがついているぞ”とエールを贈る歌です。劇中では、真夜中に突然ステレオが起動して流れるんですね。これは一種の心霊描写ですが、見えない誰かが「見守っているよ」というメッセージを送っているという解釈もできます。」なるほど、とばかりに観客は深く頷きました。

対する森が「これはホラー的な文体で作られたセラピー映画」と指摘すると、心霊現象を用いて表現された映画、という話題で盛り上がった。「もともと映画は霊的なものと親和性が高いわけですが、人の心は超常現象で語れ、と言わんばかりの表現がされているわけです。(森)」高橋も頷き、「そうですね。この映画は断絶した父と娘の絆が再生する物語ですが、絆を描いたものは溢れている。俳優が涙を誘う演技をするものが多い。そればかりが映画なのか、と思うわけです。例えば、心と心のつながりは人には見えないわけですが、それを伝えるために涙を誘う演技をしますね。でもこの映画は、それらを排除して超常現象だけで描いているわけです。瞬間移動やテレパシーなどが描かれるのはホラーとかSFの分野ですよね。でもこの映画はヒューマンドラマです。」と続け、2人とも「ジャンルのコードというか、壁を突破しようとする映画が増えていると思います。日本では黒沢清監督はよくやっていますよね(森)」「10何年前からやっている方はいますし、気づいている監督はたくさんいますね(高橋)」と指摘した。

続いて、心霊描写が散りばめられたストーリーが花開くラストシーンの指摘へ。
森は「この奇妙な描写が面白いのは、霊的なものとリアリズムが混ざっていること。娘と父がセラピストに出会って変わる、というアウトラインですが、即物的なものに接しているリアリストな父に対して、セラピストが霊媒師と来た。最初はオーソドックスなセラピーだけど、心霊描写の仕掛けが点在している。肝となるラストシーンで、観ている側の気持ちがついていけるかどうかで反応が変わります」と語った。続けて高橋は幽霊についての解釈を熱く語った。「さりげないけれど、幽霊が3回出てくるんです。その中に、死んだ母ヘレナなのではないかと思う人物がいます。私にはそう見えたけど他は違うかもしれない。その話を宣伝担当の方にしたところ、監督に確認してくれました。監督の答えは、あれがヘレナだと思った人も、思わなかった人もOK、という回答でした。監督がさりげなく散りばめたミステリーでした。納得の答えでした。正解を探す映画ではないですしね。」
これには森も唸り、「最高の観客ですね!」と感心した。

劇中、オルガが奇妙な格好をしているシーンが登場することについても興味深い指摘がされた。
「楳図かずお的なことだと思いましたが、蜘蛛みたいな…」と森が切り出すと、高橋も「あれは『エクソシスト』みたいですね。思春期の少女が悪魔に取り憑かれる映画ですが、あそこから、悪魔を取り払った描写と考えられるのではないでしょうか。あの動きは、オルガの不安定な心理を描写しているのだと思います」と続けた。
森は「マウゴシュカ・シュモフスカ監督はドキュメンタリーを撮っていた監督ですが、ホラー映画を反転して人間ドラマとして描写したわけですね」と言い、高橋も「だから新鮮なんですよね」と監督を賞賛した。