作家・劇作家・演出家にして『戦場のメリークリスマス』では大島渚監督の助監督も務めたロジャー・パルバースが、昨年夏、太平洋戦争の激戦地の一つである沖縄県・伊江島等を舞台に初監督を務め、作り上げた日豪合作映画『STAR SAND ─星砂物語─』。
若き日にベトナム戦争に反発してアメリカを去ったパルバース監督が、“真の反戦映画とは何か”との考えのもと、原作、脚本、そして監督を手掛けました。
1945 年の戦時中、戦うことを拒否した“卑怯者”の脱走兵である日本兵(満島真之介)と米兵(ブランドン・マクレランド)、そして彼らを見つめる少女(織田梨沙)に始まり、七十余年の時を経た現代の東京と行き来しながら展開する物語は、前述の俳優らのほか三浦貴大、吉岡里帆、寺島しのぶ、渡辺真起子、石橋蓮司、緑魔子といった豪華キャストが出演。また『戦場のメリークリスマス』以来のパルバース監督の友人でもある坂本龍一が、主題曲を提供しています。

本作品は 4 月に「島ぜんぶでおーきな祭 第 9 回沖縄国際映画祭」の特別招待作品として上映されましたが、沖縄慰霊の日(6 月 23 日)を目前に控えた 6 月 21 日(水)と 22 日(木)に那覇・桜坂劇場で沖縄先行上映を実施、本日 6 月 21 日(水)、2 回目の上映後 15:10 より、沖縄出身で脱走兵の一人:岩淵隆康役を演じた満島真之介さんとロジャー・パルバース監督が舞台挨拶を行いました。

監督:去年、ちょうどクランクアップは 6 月 22 日だったね。……1 年も前なんですね。『歳月人を待たず』というような感じです。
満島さんにお尋ねしたいんですけど、やっぱり僕はこの映画『STAR SAND』を日本の若い人たちにもっと見てもらいたいなと思っているんです。あなたみたいな齢の人たちが観に来る──そういう可能性が(この映画に)ありますか? 若い人にどうすればアピールできるかなあってことも(笑)お訊ねしたくて。

満島:僕が宣伝します、それは(笑)。いろんな人の力を駆使して、沖縄の想いとともに。
今日が(映画の公開の)一番最初なのかな? 全国の中で初めての日なので、僕の中でもすごい感慨深いです。
高校卒業してから東京にもう9年ぐらい住んでいるんですけど、6月に(沖縄に)帰って来たのは、この伊江島で撮影したときと、きょうこの日だけなんです。
やっぱり6月になるとなんかソワソワしちゃうんですよ、東京にいても。で、沖縄に帰ってきたときの、空港に降り立って風を吸った時の匂いというか、6月のあの特別な空気というのを今日改めて感じました。
去年はこの(『STAR SAND』の)役があったので、演じた隆康という人物として自然と向き合ったり、島の人と向き合ったり、転がっている石も含めて、当時を感じながら、昔の人たちが踏みしめた砂浜がまだここに残っているんだ、っていう…… そこには血も流れて、愛も流れて、いろんなことが喜びも悲しみもあったんだなっていうのを感じながらでしたけど、今日はまたちょっと特別な思いがあってですね。だから今日は本当に来られてよかったです。
この沖縄で上映した後に、全国そして世界にも広がっていくと思いますし。ブランドン(・マクレランド:満島演じる隆康と交流するアメリカの脱走兵・ボブを演じた)も今世界で、ブロードウェイとかで舞台に立って──まあ同じくらいの齢なんですけど…… 吉岡里帆ちゃんとか、三浦貴大くん、織田梨沙さんも主役で頑張ってますけど…… みんなエンターテインメントの日本の作品には出てますけど、こういう作品はなかったと思います。
ここ、桜坂劇場に帰ってきたのも 5 年ぶりかな。一番最初にデビューした時、若松孝二監督の『三島由紀夫と若者たち』という映画でここに立った時以来なんですよ。それが映画のデビュー作で、そして今日このタイミングで立てるのは、人生のまた新たなスタートの日だなという感じもしてますし。
だからまあ、これから先毎年全国で、沖縄はこの桜坂劇場でこの日に(『STAR SAND』を)上映をするっていうのは──

監督: おおー(笑)

満島: 提案しようと思っています。そうしたら僕も(沖縄に)帰ってこれるし、両親が先生をしているので、学校の先生方にも声をかけて、学校の授業として観るとか、いろんなことが多分できると思うし、映画体験っていうものをやってもらいたいなと思っているので。そういうのは監督、僕に任せてください。

監督: はい!

満島: 若い人に絶対観させますから。プロデューサーと共に頑張りますよ(笑)。

監督: ありがとうございます ……よかった(笑)。
満島さんに質問があるんですけど、出てらっしゃるのは今まで日本の映画ばかりですよね? これも日本映画です。ただ、相手役のひとりがブランドンっていう外国人で、彼は日本語ができなかったわけですが、撮影の時、それは難しかったですか?
いままで共演の相手は日本人で、言葉が通じ合うから、眼をを見て顔を見て、そして言葉を聞くと「じゃあこういう風に反応しよう」というのがあると思うんですけど、今回は特別に難しかったのかどうか。

満島: 僕はですね、言葉はあんまり必要ないと思っているんですよ、正直なところ。だからこそ世界の人たちが、今いろいろなことでつながっていけるんだと。
日本人の方が多分、言葉じゃない部分で感じるものって本当はたくさんあるはずなんだけども、ちょっと語りすぎていたりとか、情報が流れ過ぎていて見えてこないものが多分たくさんあると思ってて。
だから僕は人と会うとき、必ず握手をするんです。それは家族の中で常にスキンシップがあったっていうのもありますけど、そこで人の体温を感じたりとか「この人今日体調がいいな/悪いな」含めてですね。
たぶんね、もっともっと人と触れ合うことをしなきゃいけないなと思っているんですよ。特に東京とかにいると、どれだけ人がいるかわからないくらい、毎日がこう大綱挽大会みたいなんですよ、那覇の(註:那覇大綱挽まつり 沖縄の一大イベントのひとつ)。あれぐらい人がいて、みんなお祭り騒ぎみたいな所の中で、多くの人の人生が交錯しているはずなのに触れられないことがある。
僕の中で、だからボブ──ブランドンとは、こう、あまり会話をしなくても、眼と眼、お互いの距離感とか肌の質感とか、触れ合った時の ……要するに、白人の肌の質感と日本人の肌の質感ってやっぱり違うんです。毛の生え方だったり、目の色、呼吸の仕方、もう全部含めて。だけど同じ血が流れていて、住んでいた・生まれた場所が違うだけで、今を生きているってことには変わりない。僕の中ではすごくこれは勉強になったというか、一番大きかったんですよ。相手をちゃんと見るようになったんです。言葉に逃げなくなったし。他の作品だとやっぱり、自分の台詞を覚えて、人の言葉を聞かなくても言えたりすることってあるわけです。目を見てるふりして見てない人もいたりとか。

監督:わかりますね、そういうの。

満島:人間関係みんな、生きていれば『この人嘘言ってるな、本当のこと言ってるな』というのが大体わかっていく中で、僕の中では、ちゃんと心のグローバル化をしなきゃいけないと思っているので、こういう作品にはもっともっと携わりたいし、これから先には、いろいろな国で映画に出たり、いろいろな人と出会い、外に出ていきたいなと思ってますけど。
でもまずその根底には「沖縄」という地があるので、そこで毎年、6月21・22日は ──ハイ、桜坂(劇場)の人いますかね? あのね、もうほんとオーナーに全部言ってですね、もうほんとに『STAR SAND』の上映はやりたい。やりたいし、やりますので。

監督:お願いします

満島:お願いしますね、桜坂の人ね。 (場内拍手)

監督:監督として、全てのシーンは楽しかったけど、特にやっぱり「ああ、よかったな」と思っているシーンは、あのシェービング(ひげ剃り)・シーン。それはね、ふたり(隆康役の満島真之介と、ボブ役のブランドン・マクレランド)に任せたんですけど、言わなくてももう二人が、本当に非常に高いレベルで通じ合っていたんです。
主役の織田梨沙さんが、この前インタビューの中で「どのシーンがいちばんお好きですか?」と訊かれて、彼女もそのシーンを挙げていたから、僕はびっくりしたんだけど、やっぱりそれは、二人があれだけ精神的な高いレベルで気が合っているし、ウマが合っているからすごいなと思うわけです。
やっぱりこれから沖縄の満島、日本の満島、世界の満島真之介 というのがね。

満島:(笑)

監督:皆さん、本当に今日はありがとうございました。お友達にも親戚にもちょっとした通行人にも(この映画のことを)言ってください。 (場内笑い)