<3月4日・ゆうばり映画祭3日目>
怪獣と子供たちが雪遊び!?

朝から雪模様。合宿所ひまわり名物のバイキングで朝食をがっつり食べてから、巡回バスに乗り込みホテルシューパロへ。10時からコンペ作品の柘植勇人監督『人間シャララ宣言』を鑑賞。

この日20時から上映予定の『大怪獣チャランポラン祭り鉄ドン』。14時からゆうばり共生型ファームで怪獣が子供たちと雪遊びをするという情報を聞きつけて行ってみることに。

さて今ではすっかりゆうばり映画祭のイベント上映としておなじみとなった『鉄ドン』。そもそもなんぞや?その歴史は古く1992年、兵庫県の伊丹映画祭の特撮自主映画コンペ・グリーンリボン賞の参加メンバーを中心とする短編映画とコソト(コントのようなもの)のイベントとして誕生。人気を博したが、阪神・淡路大震災やメンバーの東京進出を期に2年で自然消滅した。ところがバカ映画魂は消えず。2012年、旧常連メンバーに新メンバーも加わって『鉄ドンハイパー(仮)』として復活。その勢いで2013年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭に『鉄ドン Q in YUBARI』で初登場。すばらしいバカ映画は拍手で褒め称え、つまらないバカ映画は「しょーもなー」で反省を促し、どうしようもないバカ映画は「金返せ」コールで落とし前をつけるスタイルが受け、その後2014年『フールジャパン ~ABC・オブ・鉄ドン~』、2015年『フールジャパン 鉄ドン危機一発』と毎年の参加となり、2016年『フールジャパン 鉄ドンヘの道』ではイベント賞を受賞するなど観客から愛されてきた。

今年は『ウルトラマン・サーガ』のおかひでき監督を中心に、バカ映画に命を懸ける兵共が本気で挑んだ完全オリジナルの新怪獣・珍ヒーロー映画が結集!artegg-yumi、青井泰輔、飯塚貴士、石田アキラ、イッキ、岩崎友彦、オクノケンゴ、岡本英郎、おかひでき、今井 聡、啓乕宏之、かげやましゅう、キノシタケイタ、清本一毅、小林でび、佃 光、田口清隆、田村専一、中間健詞、鳴瀬聖人、西村喜廣、野火明、ハヤト丸、百武朋、ブエノ、水野祐樹、ユリシーズ グズマン ユリカルド、リー・チャンマン、28名の監督が名を連ねる。
しかしこの大雪の中、本当に子供たちの心をつかめるのか?『鉄ドン』共よ!

 

かあさんの味あったカフェ、夕張メロンの漬物の味

雪が止む気配がなく本当に雪遊びが実施されるのか心配になりつつ、ホテルシューパロを出発するも、2軒先にある「かあさんの味あったカフェ」の前で魚を焼く地元の皆さんの笑顔に誘われて、急遽腹ごしらえすることに。映画祭期間中の3日間のみの営業だ。カレーを注文したらお店のお母さんが夕張メロンの漬物を勧めてくださったので頂いてみると、マイルドな奈良漬といった感じで美味しい!売ってないのか聞いてみるとなんと自家製とのこと。むむ残念。

お店にいるお父さん方に映画祭の話を聞いてみる。昔は仕事終わりに上映を観に行ったが、最近は時間がないのと体力がもたなくて中々行けないと残念がるお父さんは「SF映画が好き」とのこと。「西村(喜廣)監督は変わった映画撮るよね」と血飛沫残酷映画を面白がっているお父さんも。今年観た作品を尋ねると「『はめられてRoad to Love』(横山翔一監督)が面白かったよ」との答えが。地元の方々もそれぞれの楽しみ方をされているのだなぁと改めて嬉しくなってくる。
店内にお母さん方手作りのニット帽が300円で置いてあり、防寒のためにお母さん方に一緒に選んでもらって銀色を購入。雪の中、巡回バスに乗り込んでいざゆうばり共生型ファームへ。

 


夕張の子どもたち、怪獣と出会う!

ゆうばり共生型ファームに到着すると、建物の中では鉄ドンメンバーがすでに準備中。遊びに来た子供たちも次々に到着している。被り物姿でひょいと現れる鉄ドンメンバーを見て火がついたように泣き出す幼児も。ほとんどなまはげ状態である。

準備が整った怪獣・鉄ドンがメンバーに付き添われながらその姿を現す。中の人はおかひでき監督。雪遊びの出来る広場まで、メンバーが声を掛け合って視界の効かない怪獣・鉄ドンを誘導行進。

後で聞いたところによると、前日に飲んでいた澤田直矢さんとおか監督が、夕張の子供たちは怪獣を見たことがないんじゃないかという話から「雪遊びイベントをやろう!」と急遽決まったという。そんなフットワークの軽さもゆうばり映画祭らしい。
佃光監督の司会で子どもたちに怪獣鉄ドン、帰らないマン、オタドン、半魚人、ゲスト参加の北海道に生息する特撮ヒーローの強装甲キャンサーエースなどが紹介され、記念撮影大会に。石田アキラ監督、石田作品ヒロインでおなじみの坪内花菜ちゃん(『怪獣ゴッコ』)、岩崎友彦監督、水野祐樹監督、西村喜廣監督、佃監督作品出演の篠崎雅美さん(『動物大怪獣コアラ』)、おか組カメラマンの江部公美さんたちがイベントを盛り上げる。初めて見る怪獣たちに怖がって号泣する子供、おっかなびっくりで見ている子供、大喜びの子供様々な反応で会場に笑いが起こる。

 

怪獣・鉄ドン雪山を制覇!

雪合戦でひとしきり遊んだ後、雪山の上から佃監督が子供たちと一緒に「せーの、鉄ドーン!」と呼び掛ける。

むちゃ振りに乗って怪獣鉄ドンが雪山を登り始める。普通の人間の足でもズホズホと雪の中にめり込んでしまう状態、これは無理だろうとヒヤヒヤしながら見守る。

スタッフの松田慎介さんや西村監督の名誘導と息のあったメンバーのサポートで、ジリジリと怪獣鉄ドンが雪山を登り始め、なんとか山頂に到着!

子供たちも大はしゃぎとなり椅子に座った怪獣鉄ドンを囲んで集合写真タイムに。

 

“中の人”に会いたい!

メンバーの挑発を受けた怪獣鉄ドンが、雪山から滑り降りる暴挙も成功し、楽しい時間はあっという間。お別れの時間となり、全身全霊で子供たちを楽しませた怪獣たちが手を振ってが去ってゆく。
「バイバイ、鉄ドーン!」

女の子3人が、怪獣鉄ドンの後姿が見えなくなるまで手を振って見送っていた。

「頼んでみようよ」と何やら真剣に話し合っている3人。一緒に写真を撮りたいのかな?と気になったが、尋ねる前に女の子たちは走って行ってしまった。

一方、撤収してきたメンバーは全身雪まみれの怪獣鉄ドンの雪落としにかかる。雪が残ると素材が劣化するそうだ。でこぼこのパーツに雪が入り込んでなかなか大変だ。大まかに雪を落とし終わり、メンバーに付き添われてフラフラの怪獣鉄ドンが建物の中に消えると、先ほどの女の子3人と若いお母さんがやって来た。「この子たちがおか監督と写真を撮りたいそうです」

おか監督が着替えを済ませて建物の外に出て来た。待ちくたびれたのか女の子は2人になっていたが、念願の記念撮影となった。おか監督も女の子たちもいい顔だった。

 

『大怪獣チャランポラン祭り 鉄ドン』上映!

その後も商店街やストーブパーティで宣伝活動を繰り広げた鉄ドンメンバー。

いよいよ20時、ホテルシューパロ・錦水の間にて『大怪獣チャランポラン祭り 鉄ドン』の幕開けとなる。いつもはプロデューサーの星野零式さんがグダグダな前説と「金返せコール」特訓で場を温めるが、今回は期待のバカ映画ホープ・水野祐樹監督の仕切りによる「金返せコール」特訓に満席の会場の空気が沸騰する。

 

「サタデーナイト フィ~バ~!!!」

笑いあり金返せありで盛り上がるのはいつもの鉄ドンだが、いつもと違っていたのは連作として作られた3本の『怪獣探偵団』(第1話・おかひでき/第2話・今井聡/第3話・啓乕宏之)が、それぞれ独立している「見事なバカ映画」「しようもなー映画」「金返せ映画」を引っくるめて長い一本の作品としてまとめる役割を果たしていたことだ。

クロージングを観て不覚にも涙が出た。まさか『鉄ドン』で泣けるとは!自分でも驚いた。
それは小学生の頃と同様に、物語の力を未だに信じている気持ちを刺激されたからに違いなかった。


怪獣ゴッコと坪内花菜ちゃん。抜群の演技力は要チェック!

 

そして“中の人”との記念写真のこと

翌日のショートショーケースで秦俊子監督の『パカリアン』の上映後、おか監督と写真を撮りたいと残ってくれた女の子・愛夏ちゃん(小学1年生)、お母さんの渡邊恵さんと再会した。もう1人の女の子は愛夏ちゃんの妹だった。ゆうばり映画祭後に、あの時のことを伺ってみた。

学生時代からゆうばり映画祭のスタッフとして参加していたという渡邊さん。今年のゆうばり映画祭・オープニングで愛夏ちゃんと2人して協力隊のスタッフとして参加したことで、愛夏ちゃんは怪獣・鉄ドンの中に「誰か」が入っていることを理解していた。愛夏ちゃんには将来の夢が絵本作家になりたい!という夢があり、渡邊さんは本や映画、たくさんの人との出会いで感受性を育むような良い経験をさせてあげたいと思っていたという。

「他のチビっ子達は、やはり鉄ドンと写真が撮りたかったのだと思いますが、私は鉄ドンを作った人がこの人なんだよ!と娘に教えてあげたかったんです」

子供たちの心にも確実に何を残した鉄ドン。ゆうばり映画祭の後、5/5大阪・シアターセブンの有料試写会が大盛況にて幕を閉じた。次は6/3東京・LOFT 9 Shibuyaにて上映を予定している。

 

(レポート:デューイ松田)