2017年3月5日、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のクロージングセレモニーが、合宿所ひまわりの体育館にて行われた。

オフシアターコンペティション部門
【グランプリ】『トータスの旅』監督:永山正史
【審査員特別賞】 『ベートーベン・メドレー』 監督:イム・チョルミン
【北海道知事賞】 『はめられて Road to Love』 監督:横山翔一
【シネガー・アワード(批評家賞)】『ストレンジデイズ』 監督:越坂康史
【スペシャル・メンション】『堕ちる』監督:村山和也

インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門
【グランプリ『M.boy』 監督:キム・ヒョジョン
【審査員特別賞】『歯』監督:パスカル・ティボウ
【優秀芸術賞1】『あたしだけをみて』監督:見里朝希
【優秀芸術賞2】『タコ船長とまちわびた宝』監督:飯田千里
【優秀芸術賞3】『Mizbruk』監督:ダニエル・デュランロー

ファンタランド大賞(観客賞)
【作品賞】『blank13』監督:斎藤工
【人物賞】國村隼
【イベント賞】北海道ロケトークスペシャル第3弾 鈴井貴之監督作品『雪女』からみる旧産炭地の魅力
【ゆうばり市民賞】『大怪獣チャランポラン祭り 鉄ドン』

授賞式後の囲み取材では、グランプリに輝いた『トータスの旅』の永山正史監督のインタビューと、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭プロデューサーの深津修一氏から総括が行われた。

2006年の財政破綻により借金返済を続けてきた夕張市は、今年から積極的な財政計画に転じると同時に新しいまちづくりに取り組む予定だ。存続が危ぶまれたゆうばり映画祭が、2007年に有志の手によって行われたゆうばり応援映画祭を経て2008年に復活してから10回目となった。映画祭に思い入れがある鈴木市長の元、映画祭も一緒にリスタートの年と位置付ける。インフラ整備の課題が残っており、映画祭会場や宿泊施設として利用して来たホテルシューパロ、マウントレースイ、ファミリースクールひまわりを含む観光施設の買収によって夕張市から元大夕張リゾートに経営が変わるが、来年のゆうばり映画祭開催に向けて今まで通りの協力体制が維持される努力を続けるという。

「映画のための映画祭ではなく、人間関係が生まれてプラスアルファが生まれる映画祭」と自負の元、
「ゆうばり映画祭のワクワク感や何が起こるかわからない感覚をもっと広げたい。インターナショナル、国際化をキーに、夕張から世界に直結する映画祭をイメージし、その仕組みを作りたい」と語った。

映画祭後に発表された最終集計では映画祭の動員は12,516名。(昨年は13,650人、スクリーン数1減のため)2017年の全上映作品は長編(オムニバスも含む)45本。短編35本。

ゆうばり映画祭の見所はコンペだけではない。それぞれの上映に様々なドラマがあれば出会いもある。今回のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のレポートにあたっては、映画祭の先にゲストの皆さんが何を見ているのかが知りたいと思った。もちろんこれも2017年のゆうばり映画祭のごく一部の記録に過ぎない。上映あり、イベントあり、出会った人々との未来へ続く記録だ。

<ゆうばり映画祭2日目>
ゆうばり映画祭での上映が名刺代わりになるように。3月2日にオープニングを迎えたゆうばり映画祭、今年は2日目から参加となる。新千歳空港からバスに乗り込む。車窓から見る景色で今年は雪が多いなと思うのだけど、地元の方には大したことないとまた笑われてしまうだろうか。関西からスキーに来たという幼いお子さんを連れたご一家と隣合わせ、若い美人奥様と少し雑談。映画祭のことは知らないと言われ、リーフレットを見せて宣伝する。
昼過ぎにシューパロに到着。ロビーはゲストやスタッフ、お客さんで賑わっている。

上映会場がある2階でゆうばり事務局の外川康弘さんと再会。インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門、ゆうばりチョイス部門のプログラミング・ディレクターを務める外川さんに今年の作品のチョイスの傾向について伺ってみた。
作品を集める条件としてゆうばり映画祭がプレミア上映になる作品というハードルがあるため、初出品作品以外に以前ゆうばり映画祭で上映された監督の新作を呼ぶことで一定のクオリティを確保し、その成長ぶりを観客に観てもらうようにしているという。ここ数年は酒井麻衣監督、冠木佐和子監督など意志がはっきりした女性の活躍が目立っている。大いに期待しているのが松本花奈監督、小川紗良監督。男性で気炎を吐いているのが昨年『孤高の遠吠』でオフシアター・コンペティション部門グランプリをとった小林勇貴監督だという。
「ゆうばり映画祭に来て“楽しかったね”で終わりじゃなくて、ゆうばり映画祭で上映したことを名刺代わりに、他の映画祭の上映に繋げたり次の展開に向かって欲しい」
制作者の次の出会いをつなげることもゆうばり映画祭の大きな役目と考えている外川さんの言葉だった。
「今年のショートショーケースはどれを観てもハズレがないよ」と、ニヤリ。

 

大急ぎで1階のレストランで昼ご飯を済ませる。幸福の黄色いハンカチカレー。牛乳が入ったまろやかなカレーだ。ゆうばり映画祭1本目はコンペ部門の『ベートーベン・メドレー』。上映前の舞台挨拶ではイム・チョルミン監督、主演のコ・ヒョンジさん、シン・ムンソンさんが登壇。コ・ヒョンジさんは冒頭の挨拶全てを、ゆっくりしかし明瞭な日本語で行った。かなり練習した様子で映画祭上映への意気込みが伝わる。
16時から小林勇貴監督の『逆徒』で合宿所ひまわりに移動するため、舞台挨拶を諦めて各会場を回る巡回バスへ。

 

 

小林勇貴がやりたいことは全部やった。商業映画『全員死刑』は期待していい。

17時半から上映の斎藤工監督『blank13』に並ぶ観客が早くも長蛇の列となっているが、『逆徒』も盛況だ。前作『孤高の遠吠』は、出演者が全員本物の不良ということで話題を集めたが、徹底的なリサーチ主義で書き上げられた脚本は独特のユーモアセンスを発揮しつつ、侵されない精神性を持ったエンターテイメントに昇華されていた。その後日談とも言える『逆徒』は仲間から騙し討ちで殺害された不良が復活し復讐行脚に出る、笑いと反逆精神溢れる作品。

上映後に小林勇貴監督、プロデューサーを務めた西村喜廣さん、小林監督の商業映画デビュー作『全員死刑』原作者の鈴木智彦さん、『逆徒』出演の西村映造・大石 淳也さんが登壇。

西村喜廣さんは『シンゴジラ』『進撃の巨人』等の特殊造型を手掛けた西村映造の代表で、自身も監督として『東京残酷警察』『ヘルドライバー』、公開待機作の『蠱毒(こどく) ミートボールマシン』など血飛沫残酷映画を次々世に送り出している。小林監督との出会いは2016年。ゆうばり映画祭の前に流れた小林監督の挑発的なツイートに西村さんの好奇心が反応した。

「ゆうばり映画祭の奴ら全員殺すみたいなことをツイートしていて、こいつ1度会ってみたいなと思ってたんですよ」
映画祭会期中、夜中の屋台村で自己紹介してきた小林監督の襟首をつかんで飲み直したという。
「誰殺してぇんだよって(笑)。そこから“じゃあ企画を一緒に考えようか”ってなって」
その後、日活の千葉善紀プロデューサー(『冷たい熱帯魚』)に小林監督を紹介したところ商業映画デビューが決まった。オフシアター・コンペティション部門でグランプリを獲得して約一年後という異例のスピード感。サポートする側される側、面白いと信じるものがあればとにかく動こうというスピリッツが感じられる。

秋に公開予定の『全員死刑』予告編が上映された。最後に“濡れた女は合宿所ひまわり●号室に来い!”とコメントが出るノリノリのゆうばり映画祭限定バージョンに観客に大ウケとなったが、きゅんと来た女性がいたかはナゾだ。

原作となった『我が一家全員死刑』は、鈴木智彦さんが死刑囚の獄中手記と周辺取材で事件に迫ったドキュメンタリー本。福岡県大牟田市で住民4人が殺害された事件で、手を下した家族4人が死刑判決を受けた。
鈴木さんは『全員死刑』について、
「今までと全然違う映画で面白いですよ(笑)。ちょっとレベルが違う」
“今までと”の言葉に小林監督が激昂。
「『逆徒』面白いってツイッターで書いただろう!言ってることが変わっておかしいだろうが!原作者だったら何を言ってもいいのか!」

素直な反応に観客も爆笑となった。 『全員死刑』について西村さんは、
「”こうなっちゃったんだー”にはなっていない。ちゃんとした技術を持った商業映画になっています。勇貴がやりたいことは全部現場で行ったし、本当に期待していいと思います」と小林作品が次の段階に進化したことを熱く報告した。

不良の世界を描き続けている小林監督はその思いを尋ねられ、
「不良はすごい理不尽の中に生きている存在。その理不尽さをエンターテイメントにしたい。“むかつくよね、これ”っていうの楽しさに変えたいと思っています」と答えた。

 

この日はその後、チャン・スニョン監督『演技の重圧』、ホテルシューパロに戻り夜西敏成監督『サファイア』、途中からとなったがかげやましゅう監督『ポップ・ロック・ビルディング』を鑑賞。
終映が24時を回わり、本来巡回バスもない時間。雪道を歩くことを覚悟していたら、合宿所ひまわりまでワゴン車が出ていたので乗せて頂いた。こういった配慮が本当に有難い。
風呂は朝にしてとにかく寝ようと床に就く。雪山で遊ぶ子供たちに怪獣鉄ドンの巨体が迫っていることなど知る由もなく、この時は爆睡するのみであった。

 

(レポート:デューイ松田)