映画『オーバー・フェンス』山下敦弘×松江哲明監督 映画愛炸裂トークイベント
『海炭市叙景』(10’/熊切和嘉監督)、『そこのみにて光輝く』(14’/呉美保監督)に続く、孤高の作家・佐藤泰志原作の函館三部作最終章『オーバー・フェンス』が、9月17日(土)にテアトル新宿他32スクリーンにて全国公開し(配給:東京テアトル+函館シネマアイリス(北海道地区))、前作『そこのみにて光輝く』を超えるオープニング成績で大ヒットスタートを切りました!
9月24日(土)に山下敦弘監督と松江哲明監督の公開後トークイベントを行いました!同じ年にデビューした2人は当時から交流を持ち、最近では山田孝之主演のドラマ「東京都北区赤羽」で共同監督を務めるなど17年来の監督仲間。今回のイベントは松江哲明監督が本作を絶賛していることから実現しました。『オーバー・フェンス』への作品愛を入口に、映画愛まで存分に語り尽くした熱いトークイベントになりました。
【日時】 9月24日(土)15:10〜15:40(30分) ※上映後
【場所】テアトル新宿(新宿区新宿3-14-20 新宿テアトルビルB1F)
【ご登壇者】山下敦弘監督、松江哲明監督
MC:お2人の初対面は?
松江:「どんてん生活」が夕張(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭)で上映された時ですね。「あんにょんキムチ」と同じ時ですが、かれこれ17年前。脚本の向井(康介)くんとか龍っちゃん(撮影の近藤龍人)と一緒に会いました。
山下:その後に「ばかのハコ船」に出演してもらったんですよ。
MC:「オーバー・フェンス」はいかがでしたか?
松江:山下くんから「試写を観て」と言われたけど、そういう時は何かを気にしている時。いい意味で今までと違う映画でしたね。
あまり身構えず観られました。最初のシーンの編集からこれまでと違うなと思いました。
山下:鳥が飛ぶシーンね。
松江:そう。それにいろんな人が映るけど、あれを1カットで見せるのがこれまでの山下くん。今回は編集が今井さんですが、その感じが出ていましたね。僕は毎回編集を今井さんにお願いしていますが、結果的に新しい映画になってるなと思った。
試写の後にはすごい興奮して感想を伝えました。
MC:「試写を見に来て」と言う時と言わない時の違いは何ですか?
山下:松江くんには全部見て欲しいですが、近藤くんと今井さんは、これまでに松江さんと一緒にやっていますし、松江くんに見て欲しい時は理由があるかもしれないですね。
MC:松江さんは、山下さんの作品に対して友情心もライバル心もあって暖かさと厳しさを持って意見されてきた気がしますね。
面白かったのは、「オーバー・フェンス」のレビューで、”視点”について書いていました。
今までは縦を意識した視点で、今回は横の視点を意識していると。面白い指摘ですね。
松江:「松ケ根乱射事件」とか「リアリズムの宿」とかは、空間の中に人がいて、視線を合わさずに会話するという作り方なんですよね。
「もらとりあむタマ子」は富田靖子さんとあっちゃん(前田敦子)が視線を交わさないけど会話しているという。この作り方で、山下くん以上にうまい人がどれだけいるんだろうと思うけど、今回は、人と人が目を合わせて会話をしている。目を合わせるということは、カットバックしないといけないわけですよね。カメラを2台置いたり、カメラ位置を変えて撮ったり。
MC:山下さんは文体の変容についてはどうお考えですか?
山下:今回は変えようと思っていたけど…これまでのやり方とは違う世界だなと思いましたね。体育館の裏で白岩たちがタバコを吸いながらダラダラさぼるシーンとか、キャバクラで代島が「こいつただのヤリマンすよ」って聡に言うシーンなんかはこれまでと一緒で視線を合わせていないけど、白岩と聡の関係は、向き合わないといけないと思ったんですよね。そのあたりは近藤さんと話し合って決めましたね。
MC:高田亮さんの脚本によるものもありましたか?
山下:原作があって、プロデューサーも脚本もある中に後から入っていったし、三部作の最終章というのもあったので、
自分のアイディアを入れるというよりもシンプルに目標に向かっていった感じでしたね。
MC:何かに乗っかった時の山下さんは違いますよね。
松江:「オーバー・フェンス」はキャストとか台本や原作に、山下くんが素直に惚れ込んで、これを形にしないといけないというものを感じました。個性というよりも、監督としての山下くんがそこにいる感じがしましたね。過去二作はどちらも素晴らしいと思いました。「そこのみにて光輝く」の時もトークショーに出させてもらったんですよ。Twitterで感想を書いたら宣伝の方から連絡が来て(笑)僕は高橋ヨシキさんの週刊プレイボーイのレビューを観て映画を見たんですよね。熊切さんの映画も素晴らしかったですね。バジェットが少なくても、こういうものを丁寧にやらないと、って思いますね。「海炭市叙景」はユーロスペースでしたが、ユーロスペースとかテアトル新宿とかで、こういう映画を観て日本映画を面白いと思ってきたんですよ。
だから、この三部作はちゃんと観ることで、日本映画にお返しをしているような気持ちがしましたね。こいういう作り方は続けて欲しいです。
MC:同じ大学の監督が三部作をやるのも珍しいですよね。
松江:3作とも、その監督にとって新しい作品になっているのがすごいですね。
山下:嬉しさもプレッシャーもありましたけど、断る理由もないわけですよ。だって断ったら次は石井裕也(監督)かなと思いましたし(笑)近藤龍人という知っているスタッフもいましたしね。いつも何かをやるときには、モチベーションを探すんですよ。
このキャストとやりたいとか新しい何かをやりたいとか。でも、今回はなかった。原作がベースで、熊切さんや呉さんっていう流れもあって条件が揃っていたし…無茶できない!って思いましたね。
MC:三部作の最終章、大トリですよね。これ失敗させたらしょっぱいですよね?(笑)
山下:いつも通りの山下に引き寄せたらやばいって感じですよね(笑)
MC:山下さんはこの世代の最も信頼する監督ですけど、見るまではドキドキしましたよ。
松江:でも、オダギリジョーさんとか蒼井優さんが無茶するのは許さないですよね(笑)
MC:先日別のイベントで、森というキャラクターがやたら人気があったという話をお聞きしましたよね。青臭いキャラクターですね。突出して浮いているので、面白いアクセント。
山下:原作と映画では、始まりと終わりはほぼ一緒ですが、原作では、森が白岩に与える影響が大きいんですよ。映画では聡が大きいですけど。だからみんな森を重要視したんです。結果的に、蒼井さんが聡をここまで豊かにしてくれたからいいバランスになりましたね。
松江:映画やってる人はみんな森みたいな人だと思う(笑)で、島みたいな奴を憎らしく思っているはず。島も可哀想なんだけどね。
MC:ちょっと話題を変えますが、山下さんは「ぼくのおじさん」の公開も控えていますね。
松江:今回は山下くんはあんまり「試写観て」って言ってこなかったんですよ。マッチポイントさんから連絡が来て、「あれ、山下君からじゃない」って。でもすごい面白かったです!「戻った」と思いました。好き勝手やってて、面白かったですね。
バランスがとれてますよね。
MC:「松ヶ根乱射事件」と「天然コケッコー」も同じ年に公開されてましたけど、バランスがいいですよね。
山下:(当時)10代の夏帆とか子供たちとやってると心が浄化されるんですよ。「オーバー・フェンス」やってる時はしんどくて、終わってから疲れたけど、この後ハワイだ!って思って(笑)
松江:ハワイ、楽しそうでしたね。
山下:現地のスタッフともやったので、大変だったところもあったけど、ハワイって気を抜くと浮かれちゃうので、そのダサい感じが見えないようにやりました(笑)
松江:毎年やって寅さんみたいになればいいと思う(笑)
山下:僕はキャラクターを作るのが好きなんですよ。それで、物語は向井が作る。「ぼくのおじさん」とか「もらとりあむタマ子」はキャラクター映画っていうかね。
MC:そういえばお二人のプロデュース作品が今日公開ですよね?
山下:そう。初めてのプロデュース作品が公開されます!
松江:「東京都北区赤羽」の印税をお互いに出し合って作りました(笑)「あなたを待ってます」という映画です。
最近の自主映画って気合が入っているのが多いですが、プロが遊びで作ったというか。ゆとりがある映画作りをしました。個人的には気に入ってます。
MC:最後に一言
山下:いいなと思ってくれたら、知り合いの方のに宣伝してください!今日はありがとうございました。
松江:「オーバー・フェンス」を観て、これが40歳になるということかと思いました。
僕は明日(9/25)39歳になりますが、山下くんが今回の宣伝で年齢について語っているのを見て、自分も年をとったなと思いました。今日はありがとうございました。