2009年、ニューヨークのハドソン川で起こった“奇跡”と賞賛された航空機事故の驚愕の生還劇。その知られざる真実に、クリント・イーストウッド監督と主演トム・ハンクスのアカデミー賞®コンビが迫る、問題作にして究極のヒューマンドラマ『ハドソン川の奇跡』が9月24日(土)より公開となる。日本に先駆け、公開された全米で2週連続首位を獲得し、米評論サイト“Rotten Tomatoes”での観客評価は89%を維持し続けている。さらに早くも2017年度アカデミー賞有力候補の呼び声高く、作品賞、監督賞、主演男優賞など、主要部門でのノミネートが確実視されている。日本ではトム・ハンクスとアーロン・エッカートが来日し、日本中から注目集めた本作の公開が、いよいよ公開が目前に迫る中、トークショー試写イベントが9月20日(火)に行われた。「ハドソン川の奇跡」の当事者であるUSエアウェイズ1549便に乗り合わせていた日本人搭乗者である出口適(でぐちかなう)さんと、滝川裕己(たきがわひろき)さんの奥様・真以(まい)さん、航空アナリストの鳥海高太朗さん(とりうみこうたろう)が登壇。さらに2009年当時、朝日新聞外報部に勤め、報道の立場で関わった朝日GLOBEの記者藤えりかさんが司会を務め、まるで報道の現場のようなトークショーを展開。奇跡を体験した当事者、航空機事故の専門家、報道記者、三者の目線でハドソン川の奇跡について語った。

本作は2009年1月15日、極寒のニューヨーク上空855mで乗員乗客155人を乗せた航空機の全エンジンが停止。160万人が住むマンハッタン上空で制御不能の70トンの機体をサリー機長はハドソン川へ不時着させることをたった208秒で決断する。絶望的な状況の中、ハドソン川に不時着させ全員生存という奇跡を起こしたサリー機長は、英雄として称賛されるが、一方で「ハドソン川への不時着は本当に正しい判断だったのか?」と容疑者にされてしまうのだった…。何よりも驚きなのが、この事故を実際に体験した日本人がいたことだろう。その一人が出口さんだ。出口さんは当時の状況を振り返り「飛行機の後ろから2,3番目に座っていて、正直何が起きたか把握していませんでした。機内アナウンスも『不時着するので衝撃に備えて』と一回だけで、何が起きているのか分からなかったです」と危機迫る機内の様子を懸命に語る。もう絶体絶命のピンチの中航空機が不時着すると、航空機の中には水が押し寄せ「不時着してから直後に川の水が入ってきました。ひざ下くらいまで水が着て内心焦りました。席が後ろの方だったから翼の上に行くまで時間がかかりましたね。水も冷たかったです」と脱出の様子を赤裸々に明かした。サリー機長でなければ全員生存できていなかったかもしれず、出口さんにとって命の恩人とも言えるサリー機長。本作では事故後サリー機長が容疑者になってしまうという知られざる真実が描かれるが、もう一人の生存者である滝川さんの奥様・真以(まい)さんはご主人が助かったことを知った時に「主人の会社から連絡が来て事故と主人の無事を知りました。主人はこれから先、飛行機に乗れるのか?精神的に大丈夫かな?と心配でした」と振り返る。そして滝川さんが当時救助された際に支給されたアメリカ赤十字の毛布を持参し、今も記念に大事に取っているというエピソードを明かした。

航空機の専門家である航空アナリストの鳥海高太朗さんは、本作の事故の原因を鳥がエンジンに入ってしまうバードストライクが原因だと分析。そしてこの事故が奇跡と言われることについて「1月ということで川が凍っていなかったこと、着水する川に船がなかったこと、燃料が満タンだったため火を噴かずに不時着できたことは奇跡だと思いますね」と指摘。専門家の目から見ても乗員乗客155人全員生存は奇跡の事故だったと裏付けた。さらに航空機が街中に突っ込んでいたら未曽有の大惨事になっていた可能性もあったという。そうならなかったのはやはりサリー機長の技量によるものが大きかったのだろうと締めくくった。

本作は乗員乗客155人全員生存という奇跡の事故を基に、サリー機長の知られざる真実を描いた本作。実際の体験談を聞いたお客さんからは盛大な拍手が送られ、奇跡を体験した出口さん、滝川裕己さんの奥様・真以(まい)さん、航空機の専門家鳥海氏によるトークショーは大盛況のうちに幕を閉じた。本作で3度目のオスカーを狙うトム・ハンクスは英雄から容疑者となってしまうサリー機長をリアルに演じ、前作『アメリカン・スナイパー』で戦場という極限の状況下における兵士の人間性を鋭く優しく見つめた巨匠イーストウッドが描く真実のドラマ『ハドソン川の奇跡』は9月24日(土)より公開だ。

■各登壇者コメント

出口適(でぐちかなう)さん:USエアウェイズ1549便搭乗者

・航空機にはお仕事で搭乗されたのですか?
⇒当時は仕事の関係で現地にいました。アラバマ州のお客さんのところに行くために航空機に乗っていました。

・事故が発生してから機内の様子はいかがでしたか?その時に浮かんだことなどあれば教えてください。
⇒飛行機の後ろから2,3番目に座っていて、正直何が起きたか把握していませんでした。機内アナウンスも『不時着するので衝撃に備えて』と一回だけで、何が起きているのか分からなかったです。

・不時着してからどのように脱出して救助されたのでしょうか?
⇒不時着してから直後に川の水が入ってきました。ひざ下くらいまで水が着て内心焦りました。席が後ろの方だったから翼の上に行くまで時間がかかりましたね。水も冷たかったです。

・事故が起きてからどんな様子でしたか?
⇒飛行機から救出された海岸側のフェリーが救出された人の避難場所だった。乗客一人一人に警官が付いて、事故を確認するために事情聴取されました。客室におかしな人はいなかったか?と事件性がなかったかを聞かれました。

・取材攻勢もすごかったそうですが?
⇒領事館から連絡が来て、あなたの連絡先を公表していいかと聞かれてOKしたら、その瞬間から深夜まで電話が鳴りやまなかったですね。

・トム・ハンクスに会っていかがでした?
⇒非常にきさくに話しかけて頂きました。「あの時の荷物は戻ってきたの?」と心配してくれましたが、綺麗にクリーニングされて返ってきましたと会話を交わしました。

・映画をご覧になりいかがでしたか?
⇒本当に作られた部分がなくてその場にいた雰囲気を感じました。7年経って事故のことを忘れかけていたけど、心理的なストレスを少し感じましたが、飛行機は事故にあった10日後に普通に乗れました(笑)

鳥海高太朗氏:航空アナリスト

・専門家の鳥海さんから見てこの事故はどう起きたのですか?また奇跡と言われたのはなぜですか?
⇒ラガーディア空港を出発してすぐにバードストライクが起きました。通常エンジン1個壊れても空港に引き返すのですが2つともエンジンが壊れてしまいました。そこで機長は戻るのは難しいと判断し、その中でハドソン川への着水を選んだのです。奇跡と言われたのは川が凍っていなかったところに着水できたこと。それに橋にぶつからずに着水できたこと。一番すごいのは機長の技術。水面に不時着するのはパイロットにとってすごく難しいことで、少しでも傾くと火を噴いてしまうのです。それに燃料がほぼ満タンだった。通常は事故が起きた時上空で燃料を捨てるのですが、今回はほぼ満タン。そんな状況で着水させた機長はプロ中のプロでしたね。船がいなかったのは本当に幸いでした。ニューヨークだったからすぐに救助に向かうことができたことも良かった。どこに着水したか分からない場合もありますし、ヘリコプターが目視で確認できて短い時間で救助できたのも奇跡ですね。

・日本の事故調査とアメリカの事故調査の違いは?
⇒日本は事故が起きると国土交通省に付随する事故調査委員会で調べます。一方アメリカは公聴会が開かれオープンにされます。日本は基本的に非公開で捜査の仕方に違いがあると思います。

・映画の感想はいかがですか?
⇒パイロットの役割を改めて考えさせられる映画でした。乗員乗客のすべての命や人生を一時的に預かる。それを最後まで守り抜いたサリー機長は素晴らしいと感じました。

滝川裕己(たきがわひろき)さんの奥様・真以(まい)さん:USエアウェイズ1549便搭乗者の奥様
・事故が起きた時、ご主人(滝川裕己さん)から連絡があったのですか?
⇒主人は誰かの携帯を借りて電話をしてきました。まさかこんな事故が起きているとは知らなかったです。会社から連絡が来て事故と主人の無事を知りました。

・ご主人が無事だと分かった時はどんなお気持ちでしたか?
⇒主人はこれから先、飛行機に乗れるのか?精神的に大丈夫かな?と心配でした。