映画『ダゲレオタイプの女』新人監督に戻ったような緊張と興奮」黒沢監督「黒沢監督の映像は“1つの絵を作っていく”ようなもの」タハール・ラヒム(俳優)
このたび、黒沢清監督が初めてオール外国人キャスト、全編フランス語で撮りあげた最新作『ダゲレオタイプの女』(10月15日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開)の公開に先駆け、本日9月15日(木)に、トロント国際映画祭から帰国したばかりの黒沢監督と、初来日となる主演のタハール・ラヒムが、記者会見とジャパンプレミア上映の舞台挨拶に登壇致しました。相思相愛!お互いを称賛し合う笑顔の絶えないイベントとなりました。
【プレミア上映会舞台挨拶レポート】
世界が待望の黒沢監督の最新作『ダゲレオタイプの女』、遂に日本でお披露目!!
『岸辺の旅』や『クリーピー 偽りの隣人』と、世界で高い評価を受けてきた黒沢清監督の海外初進出作品『ダゲレオタイプの女』。11日に上映されワールドプレミアとなった北米最大の映画祭、第41回トロント国際映画祭にヒロインのコンスタンス・ルソーとともに登壇した黒沢清監督、主演のタハール・ラヒム。「まるで魔法のよう!とても感動的で、素晴らしい演技、監督も素晴らしい!本当に驚いた!」(ヴァニティ・フェア誌)などと世界で喝采を浴びたその足で、黒沢監督が凱旋帰国、主演のタハール・ラヒムが初来日。公開を待望していた日本のファンに向けたジャパンプレミアの上映前舞台挨拶に登壇した。
満席の会場には、この日を待ちわびた、黒沢監督ファン、タハールファンの姿が。盛大な拍手に迎えられ満面の笑みで登場する黒沢監督とタハール・ラヒム。
■ 初めに——
タハール:「日本に来ることができて大変嬉しいです。黒沢監督の作品に出演できて、そしてそれを今こうして皆さんの前でご紹介できることが大変嬉しいです。」
黒沢監督:「タハールは今回初来日なんです。初めて日本以外で撮影して完成したフランス映画を、初めて日本の皆さんにご覧いただくという、なんだか初めてづくしな日になりました。キャリアは長いですけれど、新人監督に戻ったような緊張と興奮をしています。」
■トロント映画祭では——
約1000席の会場が満席になったというワールドプレミアについて
黒沢監督:「大きなホールで沢山の方にご覧いただきました。通常、映画祭では途中で出て行ってしまう人も多い中で、誰1人出て行かなかったと思います。でも隣でタハールだけが席を立ちましたね(笑)」との監督の発言にはにかむタハール。会場は笑に包まれた。
タハール:「ちょっとトイレが我慢できず…笑 観客の皆さんは熱心に見てくれていました。上映後のQ&Aにも多くの人が残ってくれ、的を得た質問をしてくれました。「この映画のことをちゃんと分かってくれているな」と感じました」
■完成した映画を観て——
黒沢監督:「タハールの表現力がとにかく素晴らしいです。動き、顔の表情、一挙手一投足に引き込まれることでしょう。大げさではなく、彼に注目がいくんです。ここでご覧になった皆さんも彼に釘付けとなると思いますし、この作品で彼のファンが急増すると思います。」監督のその台詞に照れくさそうに手で顔を仰ぐタハール。
また、本作のヒロイン、コンスタンス・ルソーについて、黒沢監督:「本作では、彼女という“ひとつの発見”が出来ました。こんな素晴らしい女優が、フランスに、そしてヨーロッパにいたのか、と皆さんにもご覧いただけると思います。この作品のヒロインに、これ程マッチする人はいないと思います。」と、主演の二人の存在感を大絶賛。
タハール:「とても美しいラブストーリーでした。普遍的な物語ではあるのですが、それでも従来の“黒沢監督”のテーマが総て詰め込まれています。この映画を見るときに、“黒沢監督がフランスで撮った映画”とみるのではなく、 “フランス映画”の一本として見ていただきたいと思います。音楽も素晴らしい。「ブラボー」と言いたいです!そして、黒沢監督の映画に出演できたことに、本当に嬉しく思っています。」
■ 演出について——
タハール:「黒沢監督の演出は、俳優に簡単な指示をしたあとは、俳優たちに自由にやらせてくれます。1つ1つの動きを細かく決める監督もいるので、そこに関しては、嫌なプレッシャーはありませんでした。監督は撮影初日から最終日まで上機嫌でした。間近で照明の付け方や、動きの付け方を見ることができ、光栄でした。黒沢監督の映像は、いわば“1つの絵を作っていく”ようなものでした」
黒沢監督「上機嫌…でしたか(笑)50%の脚本、20%の指示で、僕が作った70%のものに、30%の照明部や美術部が付け加えて、いきなり100%の作品に出来上がって現れるのですから、それは誰でも上機嫌になりますよね。
■ 最後に、観客の方に一言——
タハール:「本作のすべてを気に入ってくれることを期待しています。そして今作を集中して見てください」
黒沢監督:「オーソドックスな若い男と女のラブストーリーとして十分に満足していただける出来だと信じています。そして、タハール・ラヒムの演技が最初はどう登場し、どういう表情でこの物語が終わるのか、目を皿にしてご覧ください。」
また、記者会見では、最新作が完成に至るまでの熱い思いを語った。黒沢監督:「はじめ、この話が実現するとは思っていませんでした。タハールは、撮影が進んでいくうちに予想していたよりも遥かに精密で力強い表現者なんだと思いました。彼をはじめとする素晴らしい俳優、スタッフに出会え、実現できて本当に夢のような時間でした。」
タハール:「黒沢監督に敬意を表したいです。監督のすばらしさは、一緒に仕事をしてみないと分からないかもしれませんが、映画を通してその芸術性と技術の素晴らしさは感じていただけると思います。監督の新作が観られる皆さんは、ラッキーだと思います」
と、最後まで相思相愛っぷりを感じさせる、和気あいあいとしたイベントとなりました。ぜひ、本件ご紹介のほどよろしくお願い致します。
本作は、世界最古の写真撮影方法“ダゲレオタイプ”を軸に、芸術と愛情を混同した写真家の父の犠牲になる娘と、“撮影”を目撃しながらも娘に心を奪われていく男の、美しくも儚い愛と悲劇の物語を描き出しました。主役のジャンを演じるのは、数々の名匠の作品への出演が続くタハール・ラヒム。ジャンが想いを寄せるマリー役に『女っ気なし』の新星コンスタンス・ルソー、マリーの父であり、ダゲレオタイプの写真家をダルデンヌ兄弟作品で知られるオリヴィエ・グルメ。そして、デプレシャン作品常連の名優マチュー・アマルリックが脇を固めます。
また、本作は、トロント国際映画祭のほか、釜山、シッチェス・カタロニア国際映画祭への正式出品も決定しており、今回のワールドプレミアを皮切りに、北米、アジア、ヨーロッパと世界中を『ダゲレオタイプの女が』席巻致します!すでにベテランであるにもかかわらず、フランス映画界にとってはすごい才能を持った新人の登場とも言える黒沢清。このトロントで華々しい世界デビューを飾りました。