この度、映画『RANMARU 神の舌を持つ男』が2016年12月3日(土)に公開いたします。とある夏の暑い日、撮影の後半に突入した現場にて、主演の向井理、木村文乃、佐藤二朗が演じる“ポンコツ3人組” が堤幸彦監督の無茶ぶりともいえる演出に抜群の演技力とチームワークを発揮、向井、木村、佐藤と堤監督が現場取材に応じました。

バスに乗ってロケ地・静岡県裾野市某所に着くと、そこにいたのは道の端に怪しいいでたちをした白髪の老婆たち。彼女たちは横溝系ミステリーの雰囲気を盛り上げる重要な登場人物だ。この日は、旅の途中行き倒れた蘭丸が介抱してもらった鬼灯村で死体が発見され、現場検証が行われるシーン。今回はいつもの堤組とは違う新しいメンバーが参加するなど新しい試みもあるが、堤幸彦監督特有の笑いは健在!

 「映画化することはある種の勝負と賭けになる」と、ドラマ映画化に関して語る堤監督。医者役の木村多江が、陥没穴から発見された死体を検死するシリアスな場面であるにもかかわらず、堤監督が次々ギャグを足して面白いシーンになっていく。「(死後)硬直がすごい」と言うとき、死体のズボンのジッパーを下げるという下ネタを提案する堤。佐藤が「やめろ」とぼそり、ツッコむ。木村多江は、こんなことをやらされているにもかかわらず「自分だけ笑いが少ないのではないか」と心配していたらしい。

それだけ堤はあらゆる俳優たちに面白いことを付け足す。木村文乃には死体を引っ張るときにパントマイムの動きをするようにリクエスト、岡本信人には野草を持たせ、刑事役の落合が話すとき、フランス語の発音のように語尾に「ウイ」をつけるように提案した。堤作品に3度目の出演となる落合は器用にすぐやってみせて、笑いをとる。結果的にその案は途中でなくなって、別の形に変わっていったがその都度食らい付いていくのはさすがだった。とにかく、村の人たちはエキセントリックに描かれていて、青年団の人たちはそろってウエスタンふうの格好をしている。とりわけ市原隼人は頭の先からつま先までかっこよくウエスタンを着こなしていて、それが逆に面白い。

堤演出はまだまだ続く。人が死んだのは「鬼子の呪い」であると騒ぐ8人の老婆たちは輪になって「かごめかごめ」を歌い踊り出す。あまりの迫力に、練習の時は、小鳥のさえずりがぴたりと止まってしまったそうだ。見ていた佐藤も「この村を出ようと思うな……」と目をそらした。老婆たちの踊りには通常バージョンと倍速バージョンがあって、編集で倍速にするのではなく実際、老婆たちが2パターンやっていた。彼女たちは、故・蜷川幸雄が率いていた高齢者劇団の俳優たちで、海外公演にも進出し好評を博している実力派。「かごめかごめ」も本気度が高い。途中でスタッフが止めても、勢いがついて止まらないなんて一幕もあった。老婆たちの快進撃は止まらない。犯人は「りん(木村多江)だ」と騒ぐ台詞で監督は「リンダ」と言わせ、「リンダ」「リンダ」の大合唱。ひとりの老婆に「山本リンダ」と言わせた監督は、佐藤と木村文乃にそれを聞いて「コケて」と指示。佐藤と木村文乃が息を合わせて小さくコケる。もう何がなんだか。
この混沌の中、向井理はほぼ9頭身の身体で呆然と立ち尽くしているようにも見受けられたが、起っている出来事に的確なリアクションをして、自分のやるべき仕事を黙々とやる生真面目さを見せる。例えば、人が死んで過剰に悲しむとき、右手で右足を叩いて辛さを表現していた。そんな繊細さとは真逆な老婆たちのおどろおどろしい暗黒舞踏のようなアングラ芝居のようなアクションがこれでもかと続き、佐藤が向井を「(老婆は)こわくないこわくない大丈夫」と冗談めかしてあやしているという一幕も。何度か共演経験のあるふたりは仲が良さそうだ。

次々にアイディアが浮かび出す堤演出に対し向井は、「もちろんいい意味ですけど、わけのわからなさも合わせて映画はもっとスケールアップしていて、監督の世界感がすごく飛び抜けている。僕も被害者のうちのひとりです(笑)。」と言い、木村は「ドラマが終わって映画がインするまで2週間ありましたが、(その間)癒えた傷がまたえぐられるなって気持ちです(笑)私だけでなく、スタッフのみなさんも、同じような挑戦状を渡されてがんばっているから、私も恥ずかしいとか個人的な問題を置いて、楽しくやっていかないといけない。」とコメント。一方佐藤は、「僕はわりとまともな役なのでぼーっと観ています。連ドラの三倍くらい輪をかけて強烈な方たちがでてくるので見ているだけで楽しいです。木村多江ちゃんも市原隼人くんも財前直見さんも、みんなこんなことやってくれるのかなっていうような堤さんの特殊な演出を、嬉々としてやっています。ほかの作品では見られない非常に貴重な姿が見られると思います。」と役柄同様、超マイペースなコメント。

こんな堤監督の無茶ぶりともいえる炸裂した演出を出演者全員が楽しみつつ対応できるのも、個々の高い俳優スキルとチームワークがあるからこそ成せることだろう。このように極めて現実離れしている村の様子だが、役場の車に「たばこは地元で買いましょう」「マイナンバーを作ろう」「故郷納税で4LDK」などと書いてあり、ぴりっとくすりと社会風刺になっているところも堤作品らしい。
とにもかくにも、抜群のチームワークで、堤幸彦らしい一風変わったミステリー映画が誕生しそうだ。