毎年7月に韓国の京畿道・富川市で開催されているのがジャンル映画の映画祭、ブチョン国際ファンタスティック映画祭だ。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭をモデルとして作られ、20周年を迎えた今年は世界49カ国から約320本の映画が上映された。オープニング作品は、ヴィゴ・モーテンセン主演の『Captain Fantastic』(監督:マット・ロス/’16/第69回カンヌ映画祭「ある視点」部門【監督賞】受賞作品)。クロージングはゾンビホラー・アニメーションの『Seoul Station』(監督:ヨン・サンホ/’16)。
コンペ部門であるブチョンチョイス長編部門12本の中には日本作品から「世界から猫が消えたなら」(監督:永井 聡/’16)、短編部門12本の中に『流星と少女』(監督:片岡翔/’16)がセレクトされた。

その他上映される日本作品の数は多く『クリーピー 偽りの隣人』(監督:黒沢清/’16)、『セーラー服と機関銃 卒業』(監督:前田弘二/’16)、『太陽』(監督:入江悠/’16)、『64 ロクヨン 前編・後編』(監督:瀬々敬久/’16)、『ひそひそ星』(監督:園子温/’15)、『ヒメアノ〜ル』(監督:吉田恵輔)など長短編合わせて約50本、今年は特別プログラムとして中島哲也監督特集『I Confess Nakashima Tetsuya』5本とトークイベントが組まれ、人気のほどが伺える。他、デビッド・ボウイ特集、プッチョンファンタ20年分のコンペ部門長・短編の受賞作品の中からセレクト上映が行われた。

ジャンル映画の企画マーケット
そんなブチョン国際ファンタスティック映画祭で2008年から同時開催されているのが‘NAFF’(Network of Asian Fantastic Films)だ。‘NAFF’ではアジアのジャンル映画のプロジェクトを発掘する企画マーケット(It Project)が行われており、毎年日本からも選考に残ったプロジェクトが参加している。昨年は光武蔵人監督が、昨年日本で公開された『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』のパート2にあたる『GUN WOMEN: THE PATRIOTS』の企画によってグランプリのThe Bucheon Award を受賞、 製作資金の1500万ウォンを獲得した。

今年は、この‘NAFF’をキープログラムとして、韓国とアジアの映画産業の新たな可能性を探求するための企画「B.I.G」(BIFAN Industry Gathering)が立ち上げられた。「B.I.G」を構成するのは4つのプログラムで、‘NAFF’、アジアの映画産業のトレンドや問題点を検討しアジアの大手制作会社やプロデューサー間のネットワークの橋渡しをする‘Made in Asia’、韓国映画産業のバランスのとれた成長のあり方を模索する‘Korea Now’、映画業界の最新技術やメディアを紹介する‘New Media’といった内容だ。

さて今年のレポートは、‘NAFF’の企画マーケットの状況についてマネージング・プロデューサーのジョンソク・トーマス・ナム氏のインタビューを中心に、‘NAFFで行われたフィルムスクールの講師を務めた『シン・ゴジラ』『進撃の巨人』の特殊造型プロデューサーや『虎影』監督で知られる西村喜廣監督のインタビュー、新企画を引っさげて企画マーケットに参戦した『脱脱脱17』の松本花奈監督チームの様子。
そして映画祭の舞台挨拶では『KARATE KILL/カラテ・キル』(監督:光武蔵人/’16)、『RE:BORN』(監督:下村勇二/’16)、『脱脱脱17』(監督:松本花奈/’16)、『Thorn』(監督:梅沢壮一/’15)に立ち会った。海外の映画祭ならではの観客たちの興味深い反応と映画祭で観た作品、箸休め的に旅の様子も合わせてレポートしていきたい。

■ブチョンファンタ到着。1本目は大草原の血塗れの家!
今年のブチョン国際ファンタスティック映画祭は7月21日から31日までの開催で、いつもより1週間遅いスケジュールである。
7/23(土)、お昼過ぎに仁川空港に到着。
空港にて2万円をウオンに換金、この日は198000ウオンとなった。Wi-Fiをレンタルし空港鉄道に乗り込む。仁川国際空港から桂陽で仁川1号線に乗り換え。富平区庁にて7号線に乗り換え、富川市庁下車というルートで約1時間10分ほど、4050ウオンなり。地下鉄7号線は2012年の秋開通した。2009年に初めて映画祭を訪れてからずっと路線バスで2時間弱かけてブチョンまで移動していたが、渋滞を考慮するのがなかなか面倒だったので、7号線開通の翌年から地下鉄に切り替えた。

1年ぶりの富川市庁に到着。映画祭会場のひとつで、映画祭のIDの配布場所でもある。市庁の裏手にある芝生の広い敷地にはライブの準備をしているのか音楽が流れ人々が散歩している。
富川市庁の裏手玄関前にはチケット販売やブチョンファンタグッズ販売のブースがずらりと並び、元気のいいボランティアの学生たちが次々訪れる観客や海外のゲストの対応に追われている。迷子になりつつ、なんとかIDをもらって今日明日分のチケットを発券してもらう。

参加初日の本日は20時より『Outlaws and Angels』。時間があるのでアウトレットモールNew COREにある大手映画館CVGへ。ここは昨年まで映画祭会場のひとつだった。土曜の夕方で映画館はかなりの混雑ぶりだ。ロビー階にあるカフェのご家族に毎年お世話になっているので挨拶に行き再会を喜ぶ。バイトの大学生の女の子たちに混じってまかないのピザをご馳走になりつつ、韓国語のスキルが低すぎるためiPhoneのgoogle翻訳ソフトを使っての会話。お客さんが多いのは大ヒット中の『釜山行き』というコン・ユ主演のパニックアクションのおかげだそうだ。帰る前になんとか観る機会を作りたいものだ。

7/23 20:00『Outlaws and Angels』
(監督:JT Mollner/USA/’16)劇場:CGV U-PLEX

ブチョンチョイス(コンペ部門)作品。不機嫌な顔が印象的なクリント・イーストウッドの娘フランチェスカ・イーストウッドが主演。夫婦と娘2人の四人家族の家に強盗犯たちが押し入り、不快極まりない復讐の惨劇が幕を開ける。そこから想像するストーリーを軽く覆される展開はインパクト大。観終わってみると、日常生活の描写の中に伏線があり、ごくささやかな違和感として認知させられていたのは中々の快感だった。主人公の行動原理から今映画を作る意味について考えさせられる不穏な作品。ブチョンファンタ一本目はなかなかのインパクトだった。

■檻に飛び込む若者たち!乱交のパンデミック!?キャリー=アン・モスの母性!
7/23 23:00 【Midnight Screening 2】
劇場:富川市庁

会期中の金・土を中心に開催されるブチョンファンタ恒例のオールナイト。
因みに前日7/22は、【Midnight Screening 1】として砂漠の高速道路で起こる恐怖の体験を描いたホラーアンソロジー『Southbound』(監督:Radio SILENCE / Roxanne BENJAMIN / David BRUCKNER / Patrick HORVATH)、最新テクノロジーを駆使した環境に優しい人工雪がスキー場に凶悪なゾンビを生み出す『Attack of the Lederhosenzombies』(監督:Dominik HARTL)、誘拐された5人が体験する阿鼻叫喚の12時間ノンストップのデスゲームはロブ・ゾンビ監督最新作『31』といったラインナップ。
この日7/23も観客の入りは好調で500席ほどある市民ホールは8割方埋まっている。

『Don’t Breathe』
(監督:フェデ・アルバレス/アメリカ/’16)

リメイク版『死霊のはらわた』のフェデ・アルバレス監督最新作。盲目の男の家に強盗に入った男女3人が生死を賭けた恐怖体験をする。オープニングで観客を暗示にかけるような、動かないヒロインが何者かに道路を引きずられ、一直線にモップで描いたような血の跡を残す俯瞰からのショットが効果的だ。引き返そうと思えば楽に出来た何度かのチャンスを自ら潰し、運命のスイッチが入る瞬間の吐き気がするような後悔!オールナイト1本目にふさわしく、文字通り息を潜めて観てしまう快作。観客の反応も上々、自分も一緒に声を上げながら楽しんだ。

『Don’t Breathe』の上映後は休憩タイム。初めてブチョンファンタに参加した時、オールナイト上映にお夜食としてキムチスープの付いた暖かいお弁当が出たのには驚いた。夜食の内容は段々簡素になって行き、昨年は菓子パンに飲み物、今年はクッキーにブラックコーヒーとなった。おそらく後片付けの問題や、スポンサーの協力も年々様変わりしているという事だろう。
それでも無料は嬉しい。市庁の入り口の階段に座る観客に混じって、真夜中過ぎの広場を眺めながらクッキーを美味しく頂く。

『In Search of the Ultra-Sex』
(監督:Nicolas CHARLET / Bruno LAVAINE/フランス/’15)

実際にあったセックスリサーチを元に、乱交のパンデミックから人類を救うための旅を描く。カーク船長ならぬキャプテン・コックが探求するのは宇宙ではなくウルトラセックス!ウディ・アレンの『WHAT’S UP TIGER LILY?』(’66)の如く、70年〜80年代のポルノ映画を吹き替え、繋ぎまくり、日本の戦隊モノらしきものも登場する。夜中に大勢でゲラゲラ笑うのにぴったりなバカ映画。

『Frankenstein』
(監督:バーナード・ローズ/アメリカ・ドイツ/’15)

『キャンディマン』のバーナード・ローズ監督が古典ホラーを現代の物語として蘇らせた。怪物=アダムに美青年を配し、ドクター・フランケンシュタインの妻にして女医にキャリー=アン・モス。アダムの渇望に母性と愛という要素を加えた青春映画の趣のある繊細かつ血と殺戮にまみれた作品。トニー・ドットがアダムに音楽や生活の喜びを教える相棒として登場、つかの間の幸福を彩る。

という訳でオールナイトはほぼ完走。
7/24朝6時過ぎ、スーパー銭湯のスカイランドへ。今日の晩ホテルにチェックインできるまで、まだまだ長い。

(Report:デューイ松田)