この度、8月5日(金)に本作の舞台となった和歌山県新宮市にて、『溺れるナイフ』公開を記念し、熊野大学Presents 試写会を実施。村田沙耶香さん、田中康夫さん、浅田彰さん、中森明夫さんなど作家陣も参加。本作をいち早く鑑賞し、絶賛された。村田沙耶香さんは上映後、「『溺れるナイフ』原作のファンで、すごく楽しみにしていました。ここ熊野で観られたことが嬉しいです。」と語った。
「熊野大学」とは、20世紀の日本文学を代表する作家・中上健次の名を冠にし、中上健次の出身地である和歌山県新宮市で、日本を代表する文学者たちが継続してきた文化を発信する勉強会。中上健次の命日である8月頭に毎年開催され、吉本隆明、浅田彰、いとうせいこう、島田雅彦、東浩紀、青山真治、中村文則、都はるみ、瀬戸内寂聴ら多彩なゲストが参加し、今日に至る。今回、実施された試写会には、山戸監督と本作の脚本と務めた井土紀州が駆けつけ、「コンビニ人間」(文藝春秋)で第155回芥川賞を受賞した村田沙耶香氏と、王様のブランチのブックコーナーなどでもお馴染みの文芸批評家の市川真人氏によるクロストークが行われた。

■8/5 『溺れるナイフ』試写会プレトーク@ジストシネマ南紀
登壇者:山戸結希監督x伊土紀州(脚本家)x市川真人(評論家)

市川:中上健次の名を冠した今年で24年目のシンポジウムで、なぜこの映画『溺れるナイフ』を上映するのか?という話ですが、まずジョージ朝倉さんの原作漫画がものすごく中上的な漫画、浮雲町という架空のほぼ、ここ新宮や南紀を舞台にして描かれた一人の少年と少女の青春ドラマありつつ、中上を読んだ人が読めばあちこちに中上健次の思想がある。原作のジョージ朝倉さんも中上健次を愛読していたと後から知ったが、ここには中上健次が描こうとしたものが漫画の形でここにあるという作品。たまたま、中森明夫さんのご紹介で山戸結希さんという非常に若くて才能のある映画監督に出会い、ジョージ朝倉さんの『溺れるナイフ』を撮っていて、今年の秋に公開だと聞き、これはどうしても熊野でみなさんと観なければならない映画だと、様々な方にお願いし、本日ここで上映する運びとなりました。脚本は、熊野でかかわっていらっしゃって青山真治監督の『路地へ 中上健次の遺したフィルム』でも中上の朗読をしている井土紀州さんが書かれています。脚本家・映画監督である井土紀州さんです。

井土:僕は同じ和歌山県尾鷲の出身です。最初、お話をいただいたときは、少女漫画かぁと思ったが、読んでみると神倉神社?火祭り?とコマが沢山あり、漫画全体のテイスト含め、中上健次の影響を受けた漫画家だ、だったらいけるかもしれない、と引き受けました。中上健次からとてつもない影響を受けた僕が、関係ない土地で仕事をしているのに、またこうして中上に引き戻されるのは不思議だなと感じています。

山戸:和歌山では17日間の撮影を濃密に過ごしました。ここに来ると、血が沸き立つような不思議な土地の力を感じ、グッと体の芯が熱くなります。ジョージ朝倉先生の『溺れるナイフ』は私たち世代の女の子にとって熱狂的な作品であったのですが、その作品に映画監督として関わった際に中上健次さんの名をとても聞くようになり、憧れのジョージ先生が愛読されていた、大切な作家さんであるということを知りました。こんな風に「孫」ではないですが、隔世遺伝のような形で、ジョージ先生の作品を通して、中上健次さんの熱が、伝播して映画を撮らせていただきました。これは、ティーン向けの中高生の女の子が観てくれる映画なのですが、もし映画『溺れるナイフ』を観てくれた子が熱を受け取って何か表現してくれたら、きっとみんないつのまにか中上さんに出会ってしまうし、この土地の力が、波紋のように広がっていけばよいなと思います。