『イカとクジラ』(05)でアカデミー賞®脚本賞にノミネートされ一躍時代の寵児となったノア・バームバック監督の最新作『ヤング・アダルト・ニューヨーク』が7月22日(金)よりTOHOシネマズ みゆき座ほかにて全国公開となります。
この度、本作の公開を記念し、人気セレクトショップBEAMSの「ビームス創造研究所」クリエイティブディレクターであり、DJ、執筆と多岐にわたり活躍されている青野賢一さんと、ライター兼、翻訳家として若者文化について様々な媒体で執筆されている山崎まどかさんをお招きし、公開直前トークイベントを実施いたしました。常に最先端のカルチャーに触れ、分析し、発信しているおふたりだからこそ語れる本作の魅力がいっぱい!

◆ブルックリンとヒップスター
山崎さん「元々ノア・バームバックのファンで、昨年NYブルックリン、しかもまさに本作の舞台となったウィリアムズバーグの劇場で観たのでとても思い出深い作品。昔でこそウィリアムズバーグはアイルランドからの移民が住む街というイメージでしたが、近年ではブルックリンの中でもおしゃれの街の代表格になっています。まるで“ヒップスターのディズニーランド”(笑)タトゥーがあって、シャンブレーを着ていて、ヒゲ面で帽子を被っているという絵に書いたようなヒップスターが多く集まっているんです。こういった現象が起こったのは、マンハッタンの地価があまりにも上がったことで、ここ10年くらいで一気にブルックリンにオーガニックレストランやブティックが増え、それに伴い若者たちが移動してきたからなんです。」

◆リーマンショックの影響
青野さん「オーガニックのショップが増えたことや、作り手が見える商品を求めるようになったのはリーマンショック後といった印象です。ある種カウンターのように、実態のないものへの猜疑心というものが強くなったような。映画の中でも、レコードやVHSを愛用する描写が出てきますが、日本以上にアメリカでは今レコードの売上が伸びているんですよ。」
山崎さん「ストリーミングかバイナルか、両極端ですよね。リーマンショックといえば、ブルックリンの繁栄の裏にはその影響が色濃くあって、実際オーガニックショップやおしゃれな小物店を経営している人は元金融業界の人が多い。お金儲けよりも誰かに感謝される実感とか温もりを求めているんです。日本にも進出したルークス・ロブスターのお店の方もそう言ってたんですが、やっぱり商売が上手なのでフランチャイズ化しちゃうんですよね(笑)」

◆今の20代と40代
山崎さん「この映画を一言で言うと、“不況映画”とも言えるかなと思っていて。今の40代がのし上がることができず20代と同じ線上にいるという現実があるので、不況だからこそこの映画の2組は出会ったとも言えるんじゃないかなと思っています。」
青野さん「20代と40代が横並びになっている現象は、日本でもありますよね。フェスなんか結構年齢層高いですよね。ユースカルチャーと思われているものでも、意外とそうではないんだなというのはありますよね。」
山崎さん「そういうところは世界共通でありますね。40代が大人になるきっかけを失っていて、20代がイライラしている、という。」
青野さん「だからこそ、ジェイミー(アダム・ドライバー)のように人を押しのけてでも向上していきたい、という人も出てくるんですかね。」
山崎さん「アダム・ドライバーが演じている役は一見ずるいようですが、逆にここまでやるのは立派という気もしますね。何故なら諦めてしまう20代の方がずっと多いと思うので。」

◆ファッションについて
青野さん「この映画を観て一番気になったのは、実はベン・スティラーの色の組み合わせなんです。こういう白髪が混じった髪色の人が、カーキとかグレーといった中間色のコーディネイトをすると本当に清潔感がないんですよ(苦笑)若い人がそういうことをやるとギャップになるんですけどね。あとは、このやぼったいパンツの丈ですね。ロールアップにしたらいいと思います。そういう細かいところを見ていくと、中途半端な感じに見えるようベン・スティラーの役はすごい緻密に描かれていて、素晴らしいなと思いましたね。ナオミ・ワッツは、ユニクロのダウンみたいなものを着ていますしね(笑)」
山崎さん「40代はジョシュとコーネリアのカップルを見て、我が振り直したほうが良いかもしれませんね。」

◆アダム・ドライバー
青野さん「古いものを身につけていても、全く古く見えないですね。(ベンとは)着方やバランスが全然違います。それはレコードやVHSといったアイテムでも同じことで、ただ懐かしいと思ってしまう人とは根本的に違いますね。」
山崎さん「アダム・ドライバーは、日本ではスター・ウォーズのカイロ・レン役でお馴染みだと思いますが、アメリカではこちらもブルックリンが舞台の「GIRL」というドラマで今時の若い20代男子を演じて人気が出て、そこからスター・ウォーズに選ばれたシンデレラ・ボーイというイメージが強いんですが、ノア・バームバックの前作『フランシス・ハ』にも出演していて、今の“ブルックリン”というのを表すのにはぴったりな俳優さんだと思います。」

◆ベン・スティラーとノア・バームバックの関係性
山崎さん「ベン・スティラーは、日本では残念ながら公開とならなかった『Greenberg』という作品ではじめてノア監督の作品に出演して、そこから監督とはいい関係性を築いているようですね。実は、ベン・スティラーの映画で、ノークレジットでノアが脚本に携わったりしているというのはすごく多いですし。ベンからするとノアは、自分を引き立ててくれるベストな監督で、逆にノアからするとベンは、自分を託せる俳優なんじゃないかと思います。この2人のコンビはこれからも注目していきたいです。」

◆大人とは?
青野さん「あまり自分としては大人とか子どもとかというのは意識したことがなくて、やっていることは中学生のときからほとんど変わっていないような気がします。ただ、やっぱりどうしても自分含め周りもどんどん歳をとっていくので「昔は一番下っ端だったのに、いつの間にか一番年上の存在になっているな」という感覚はありますね。」
山崎さん「わたしは、初めてこの映画を観たときにベン・スティラーが「自分はずっと大人のふりをしてきた子どもだ」というセリフにものすごい身につまされました。みんな実は、冷や冷やしながら必死に大人のふりを見よう見まねでやっているような実感があるんだろうな、と。そのあたりの心理を描いた作品というのがこれまであまりなかったので、得難い感じがしました。」

◆最後に・・・
山崎さん「ノア・バームバックは私小説的な映画が多いんですが、今回はそこから一歩踏み出して、不況であることやヒップスターといった今の20代の文化を描いたということでオープンな作品になっていると海外でも評価されています。『フランシス・ハ』に続き日本でも公開となったので人気が出るといいな、と思います。昨年観たなかでNo.1の映画だったんですが、見につまされ具合とか、今のNYブルックリンとの共通項なんかも感じながら楽しんでいただけたらなと思います。」
青野さん「エンドロールで流れる曲がポール・マッカートニーの「Let Em In」という曲が冒頭のシーンと対になっているという作りやデヴィッド・ボウイなど音楽に注目して、もう一回劇場で楽しんでみたいなと思います。」