映画『アトムとピース 瑠衣子 長崎の祈り』The Japan Times記者 三重綾子氏と監督のトークイベント
2016年6月24日(金)「アトムとピース〜瑠衣子 長崎の祈り」21時上映後
新田)映画の感想は?
三重)伊原さんと松永さんの会話が強く印象に残った。この映画は、過去と、現在、そして未来をどう考えるかという映画であると思う。
「アトムズフォーピース」原子力の平和利用というのは、当時のアメリカ政府にとっては、いかに核兵器を温存するかという戦略であったと思うが、当時の日本人にとっては、あれだけひどい原爆を、どう乗り超えて未来に生きていくかという、そういう部分もあったと思う。それが今、石破さんの核抑止力になるという発言のように、逆行する方向にいっているように思う。
7月10日は参員選で今真っ最中であるが、原子力発電という5年前は非常に問題であったものが、今、全く争点になっていない。驚きというかメディアの問題でもあるのかもしれない。この映画は、日米同盟についても示唆するところが多く、考えていかねばならず問題だと思います。
新田)伊原さんと松永瑠衣さんは、議論は平行線なのですが、94歳の「日本の原子力の父」と言われた人を前に、「電気を作ってくれてありがとう」と言ったうえで、「でも自分は原子力に頼らない道を選択する」と言う。松永さんをどう思われましたか?
三重)松永さんがナビゲートしたからすっと入ってくる部分があって、見た人におしつけるのではなく考えるヒントをくれた。とても共感を持て、彼女の感情表現にすっときた。
新田)東日本大震災から5年たって、川内原発は再稼働し、高浜は運転期間40年以上の延長が認められ、これから再稼働申請がなされる。映画でインタビューしたリチャード・アーミテージは、2012年に、CSIS (国際戦略研究所)から“アーミテージ=ナイレポート”と呼ばれるレポートを出し、日本と組んで原発を輸出していくと書いている。スリーマイル事故以降アメリカは原発を作れない。日本の原発の再稼働にアメリカ政府の意向が反映されているのか?
三重)日本は今、アメリカ人あるいは世界からもうそんなに注目されていない。アメリカ政府の中で日本の政策を担っている「ジャパンハンド」「安保マフィア」と言われる人たちは非常に少数派です。チャイナスクールと呼ばれる人たちのほうがアメリカ政府の中で力をもっている。その中で、アーミテージ氏とジョゼフ・ナイ氏は、安保マフィアと呼ばれる最先端を行く人他たちで、集団的自衛権、原発TPPもやるべきであるという提言をした。今の日米安保の同盟関係の中で、アメリカの提言は実はじわじわとした圧力としてかかっているし、自民党政権は共和党政権と今もコネクションが多いですし、この提言を理にかなったものと受け止めている。アメリカの意向も当然あったでしょうし、今の自民党政権にとって、いい方向であったということと思う。日本でいえば永田町であるキャピタルヒルにスタッフとして勤めている友人に聞くと。「日本はLNG(液化天然ガス)を多く輸入しているので、原発を再稼働されると輸出が減るので、感情的には複雑だ」という。日本の原発再稼働がアメリカの総意かというとそうではなく、一部の今の日本の政権周辺にいる「ジャパンハンド」「安保マフィア」という人達の意向が強いという気がします。
新田)プルトニウムをもつことそのものが、中国、北朝鮮に対して核抑止力になるんだという考え方、そして将来核武装できるようになったときに、プルトニウムを持つことが意味をもっていると考える政治家が自民党保守系の政治家の中には少ながらずいると思うが、アメリカは、どう見ているのか?
三重)それもやはり半分半分というか「安保マフィア」と言われる人の中にも、右派も左派もいる。一部の議論としてはトランプの核武装論もありますが、昔からあった議論です。1988年の日米原子力交渉で、核保有国でない国が原子力の再処理できるようになったが、それには日米同盟、あるいは日本への信頼が大きいと思います。日本が仮に核武装したとしても、アメリカに牙かない、あるいは「ならずもの国家」のようなことはしないという一定の理解がアメリカの中にあるだと思います。
新田)オバマ大統領の広島訪問をどう見ておられますか?
三重)訪問されたことはすばらしいですし、オバマ大統領の英断だったと思います。謝罪はありませんでしたが、謝罪のない和解ができる日米、そこを超えて共通の価値を作っていけるということを提示したことが意味があると思う。アメリカ人の中には、原爆投下は正しいことだったんだという意見がいまだ多い。投下直後は80%近くの人が正しかったという調査だったが、去年のピューリサーチでも56%の人がいまだに正しかったと思っているという結果が出た。ホワイトハウスの友人から聞いたのだが、自分のおじいさんは日本と戦っていてあのまま戦っていたら僕は生まれていなかったと。そういう部分がアメリカ人にある。
新田)昨年4月、1945年の7月に最初の核実験をしたニューメキシコ州のトリニティーサイトが原爆誕生70年を記念して1日だけ公開されたのを取材した。線量はまだ高く、ネイティブアメリカンが被爆しているとデモをしていたが、退役軍人や一般の方が多く来ていて、長崎に落とされた爆弾ファットマンの前で記念撮影していた。インタビューしたところ、「悲劇だったが、あれをやらなかったらさらなる悲劇が生まれた。正しかった」とほとんどの人が言ったが、若いカップルには「申しわけなかった」と謝罪された。
三重)2009年のオバマのプラハ演説で、核のない世界を目指すという部分がクローズアップされているんですが、演説をよくよむと「核のない世界は自分が生きている間は達成できないかもしれない。」と言っている。軍縮の専門家と話すと、「第3次世界大戦で核戦争のような戦争は非常におきにくい世界になっている。一番の脅威はISのような組織が核を手にし使用することで、アメリカ政府あるいはオバマ大統領の中に危機感があって、核の不拡散がオバマが特に打ち出したかったメッセージ」。実際、核セキュリティーサミットで非核保有国での管理、日本での47トンのプルトニウムの管理に批判的であると思う。今後、核廃絶を目指すうえで、拡散をなくすことがメッセージであったように思います。〈完〉