巨匠イ・チャンドンにその才能を見出され、『冬の小鳥』で鮮烈なデビューを飾ったフランス女性監督ウニー・ルコント最新作『めぐりあう日』が、7月30日(土)より公開となります。 『めぐりあう日』のプロモーションで来日したウニー・ルコント監督と、野田聖子議員によるトークイベントを、6月24日(金)に実施いたしました。韓国からフランスへ、養子として渡った実人生を元にした映画作りを続けているウニー・ルコント監督と、長年、養子縁組の普及に取り組まれてきた野田聖子衆議院議員が登場し、養子縁組のあっせんなど子供たちの為の様々な活動をしている方々や映画ファンを前に、熱く語り合いました。

■登壇者:ウニー・ルコント監督、野田聖子議員 MC:高橋恵里子(日本財団) 通訳:菊地歌子

「日本に再び来られて嬉しい」と笑顔のウニー・ルコント監督。野田聖子議員とは初体面ですが、控え室から熱い対談はスタートしていました。野田聖子議員が養子縁組に取り組まれたきっかけは、養子を迎えようとして適わなかった、個人的な体験から。野田さんが法律を調べたところ、なんと当時日本には法律が無かった!先の国会で児童福祉法が改正される法律が制定されましたが、まだまだ日本では問題が山積みのようです。

Q:監督のデビュー作「冬の小鳥」は、監督ご自身がモデルなのですよね?

(ルコント監督):個人の体験も含まれていますが、自伝的な意図で作ったわけではありません。親に捨てられた、親との別離という瞬間的な感情、その記憶を出発点として作りました。実は、自分の身に起きたことをよく覚えていません。例えば、父が私を施設に連れて行ったときのことなど全く思い出すことができないんです。記憶をたどろうとか、記憶を思い起こすことが目的ではなくて、映画では普遍的な感情を描こうとしました。
フランスに着いたときフランス語は全くできず、それはショックな体験でしたが、子供にとって大きな冒険でもあったんです。話したいという意欲があり情熱を傾けました。同じ境遇の子供たちも皆、言葉は早くマスターしています。

Q:映画の中ではフランスの養子縁組の状況が描かれていますが、どのようなリサーチをされたのですか?
A:リサーチの為にいろいろな人に出会いました。養子縁組の様々な活動をしている方々、その関係者、教会の職員、里親の協会があるのでそのひとたちに会い、他に多くの本を読んだり、ドキュメンタリーを見たりしました。
フランスには、病院で出産をするときに匿名で出産が出来るという法律があるんです。そうすると、子供は両親、母親のことを何も知らない状態になります。

Q:野田さん、これから養子縁組あっせん法の成立を目指されるとのことで、これから日本で養子縁組がどのようになっていけばよいと思いますか?

(野田議員):養子縁組の普及に取り組むきっかけは個人的な事情であったとともに、「赤ちゃんの値段」(高倉正樹著)という本との出会いが大きかったんです。先進国といわれる日本で生まれた子供であっても、その先の足跡がたどれない。臓器移植の、また児童ポルノの被害者になってしまうのではないか、そういう心配を払拭できないでいる。そういう国は貧しいですよね。誰でも幸せになる権利があることを、国としてしっかりアピールすることも必要。
あと法律では変えられない人々の偏見があります。特に日本では、血のつながりが無いと子供ではない、という多数の意見をもとに法律が定められています。例えば育児休暇は産んだ人でないと取得できない、そのように出自で限定してきた。これからは出自を問わずに私たちの子供だと、まずひとりひとりが自覚することが、私たちの幸せにつながる。

(ルコント監督):フランスの法律では、養子縁組をした両親は、母親も父親も育児休暇が取れます。血のつながった両親よりも長く取れることもあります。

(野田議員):日本では、養子は一回傷ついた子供たちだから、育てるのはたやすいことではないという前提で、“仕事をしている母親には育てられない”という考え。フランスのように、“働いている母親により長い休みをとらせる”ということと発想の違いがありますよね。

Q:野田さん、いち早く「めぐりあう日」をご覧になって、おすすめポイントは?

(野田議員):監督が話された、映画の中に出てくる匿名出産は多くのかたには馴染みがないと思います。今の日本には時期尚早という意見が多いですね。でも実際、日本は相当数中絶をしてしまう。公的には年間200万、NGOの発表によると年間約300万人が中絶をしているとも言われているんです。それだけのこの国は命を守れないと考えると、お母さんのためにも匿名出産という方法はあると思います。
映画の中で、匿名出産によって主人公は命を得たけれど、それが新たな壁になっている、ということもあるんですよね。

(ルコント監督):フランスでも匿名出産の法律には賛否両論あります。なぜなら、子供は自分のルーツ、アイデンティティを知る術が無い。母親にとっては後に子どもと会うことが出来ないからです。同時に、野田さんが仰ったように、産む制度が保証されているという利点もあります。
「めぐりあう日」では、匿名出産の30年後を、子供と母親がどういう人間になったかを描いています。

Q:フランス語タイトル「あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている」に込めたメッセージは?

(ルコント監督):これは私が作った文ではなく、アンドレ・ブルトンが娘に宛てた文章です(ブルトン著「狂気の愛」)。メッセージというよりは願いを表しています。この、ブルトンが娘に宛てた手紙というのは、娘がどのようにこの世に生まれてきたか、どんな子供でもどんな出生でも、全くの偶然ではなく二人の人間が出会い、愛がもとになって生まれたのが子供であるということ。だから、生まれた子供に対しても大きな愛を願う、という内容です。

(野田議員):私は養子縁組では子供に会うことが出来ませんでしたが、卵子提供というかたちで、アメリカの女性から卵子を提供してもらって子供を授かりました。なんと来年は小学校! まさに「狂おしいほどに毎日愛している」し、結果としてそれが自分を光らせてくれていることを感謝しています。血はつながっていない、スタンダードではない家族です。愛はそれぞれが作っていくことだということを息子に教えてもらっています。できれば将来、息子に、養子縁組で妹か弟をつくることができたらと思っています。監督には素晴らしい映画をつくっていただきましたともすれば差別の対象になってしまう養子縁組ですが、それを超越する愛を、映画を通じてひとりでも多くのひとに知ってもらうこと、頑張って取り組んでいるあっせん団体のひとに誇りをもって活動してほしいと思っています。