この度、現在大ヒット公開中の映画「海よりもまだ深く」におきまして、本作の劇中音楽を担当、主題歌も歌うハナレグミと是枝裕和監督とのティーチインイベントを実施いたしました。         

ハナレグミが歌う本作の主題歌「深呼吸」のミュージックビデオは、池松壮亮さんを主演に是枝監督が本作のサイドストーリーを描いたものとなっているなど、映画からコラボレーションが続いているふたり。
音楽と映画にまつわるお話しをたっぷり語っていただきました。

会場には、ハナレグミと是枝監督のファンが多く集まり、2人に質問するため、多くの手があがりました。
質問者ひとりひとりが作品に対する熱い想いを伝えると共に質問をなげかけ丁寧に答えっていったふたり。
ユーモアに溢れたトークで時折笑いも誘うなど大盛り上がりのイベントとなりました。

『海よりもまだ深く』 ティーチインイベントレポート

◆日程:6月1日(水) 
◆登壇者:ハナレグミ(永積崇)、是枝裕和監督 
◆場所:新宿ピカデリー

永積さん:こうやってまた監督とお話しする機会ができて本当にうれしく思います。
今日は楽しんでいってもらえたらと思います。

是枝監督:たくさんの人にお集まりいただいて本当にうれしく思います。
音楽を担当してくださった方とこうやってお話しする機会はあまりないので
たっぷりお話ししたいのも山々なのですが、今日はみなさんの質問に答える形で
色々やりとりさせていただこうかなと思います。

Q:どんな子供時代だったか?

是枝監督:その質問は、実は(樹木)希林さんにも聞かれていまして、
通信簿に”子供らしい伸びやかさに欠ける”と書かれていたんですけど、
それを伝えたら「それいいわね〜」と笑われて、その後ことあるごとに突っ込まれていました(笑)
学級委員も当たり前のようにやっているような子供らしくない子供だったので、
やんちゃをしている友達が羨ましかったですね。
映画に登場する真悟(阿部寛演じる良多の息子)は僕となんとなく似ています。
周りの大人のことをよくみている感じが近いと思います。

Q:親と似ているなと思う瞬間はありますか?

永積さん:父親似とよく言われるんですが、”居方が汚い”ってお袋によく言われるんです。
父は家の中でステテコによれよれのTシャツ姿でグターって寝転がっていたりするんですけど、
あ〜これか、と思ったらちょっと胸が苦しくなりました・・・(笑)

是枝監督:最近は、歳のせいなのか枕の匂いがちょっと・・・父と似ているときがあるんですよね・・・
加齢臭とは言いたくない!

Q:2人の間でどんなやりとりを経て、主題歌「深呼吸」が出来上がったのか?

永積さん:僕が音楽を担当することが決まった段階で、映像はほぼ出来上がっていたので、
それを何度も見返してつくっていきました。それで思ったのが、僕がわかったつもりで
何かをいうことはできないなと。最後に良多が振り向いて、
一歩踏み出す前に考えたことは何かということを、この一曲の中でいえたらいいなと思ったんですよね。

あと、最後までタイトルは迷っていたんですが、最後に良多が背筋を伸ばして硯をするシーンで、
人って変わろうと思った瞬間に深く呼吸するんだな〜と気付いて。それで、「深呼吸」がいいと思ったんです。
それがひらめいたときに、もうこれしかないと思ってつけました。

是枝監督:この映画は、背中を丸めて生きている男が、一瞬背筋を伸ばすまでの話だと思っていたんです。
そこをちゃんと汲み取ってタイトルをつけてくれていたことを知らなかったので、
先日そのお話を聞いたときにすごい感動してしまいました。
本当にとても良いコラボレーションをさせていただけたなと思います。

Q:日常生活で一番大切にされていることはなんですか?

是枝監督:難しいな・・・つくることに繋げていうならば、色んな人を観察することかもしれないですね。
例えば、飛行機で隣の席に座っている男性がいて、彼はこれからどこにいってなにをやるんだろうと
考えながら観察するのは面白いですね。少ない情報から想像を広げて。そんなことを想像されていると
思ったら本人は嫌でしょうけど(笑)
断片を切り取った中に、なにが見えてくるかというのは結構好きかもしれません。

Q:なぜテレサ・テンの「別れの曲」を選んだのか?

是枝監督:母親の人生と全く違う内容を歌った歌が良いと思っていたから、恋愛の歌が良いなと。
だったら、テレサ・テンだと思ったんですね。大ヒット曲からちょっとだけ外れているのもいいなぁと。
ストーリーを考える前に、歌詞の一部を切り取ってタイトルにつけたんです。
そのタイトルに合わせてシーン1から書いていくという、今回はちょっと面白いやり方でした。

永積さん:シングル「深呼吸」のカップリング曲として「別れの曲」をカバーしているんですけど、
この曲はとても女性的なのでどうやって歌えばいいのかすごい考えました。
YouTubeで女性歌手の歌を歌っている男性を色々みていたら、石原裕次郎さんとか勝新太郎さんとか
みんな歌おうとしていないというか、ありのままなんですよね。
なので、ある意味裸で挑みました。だから今までのレコーディングの中で一番緊張しましたね。

Q:学生時代に影響を受けた作品はなんですか?

是枝監督:向田邦子さんや山田太一さんの脚本でつくったドラマというのが、自分が作り手になってからも
DNAとして、自分の中の柱としてあります。今回はホームドラマだったから、自分の中にそれらのDNAを
意識しながらつくりましたね。「岸辺のアルバム」という名作中の名作ホームドラマがあるので、よかったら是非観てみてくださいね。

永積さん:僕は親が聞いていた曲をよく聞いていたので、それが井上陽水さんとかビリーバンバンとか
いわゆるフォークソングでした。それとマイケル・ジャクソンが同時に来ていた世代なんですよ。
なので、フォークソングと洋楽というのが自分の中のフィルターを通してある感じですかね。

Q:役者さんにはどういった演出をするのか?

是枝監督:聞かれれば答えますというスタンスですね。気持ちをきちんと説明するのがあまり好きじゃないんです。
いろんな監督がいますけど、僕は役者さんからあがってきたものを修正していくという方が、発見があるんですよね。

永積さん:監督はどういう感じがいいですか?とこっちが聞いても、終始、うーん・・・イイ感じになりそうですよね〜
ってだけで、すごい困りましたね(笑)僕も、バンドメンバーとかに質問されてもちゃんと答えるタイプではないので、
みんな戸惑うわけです。その戸惑っている顔をみるのが面白い(笑)でも、自分がやられるとドキドキするものでしたね(笑)

Q:美味しそうな料理の数々が登場していましたが、その中でも話のキーとなる料理に、なぜカレーうどんをチョイスしたのですか?

是枝監督:母親がつくってくれていたというのが一番大きいのかな・・・夜中にお腹をすかせて帰るとカレーうどんを出してくれたんですよね。
でも夜中にカレーってちょっと重たいし、でもせっかくつくってくれたのに食べないのも申し訳ないし・・・といった記憶が残っているんです。
まぁ、シャツに汁を飛ばしたいというのもありましたけど(笑)
でももし、劇場にカレーうどんが販売していたら、みなさん映画観終わった後に絶対食べると思います(笑)

永積さん:冒頭で良多が駅内の立ち食い蕎麦屋で春菊天玉蕎麦を食べているのもおいしそうでした!

是枝監督:あそこの春菊天玉がうまいんですよ!個人的な思い入れですね。

Q:永積さんにとっての母の味は?

永積さん:僕は味噌汁ですかね。一番味をわかりすく思い出せるというか。

★最後に。

永積さん:自分にとっていろいろな経験をさせてもらいました。今回の仕事で自分がどういう音楽をやりたかったのかというのが
わかった気がして、すごい嬉しかったです。何気なく流れる時間を切り取るのが好きなのですが、
今回は映画を観ながら自分のことを反芻していて。そういうメッセージの在り方ってあってもいんだなとわかったんです。
この映画から教わりました。監督、ありがとうございました。

是枝監督:明快なメッセージがないものをつくりたいと思っていて、今回は、撮っているもの全てが、いつかなくなってしまうという
哀惜というか愛情をもって撮っているつもりなんです。それが映画から伝われば、それが一番のメッセージかなと思っています。

以上。