映画『海よりもまだ深く』止まらないディープな団地トークに是枝監督タジタジ?!大盛り上がり!トークショーイベント
現在大ヒット公開中の映画「海よりもまだ深く」。
第69回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門に出品され、公式上映後は拍手喝さいを浴び、高い評価を得た本作ですが、この度、カンヌより帰国したばかりの是枝裕和監督と団地が登場する映画・アニメ・マンガ・小説にやたら詳しい団地好きユニット“団地団”とのトークイベントを実施いたしました。
本作の舞台である団地にちなみ、ディープな団地トークが繰り広げられた本イベント。
本作(の中の団地)に対する熱い想いをぶつける、団地写真家の大山さん、『歩いても 歩いても』(08)との共通点について掘り下げトークを展開した脚本家の佐藤さん、独特な観察眼で監督に新たな発見をもたらした作家の山内さん、暴走気味なメンバーの進行役に徹しながらも、鋭く切り込んだライターの速水さんという、個性的なメンバーたちからの様々な質問に、タジタジながらも丁寧に答えていった是枝監督。
時折、会場からは笑い声も起きるなど大盛り上がりのイベントとなりました。
『海よりもまだ深く』 トークイベントレポート
◆日程:5月26日(木)
◆登壇者:是枝裕和監督、団地団(大山顕、佐藤大、速水健朗、山内マリコ)
◆場所:新宿ピカデリー
「団地出身の監督というのが僕らにとってのどよめきだったんです!
これを語らずして誰が語るかということで参上いたしました。」と佐藤さん。
「日本には団地が多くあり、その中でも団地といえば光が丘団地などが挙げられる中で、
言葉は悪いですが、この作品の舞台となった旭が丘団地は非常に微妙なんです・・・
しかし、この作品を観て、旭が丘こそがTHE・団地だったと感じました。」と語る大山さんは、
本作を「最高の団地映画だった!」とべた褒め!
速水さんからの実際のところ監督は団地を好きなのか?という質問に対し、是枝監督は少し考え込みながらも
「好きですよ」と回答。その理由について「住んでいるときは愛着がなかったんですけど、
母も亡くなり、もう帰れない場所としての愛惜というのかな?は感じます。」とコメント。
また、「この作品は、なくなっていくものを愛情をもって撮るということをやったつもりです。」と語りました。
今回舞台となった清瀬市旭が丘団地は、監督が実際に住んでいた場所。
なぜここを舞台にしていたのかという速水さんの質問に対し、是枝監督は、
「脚本を書いている時点では、自分の住んでいた団地を思い起こしながら書いているんですけど、
現実的に撮影するとなると距離もとり切れないし、私小説の中に閉じてしまいかねないなと思って、
最初は候補から外していたんです。それで、撮影しやすそうな団地をあたったんですけど
なかなか撮影許可が下りなくて、UR(都市機構)を通して、監督がここの団地出身だからといって、
僕も熱い思い出を語って、一度断られたドアをなんとかこじ開けました。」と当時の苦労を明かしました。
それに対し、「今年は団地映画の当たり年だと思っているんです。阪本順一監督の『団地』も近々公開されますし、ドキュメンタリーなどもあり。
都内で撮影できる団地って許可が下りないので
限られていて、実はみんな同じ場所で撮っているんですよ。だから監督がそうやってこじ開けられたのは
ブレイクスルーだなと思いましたね。」と感心した様子をみせた大山さんですが、
速水さんから団地マニアとしてのツッコミポイントを問われると「この映画が他の映画と一線を画しているのは
安易な団地あるあるを描いていなということで、あざとさがひとつもなかった!
団地で育った方ならではと思いましたね。」と独自の意見を展開。
すると佐藤さんは「冷蔵庫を開けるとよけなくてはいけないとか、母親の姿そのものだった」と激しく同意しました。
また、劇中にジップロックが登場したことについて感動したと熱く語る大山さん。
「今まで団地映画を描く中でジップロックは一切出てきてない!なぜなら今までは
それは団地じゃないよねってことで団地を描く中で現代のものを登場させようとしなかった、ノスタルジーになってしまっていたんです。
なので”今”の団地を初めて描いた映画だと思いました。団地映画史に残る大事件ですよ!」と大興奮!
それに対し是枝監督は「特にジップロックを提案していたわけじゃないけど、この団地の中には
何十年前から今までの時間の積み重ねが、”今”見えないといけないので、いろんな時代のものが
混じっているのが団地の特徴だから、その幅をつくってほしいと美術さんに伝えたんです。美術さんがさすが、ですね!」
と明かし、スタッフを称賛!
続けて、速水さんからの本作が監督の自伝であるのかという質問に対し、是枝監督は「自伝といってしまうと
様々な障害がでてくるんですが(苦笑)でも、遊歩道の場面は、僕が母親と実際に歩いた道ですし、
そこで母に聞いた話も映画の中で取り入れたりはしています。なので、撮影しているとき、今自分がみているものが
映画の中の風景なのか自分の記憶なのかがわからなくなってしまうことがあって、タイムスリップしているかのような
不思議な体験をしましたね。これは初めての体験でした。」と振り返りました。
主人公の名前が同じ”良多”ということも含め、『歩いても 歩いても』(08)との共通点を感じていたと話す佐藤さん。
是枝監督はそれを認めつつ「『歩いても〜』のときは、阿部さんも40代でまだ未来がある年齢、今回は僕も阿部さんも50になるし、
主人公は人生の季節として秋を超えたくらいの設定にして、より陰影を強めにしました。」といい、続けて
「でも嫁の旦那は高橋和也(『歩いても〜』ではYOU演じる主人公の姉の旦那役)さん、そこだけは外せないなと思いましたね(笑)」
とこだわりを明かしました。
団地の狭さがよく感じられて、すごい感動したという大山さん。是枝監督から撮影の裏話を聞くと、
「僕たちが団地映画の最高峰と決めているのは、川島雄三監督の『しとやかな獣』(62)なんです。
でも川島監督とはまた違うルールでやっていながら、その狭さを観る者に感じさせているのが、スゴイ!」とまたもや感動した様子をもみせ、
続けて「僕は阿部さんのお風呂シーンが大好きなんです!ローマ風呂の次は団地風呂かといった感じで、
あの巨大きな体をもって団地のサイズを表現するのが素晴らしいと思いました」と感想を述べました。
私もしゃべらせてください!と切り込んだ山内さん。「この作品は台詞が生き生きとしていて、観ている間
ずっとクスクスと笑っていたんです。普通の映画よりも会話量が多く感じたのですが、
それって団地という空間が狭い場所であることによって、会話が増えているんじゃないかって思ったんですが
意識はされているんですか?」という質問に対し、是枝監督は「特に意識していたわけじゃないけど、
ああいった狭い空間だと、どの場所にいても音が漏れるからそう聞こえたのかもしれないですし、
ああいう状況だと母親が常に動き続けるんですよね。だから、常に樹木さんに動いてもらおうと意識はしていて、
その分、樹木さんの台詞量は多く感じさせないように気を付けていたりしましたね」と明かしました。
「樹木さんがすごい良いことを言った後に、自分でちゃかすと思うんですけど、ああいったところは
自分の親にも当てはまるなぁと感じました」という大山さん。これには佐藤さんも同意。
是枝監督は「あのちゃかす感じは、樹木さんの品ですね。本質をつくことを言われるときはちゃかすんですよね。それが樹木さんの品なんだと思います。
そこがかっこいいんですよね。」と樹木さんを絶賛。それに対し、大山さんは「樹木さんのこと、歩く団地に見えてきましたよ」
佐藤さんは「最後のシーンなんて、森の中にいる団地の妖精のようですよ」と表現し会場の笑いを誘いました。
この後もまだまだ白熱トークは繰り広げられるものの、終了時間が迫ってきたことにより強制終了。
「団地映画の傑作だと思う!」と山内さんが言い残すと、会場から大きな拍手が起き、
大山さんも「日本中のあるゆる人にみんなに観てもらいたい」佐藤さんは「全国6000万の団地ファンは特にね!」
と続き、熱が冷めぬ内にイベントは終了しました。
以上。