描き続け、”ピンク四天王”と称される佐藤寿保監督が、「キャタピラー」で四肢を失くした帰還兵を演じ、「さよなら渓谷」で真木よう子の相手役を務めた大西信満を主演に迎えた最新作「華魂 幻影」。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の“フォービデンゾーン”部門でも絶賛され、現在新宿ケイズシネマで公開中です。

“華魂”とは、俗世の欲望の象徴であり、この花が咲くところでは、人間は欲望の箍が外れて理性が崩壊する。本作は、映画愛に満ちた支配人やスタッフ、そして、個性的な客たちによって支えられてきた映画館の閉鎖が決まり、映画館に欲望の象徴“華魂”が暴走する話です。

5月16日(月) 22:27〜
登壇者:PANTA(「頭脳警察」)・佐藤寿保監督
会場:新宿ケイズシネマ

佐藤「今日PANTAさんをお呼びしたのは、今日冒頭で特報が流れた『眼球の夢』という僕の次回作で重要な役で出て頂いたということもあるのですが、『華魂 幻影』と『眼球の夢』はある部分根底は同じなんですけれど、肌合いが違うので、どういう感想か個人的に聞きたかったんです。」
PANTA「まず大前提として、佐藤監督からオファーがあった時に、『華魂 幻影』の三上寛の役じゃなくてよかったなと。(笑)」
佐藤「まさに音楽的には、『華魂 幻影』は三上寛的な映画なんだけれど、『眼球の夢』はPANTAさん的映画かなと自分では思っているというのがあるんです。」
PANTA「皆さん素晴らしいです!ぶっとんだ演技をしていますね!三上寛も、ああいう人間なんじゃないかって、まあそうなんですけど。すごく上手くてですね、あれをやれと言われたらできないですけれど。それと、昔『世にも怪奇な物語』という映画がありまして、エスカレーターの少女が出てくるんですよ。エスカレーターの上にいるパッツンの少女は、世の中で一番怖いんです、俺。」
佐藤「『華魂 幻影』の謎の少女も?」
PANTA「全くそうですね。そんな感じですね。にこっと上目遣いで見られた日には鳥肌ゾゾゾゾゾですよ。世の中で一番怖いもの。」
佐藤「“見たくはないんだけれど、ちょっと覗き見的な感性”って俺もガキの頃からあったね。」
PANTA「ジャック・ニコルソンの『シャイニング』のイメージもある。最初ホラーかなと思って、あれ違うのかなと思って、最後まで見るとやっぱりホラーだったという印象で、とっても楽しみました!あと全編を通して『華魂』とは何なんだろうなとね。モラルが崩壊する一点の集中したところなのかなと思ったりもするんですけれど。モラルはまだまだ崩壊させられるところいっぱいあるよね、という。」
佐藤「“THIS IS 日本映画”をやりたくて、上辺だけの今のご時世に対して、映画というのは非日常というところがあるんで、楽しんでもらいたいなという。」

PANTA「こういう映画なんだけれど、佐藤監督は映像に関してものすごい細かいところにこだわるじゃないですか。めちゃくちゃキレイじゃないですか。最後の(劇中映画の川瀬陽太さんと愛奏さんの)爆発のシーンで、ふっと末井さんのことが浮かんだり。」
佐藤「あっ初めてトークイベントのゲストの方で末井昭さんについて触れて下さいました。白夜書房で『写真書房』の編集をやっていた末井昭さんのことです。『素敵なダイナマイトスキャンダル』ですよね。」
PANTA「岡山の方で、彼がある日小学校から帰ってくると、人だかりがあって、何があったのかと思ったら、自分の母親と隣の青年がダイナマイトで心中したというね。」
佐藤「そうなんですよね。愛の事件というか。今の不倫どころじゃなくしてね、不倫なんて日常茶飯事でしたからね。関係性ではなくしての、年齢差を超えたところの隣近所の愛の結晶みたいな。ゴダールの『気狂いピエロ』のベルモンドが一人で、というよりも、末井昭さんの『素敵なダイナマイトスキャンダル』の影響があって、ダイナマイト心中という題材はピンク映画の時からやっているんですよ。でも死ぬに死ねない、みたいな。映画の中では死んでないじゃないですか。」
PANTA「レイプシーンのところもそうですけれど、レンズを構えていて、助けるべきなのか、それを映すべきなのか、それで興奮する奴もいるわけですよね。現実の方がもっと残虐な事件が今いっぱい起きていますから、これは想像の世界で、妄想の世界ですよね。」
佐藤「まさしく映画って妄想なんです。そういった美的感覚というか。映画館というのは老若男女が集まる場所で、ダイレクトに映像と棘のあるキャッチボールをしてもらいたいなと思って。」
PANTA「妙にリアルで、妙に妄想で、閉館される映画館の中で官能的なモラルの崩壊かもしれませんけれど、それを映像にすればこうなるかなというね。」
佐藤「昔ながらに持っている疑問符というかね、映画館というのはずっと自分にとってのキャッチボールの場所だったので、それをやりたかった。これをピンク映画でやったら叱られちゃいますからね。『また佐藤が腹切って』みたいな。」

PANTA「僕はAVがだめで。即物的じゃないですか。過程がなくて。それを一回加藤鷹に文句言ったんですよ。顔射とかありますよね。あんなことやったら青少年皆ああやらないといけないと思っちゃうじゃないですか。彼には、『あれは、両方、表情も見れるし、映像的にはいいんですよ』と言われて。そりゃそうですけれど。でもロマンポルノの『ロマン』というのはよく付けたなと思って。」
佐藤「『ピンク』っていうのも、桜紙(ちり紙)から取ってますからね。桜紙で後処理するというのを、昔の評論家が、60年代初頭にピンクという横文字でつけたんですよ。」

PANTA「大友(良英)の音楽いいですよね。」
佐藤「第1弾『華魂 誕生』の時は、「あまちゃん」と並行していたんで、『監督、好き勝手当てな』っていうノリで、舞台は変われど、テーマとしては変わらないから。」
PANTA「安足(正生)さんの映画で、『幽閉者 テロリスト』(2006)という作品で、フランス人の役をやったんです。その時の音楽が大友で、最後に大友のノイズをバックに詩の朗読をするっていうのがよかったんですよ!」

PANTA「『華魂』の1作目、俺まだ観てないんですよね。」
佐藤「1作目はいじめの話で、復讐劇みたいに捉えられてしまった部分もあって。」
PANTA「そういわれると見たくなりますね。」
佐藤「『華魂』シリーズは1話完結で、全部舞台が違うんです。とりあえず4本分構想があるんだけれど、『華魂』の場合は、時代に沿ったテーマを選ぶというか、新たなものを提示していきたいなという。『華魂 幻影』の舞台にした飯田橋くららという発展場でもある映画館が今月末で閉館になるということが公開直前に発表されたりして、まさしく映画そのものな感じなんです。もしよければPANTAさん、次回もお付き合い願えませんか?」
PANTA「(『華魂 幻影』の三上寛さんのように)パンティーを被させるのだけはやめて下さい(笑)」
佐藤「業界の、表現者の絶滅危惧種にはなりたくないなと思いながらも、この映画も皆さんに楽しんで頂けたらなという部分と、劇場で体感して頂いた皆さんに、より広げて頂きたいという思いです。」

<今後のトークイベントの予定>
5/18(水)21:00〜の回上映後
大西信満さん(本作主演)×川瀬陽太さん(本作出演)×佐藤寿保監督

5/20(金)21:00〜の回上映後
外薗昌也さん(漫画家)×佐藤寿保監督