常に時代を挑発し、世の常識に疑問符を投げかける映画監督・園子温。構想25年を経て結実したモノクロームのSF作品である監督最新作『ひそひそ星』、そして、園子温という人物の生態に迫るべく、376日に渡って彼を追い続けたドキュメンタリー映画『園子温という生きもの』が、本日5月14日より新宿シネマカリテほかでついに公開となりました。
両作品の初日舞台挨拶が行われました

『ひそひそ星』初日舞台挨拶
■日時:5月14日(土)『ひそひそ星』初回12:20の回上映終了後
■登壇者:園子温監督、神楽坂恵

『園子温という生きもの』初日舞台挨拶
■日時:5月14日(土) 『園子温という生きもの』初回10:00の回上映終了後
■登壇者:大島新監督

会場:新宿シネマカリテ(新宿区 新宿3−37−12 新宿NOWAビルB1F)

『ひそひそ星』初日舞台挨拶

園子温監督と本作の主演とプロデューサーを務めた神楽坂恵が揃って登場。園監督は「今日はこんなに沢山の方に観に来ていただけてすごく嬉しいです」と挨拶、神楽坂は「あっという間に公開を迎えた気分です。今日はどうもありがとうございます」とそれぞれ挨拶した。

園監督が本作の絵コンテを作ったのは今から25年も前。それを今実際に映画化しようとした理由について、監督は「当時、もともとこの映画で商業映画デビューをしようと考えていました。でも、地味でちょっと変わった内容で、自主映画として自分でお金を集めて作ろうと思ったけど、うまくいきませんでした。ずっと家の机の奥にしまっている状態になってしまっていたんだけど、全ページ全カット、その時書き上げていたものをもとに作ったから、製作に25年かかったということではないんです。それが、自分の制作会社として立ちあげたシオンプロダクションの第1作として何を作ろうかと考えた時に、これにしよう!と。」と経緯を語る。神楽坂は、「『ひそひそ星』の絵コンテのことはずっと知っていて、家を引っ越すたび、スゴい量の絵コンテが入った段ボールを大切に持っていたんです。」いつこの映画を撮れるんだろう・・・と思っていたから、今回、主人公の鈴木洋子役をやれるのはすごく光栄でした」と、監督の伴侶だからこそ知り得るエピソードと自身の想いを明かす。監督は、「本当はこの作品で商業映画デビューをしたかったけど、過激な監督として知られるようになってしまいました。だから、これからがゼロの出発、これから自分の映画の道を歩きだしたいという気持ちです」と想いのたけを語る。
本作でプロデューサーも務めた神楽坂は、そのことについて「そんなに大きなことはやってないけど・・・お金のこととか女優としていつもは見れない大変さを知ることができて、その中で監督の想いを大事にしつつ作っているということを知って勉強になりました」と振り返る。謙遜する神楽坂に、監督は「そんなことないでしょ」とプロダクションの社長として裏方で大活躍した神楽坂を労いつつ、「撮影中は、完全に女優として集中してもらって、プロデューサーとして動くのは邪魔になっちゃうから、そのことは撮影後にと分けてもらうようにはしました」とフォローをする。
ロケ地が福島であることについて、「『希望の国』でも福島で撮りましたが、今回は風景論として、風景に物語を語らせたいと思っていました。その頃に風景をずっと撮っていて、“こういうものはどうすれば映画になるんだろう?”とずっと思ってたんです。そのきっかけがなかなかなかったけれど、『ひそひそ星』の台本を読み返してみたら、“これは僕のやりたかった福島にぴったり当てはまるじゃないか”と気付いたんです。福島の風景に語らせるということがこの台本ならできるな、と」ときっかけを語る。
印象的な日本家屋スタイルの宇宙船について、「スタジオにセットを作ったんですが、100年の映画の歴史の中で今までに絶対にない宇宙船を作りたかったんです。25年前の当時はお金もなかったから絵コンテに外観までは書かれていないんですが、今回は日本家屋の宇宙船として徹底してやりました。」とこだわりを明かす。
さらに、「当時はすごく野心的で、とにかくそれまでに映画でやられていないことを探しまくって、それを中に入れたいと思っていました。観たこともない映画を作りたいという当時の“彼”(25年前の園監督自身のこと)の熱い想いで、なるべく彼の意向に基づいて、絵コンテもほぼ忠実にやっていこうという想いで再現しています。」と当時の監督自身に寄り添った制作となったと振り返る。続けて、登場人物の声が“ひそひそ声”であることについて、「意味というよりも、音楽的な映画にしたかったという想いもあるんです。それから、大きな声で物事を言えなくなるんじゃないかと当時感じていたこと、“ひそひそ”としか話すことができなくなった世相という意味合いもあります」と説明する。

最後に、園監督は「こういう映画に沢山の方に集まっていただけて感謝しています。こんな地味な映画にでも人は沢山来てくれるんだぞと証明したい気持ちもあります」と挨拶。神楽坂は、「思い入れがあって、撮影後の編集も含めてすごく時間を使ってきた作品なので、公開を迎えた実感がないんですが、本当にありがとうございます」と締めくくった。

『園子温という生きもの』初日舞台挨拶

晴れやかな表情で登場した大島新監督は、「1年以上にわたって変な珍種の生きものを追い続けました。ほとほと疲れましたが、ここまでたどり着くことができました。本日はありがとうございます」と挨拶。
「情熱大陸 園子温」を手掛けたあと、改めてドキュメンタリー映画として園子温監督を取り上げることにした理由として、「このおっさんはもうちょっと面白いんじゃないかと思ったんです。番組ではスポンサーの兼ね合いでお酒をたしなむぐらいであればよくても、泥酔しているシーンまでは出すことができません。もっとはっちゃけたシーンが撮れるはずだと思ったんです。実際始まってみるとたしなむどころか大暴れで“しめしめ”と思いました(笑)」と振り返る。
撮影中大変だったこととして、『ひそひそ星』の撮影に密着した時のことを挙げ、「ロケで福島に行っていた時の園さんはピリピリしていました。僕は園組の一員ではないし、普通いるようなメイキング班とは違って一定の距離があるんです。撮影した場所が福島の避難区域だったから、園さんが撮影できる時間帯には限りがありました。ある日、“ああいうやり方はないんじゃないか”と言われるようなことはありましたね…。」と語る。
「情熱大陸」と今回の映画で園監督と長く関わってみて、改めて感じる園監督の魅力について聞かれると、「ものづくり、表現することへの飽くなき欲望ですね。本当に頭が下がります。僕も表現者のはしくれですが、“生きること=表現する”というのを体現できる存在は本当に貴重なんです。」と語る。
本作への園監督についてどうコメントしているのかについて、「まだ撮影の途中の段階で一度見てもらったことがあります。でも、本当にイヤだったみたいで僕の目を見ようもとせずに、少し斜め横を見ながら“あれはちょっと・・・”とどこか懐疑的な感じがありましたね。被写体にとって、見せたくないものも少し映っているぐらいがいいんです(笑)」と明かす。
映画を鑑賞した観客から質問も次々と寄せられた。TVでも映画でも出せなかったものはあるのかという問いには、「自主規制したり、何かに遠慮して出さなかったものはありません。」と胸を張る。そして、一番外せなかった場面を聞かれると、園監督の妻でもある神楽坂が、本作にも証言者として登場する場面を挙げた。「こういう瞬間ってあるんだなと。普通のインタビューとして始めたつもりのものが…。あの場面はすごく大事にしているし、あえて長く使っています。」と見どころを紹介した。

最後に、本作と『ひそひそ星』をどちらを先に観るべきか?という究極の質問が投げかけられると、「僕はこの映画の方が先の方がいいと思ってるんですが、すでにフィルメックスで『ひそひそ星』を観ていた学生がこの映画を観て、『ひそひそ星』の方が先の方がいいのではないかと言われたんです。」と反響を紹介。舞台挨拶にかけつけた回の観客は先に本作を観てしまったことになるが、「『ひそひそ星』の後にもう1回この映画をご覧いただくといいんじゃないかと思います」と茶目っ気を見せつつアピールした。