成海璃子×池松壮亮×斎藤工出演の映画『無伴奏』、第17回全州(チョンジュ)国際映画祭レポート
現在上映中の、直木賞受賞作家・小池真理子の半自叙伝的同名小説を『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』の矢崎仁司監督が成海璃子×池松壮亮×斎藤工で完全映画化した映画『無伴奏』が、4月28日から5月7日まで韓国の全州(チョンジュ)で開催された第17回全州国際映画祭(www.jiff.or.kr)に正式出品された。
2000年に創設された全州国際映画祭は、韓国第2とも第3ともいわれる規模と実績を備えた映画祭で、インディペンデント映画祭のメッカであり、アジアの冒険心のある映画の窓口となっている。今年は、45の国から211本(長編:163本、短編:48本)の映画を、5つの劇場の計19スクリーンで上映した。全州映画祭の開催時期は、韓国でも“ゴールデンウィーク”と呼ばれるホリデーシーズンで、昨年の観客動員数は75,351人。毎年、韓国映画界の重鎮やスター俳優も多数やってくる。昨年は、コンペティション部門に松永大司監督作『トイレのピエタ』が出品され、松永監督と主演の野田洋次郎が舞台挨拶を行い、今年は、ギャスパー・ノエ監督らが来場した。
『無伴奏』が上映されたのは、ワールドシネマの新しい美的感覚の領域を切り開いた、名高い巨匠や将来性のある監督の最新作を紹介する「WORLD CINEMASCAPE: Spectrum」部門。映画祭のプログラマーのキム・ヨンジンは、「『無伴奏』は、懐かしい人も多いであろう嵐と重圧の時代を扱っている。本作は、その時代の激しさを描く一方、ソフトなトーンでその時代をロマンチックに描いている。このアプローチは時代の特質を和らげてしまう可能性もあるが、『無伴奏』は、愛、裏切り、反抗などの個人的な感情と組み合わせることで、その政治的な時代を扱うことに成功している。本作は、美しい想い出によって難しい時代を回想するのではなく、まるで望遠鏡と顕微鏡の両方で主人公の生活を観察しているかのように、時代の浮き沈みを主人公の生活に投影している。」と評した。
上映に合わせ、矢崎仁司監督とプロデューサーも訪韓。ベネチア国際映画祭受賞作の”From Afar”のLorenzo Vigas監督、サンダンス映画祭の受賞作”Morris from America”のChad Hartigan監督と主演のMarkees Christmas、第1回全州国際映画祭でデビュー作『ダイ・バッド 死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか』が出品されて以来国民的監督になったリュ・スンワン監督などと共に、クロージングセレモニーのレッドカーペットを歩いた。
『無伴奏』は3回上映され、監督とプロデューサーが2回Q&Aを行った。
「25年前の原作の映画化は難しくなかったですか?」という質問には、「この映画を“禁断の愛”だとかいう興味で誰かが撮ることを許したくなかった。僕はアブノーマルという言葉が大嫌いで、男性であろうが女性であろうが、人が人を好きになるという愛を描きたかったので、絶対僕が撮りたいと思った。」と熱い想いを語った。
「どうしてこの時代の映画を作ったのか?」という質問に矢崎監督は、「坂本龍一さんも当時同じように制服廃止闘争委員会を作ったそうですが、僕の世代は少し小さくて、憧れていました。」と答え、「今の日本との共通点と違いは?」「家族や学校に対する反抗の映画なのか、民主化を求めている闘いの映画なのか」という質問には、「今も変わらないと思うのは、反抗心であったり、人を愛するということ。当時は、携帯やSNSがない時代なので、人と人のコミュニケーションの手段がダイレクトだったのが違う点。この映画は、学校の制服を廃止したいという身近な問題を変えようという女性が主人公です。その反抗心・闘争なら、そこは今も変わらず、今の若い人たちもわかるかなと思ったんです。僕が大学に入った時、学校の壁に書いてあったのは、政治的なことではなく、『学食の飯がまずい』ということでした」と言い、笑いを誘った。
「数多くの音楽の中でなぜ『パッヘルベルのカノン』を選んだのか?」という質問には、「原作に既に『パッヘルベルのカノン』とありました。当時仙台にあったバロック喫茶「無伴奏」のオーナーに会いに行って、その当時かけていた『パッヘルベルのカノン』のレコードを貸してくださいとお願いしたら、『パッヘルベルのカノン』は、レコードがすり減ってしまう位リクエストが多かったと言っていました。僕の頭の中では、三島由紀夫と同じ日に死んだアルバート・アイラーのジャズが街の中でずっと流れていたので、ジャズを音楽の田中さんに作ってもらいました。」と話した。
また、日本でも話題になっているクライマックスの祐之介(斎藤工)の微笑みの意味を聞かれ、「自分の考えを信じて下さい」と答えた。
「事前情報なしで観たので、女性監督かと思っていたので年配の男性監督が出てきてびっくりしました」「最近の日本映画は食べ物映画が多いので、まじめな映画でよかったです」というコメントもあった。その他、『無伴奏』というタイトルの意味や、渉(池松壮亮)と勢津子(松本若菜)の関係、電話をしてきたのが勢津子だった理由、池松壮亮さんと斎藤工さんが年が離れているけれどどういう設定か、キャスティング理由、製作費はいくらだったかなどの質問が出た。
上映では、ワールドプレミアとなったスウェーデン・ヨーテボリ国際映画祭の時と同じく、動物園のシーンで笑いが起きた他、韓国・全州では、響子(成海璃子)が親友のレイコ(酒井波湖)とジュリー(仁村紗和)と高校の朝礼でアジ演説をして妨害するシーンと卒業式を粉砕するシーンでも笑いが起きた。
なお、映画『無伴奏』は、今月末にドイツ・フランクフルトで開催される第16回ニッポン・コネクションに正式出品されることも発表されている。
■現在公開中の劇場
宮城・フォーラム仙台、神奈川・横浜ニューテアトル、山梨・シアターセントラルBe館、群馬・シネマテークたかさき、大分・別府ブルーバード劇場
■今後の上映が発表されている劇場
5/14 佐賀・シアター・シエマ
5/21 宮城・イオンシネマ石巻、宮城・イオンシネマ名取、広島・シネツイン、広島・福山駅前シネマモード、宮崎・宮崎キネマ館
順次公開予定 熊本・Denkikan、静岡・シネマイーラ
※全州国際映画祭の映画祭製作のオリジナルポスターとは?
映画祭とデザイナーとのコラボレーション企画のひとつで、デザイナーが作品を選び、イマジネーションから新しいポスターを作成、映画祭期間中に掲示してプロモーションする新しい試み。