先日、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門への正式出品が決定した、是枝裕和監督の最新作『海よりもまだ深く』が、5月21日(土)より全国公開いたします。
  
この度、5月8日(日)の”母の日”に、本作でダメな息子とそんな息子をいつまでも愛する母親役を演じる阿部寛と樹木希林、そして本作の主題歌を歌うハナレグミと是枝裕和監督による舞台挨拶を実施いたしました。 

『海よりもまだ深く』 母の日トークイベントレポート

◆日程:5月8日(日) 
◆登壇者:阿部寛、樹木希林、ハナレグミ、是枝裕和監督
◆場所:スペースFS汐留

5月8日の”母の日”を記念して実施された本イベント。
阿部さん、樹木さん、ハナレグミさん、是枝監督は登場後、それぞれに挨拶。

「天気の良い日に団地の方に見守られながら撮影しました。
撮影は2年前でしたが、やっとみなさんに観ていただけることを嬉しく思います」(阿部さん)
「この会場に来る時、車の中から皆さんが日差しの強い中待っているのみて、本当に・・・ご苦労様です!
元が取れなかったらごめんなさいね」(樹木さん)
「こういう場は初めてなので緊張しています・・・自分のことを振り返りながら音楽をつけました。
是非聴いてみていただければと思います」(ハナレグミ)
「僕は母が亡くなって10年経つけど、母の日に花や何かをプレゼントしたことがないんです。
この作品は自分にとってパーソナルな作品になっていますが、
希林さんが母を演じてくれて、自分が住んでいた団地で撮ったものが、
こういった母の日に上映されるということは、少しだけ罪滅ぼしになるかなと思っています」(是枝監督)

阿部さんは自身の役柄について尋ねられると「最初脚本を読んだ時に、ここまで自分はやれるだろうか?!
と思うくらいのダメ男を演じさせてもらいました。でも自分の幼い頃、こういう大人いたなとか
思い出しながら演じましたね」とコメント。

是枝監督作品は5作目となる樹木さん。撮影現場について
「是枝組の現場はいつもとがってなくていいわよ。わたしだけね、とがってるのは。
映画をちゃんとつくろうという目的のためにみんながいるのよね。
衣装が嫌だとかいう女優さんもいなかったし。
わたしなんて、外出着と寝間着の区別がつかないような恰好だったわよ」
と希林節全開で振り返ると、会場からは笑いが起こりました。

監督が9歳から28歳まで実際に住んでいた、清瀬市の旭ヶ丘団地で撮影が行われた本作。
是枝監督のいわば原点で撮られた本作が世界のカンヌで上映されることについて是枝監督は、
「僕が実際に母親と歩いた遊歩道を阿部さんと樹木さんが劇中で歩いていたりするんですが、
撮影しているときに、自分の過去にタイムスリップしてみているような気がしたんです。
決して自伝映画ではないんですが、特別な作品になりました。
なので、世界の人たちがこの作品を観て、どういう感じ方をするのか、
団地がどう映るのか気になりますね。」とコメント。

本作の主題歌と劇中歌をすべて書き下ろししたハナレグミ。
作詞作曲時のエピソードを尋ねられると「色々質問したんですけど、監督はニコニコしているだけで
あまり答えてくれなかったです(苦笑)でも、僕が曲をつくるときは、ほぼ映像が出来上がっていたので
それを観てつくれたことが良い音に仕上がったと思います。」と明かしました。

本作の主題歌である「深呼吸」について是枝監督は
「自分がイメージを決めつけたくなかったのであまり何も言わなかったんですが(笑)
スタジオに行った際、メロディラインだけ聞いて、スタッフと一緒に感動しちゃって。
歌詞に悩んでるといっていたので、”脚本の1ページ目に、<みんながなりたかった大人になれるわけじゃない>
と書いているんです”って話したら、出来上がった歌詞が”夢見た未来ってどんなだっけな”となっていて
ちょっと協力できたかなと思った(笑)」とコメント。

曲について尋ねられた樹木さんは「今監督が仰ったような感動は一切わからないわね」というと
阿部さんは焦った様子で「僕は感動しましたよ(苦笑)自分が演じた良多を救ってくれるような曲でした」
とすかずカバー。

阿部さんと樹木さんが母・息子を演じるのは『歩いても歩いても』に続き今回で2度目。
今回の“樹木お母さん”について阿部さんは「団地という狭い空間の中で樹木さんと至近距離でガッツリ
お芝居ができてすごい嬉しかったです」とコメント。
それを受け樹木さんが「私は圧迫感がありましたよ。団地の小さいお風呂にぎゅーと入っていて、
前はローマ風呂に入っていたのにかわいそうだったわよ」とコメントすると会場からは笑い声が。

樹木さんに今回の母親役を受けてもらえなかった場合、本作を作るのを諦めるつもりだったという是枝監督。
そこまで強い思いで樹木さんを母親役に選んだ理由について是枝監督は
「脚本を練り始めたのが、『歩いても 歩いても』の翌年だったんですが、もう一度この親子を撮りたいと思っていたので
阿部さんと希林さんの2人をアテ書きしていました。それ以外の人は想像できなかった。」と明かしました。

また、樹木さんの母親像についてハナレグミは「何気ない物音や気配など、
自分の母親と似ていることがいっぱいあって本当に驚きました。
家族って”音”を確認しながら生活しているのかもなとふと思いましたね。」とコメント。

本作で見事に愛すべきダメ息子を演じている阿部さんですが、
男性陣が自身の事をダメ息子だなぁと感じた瞬間を尋ねられるとそれぞれの想いを吐露。

「僕は25歳ぐらいまで実家にいましたが、花とかを渡したことが一度もなかった。
劇中での良多もそうですけど、少し冷たく接してしまったこともありました」(阿部)
「お金を借りたまま返してないです・・・最近も借りたんですけど、会う度に返しなさいよ!と言われます・・・」(ハナレグミ)
「おこづかいをあげたことがなくて、40歳のとき初めて3万円渡したんですけど、信じられないくらい喜んだんですね。
こんなに喜ぶならもっと早くからあげればよかったと思いましたね」(是枝監督)

当日は、母の日にちなみ、阿部さん、是枝監督、ハナレグミから、樹木さんへ、スペシャルプレゼントを用意!
代表して阿部さんから大きな200本ものカーネーションの花束がプレゼントされ、
「2度も母親を演じてくれてありがとうございました。これからもよろしくお願いします!」とメッセージを寄せました。

樹木さんは「こんなお花買うお金があるんだったら、もっと何かあるでしょうに・・・でもありがとう。」とコメント。
しかし、こんなにたくさん貰えないからという理由で花を客席に配り始める樹木さん!
阿部さんと共に配る姿は本当の母子の姿を伺わせました。

最後にそれぞれご挨拶し、イベントは終了しました。

「誰にでも起こりうる日常を描いていますが、その瞬間のひとつひとつが自分にとって見覚えのある瞬間だと思います。
そんなことをを思い出してほしいです。」(ハナレグミ)
「最初に希林さんに言われたのが、”なんでもない日常を演じるのは役者にとって一番大変なことなのよ、
それをわかってるの?”って(笑)。全てのシーンにみなさん見覚えがあると思います。
役者さんが演じることで、日常をかけがえのない時間だと思える映画に仕上がっていると思います。」(是枝監督)
「母親が自分の息子に強い想いを寄せるというのは、母親自身がここまで育てあげたと褒めてほしいからだと思うのよ。
でもね、誰かと比較して子供のことをとやかく言ったり、想うのは意味がないことだと思います。
期待はしたけど、そこそこに。ある程度の諦めも大事なのね。だからこの映画の中の母と息子の関係は好きになりました」(樹木さん)
「辛い想いや大変な想いばかりをさせたまま逝ってしまった母ですが、今日この母の日に
この作品でこういったイベントができて、空から見守ってくれてるんじゃないかと思います。
みなさん本日はどうぞ楽しんでください。」(阿部さん)

上映後は、是枝監督とハナレグミ(永積崇)によりトークセッションを実施。
是枝監督による音楽を絡めた撮影秘話や永積さんによる製作秘話、
またそれぞれに母親の思い出などを語りました。

当初、タイトルがなかなか決まらなかったという永積さん。 
「劇中で阿部さん演じる良多が、父親の形見である硯を背中を正してするシーンがあって、
人って一本筋を通そうとするときって深呼吸するじゃないですか。
なのでその姿を思って、”深呼吸”とつけました。」と明かすと、
是枝監督は「僕はさっきこの話を聞いたんですけど、知らなかったから感動しちゃって。
ずっと背中を丸めて生きてきた男が、父を想って背筋を伸ばすシーンなんですが、
ここのシーンに全てが込められているから、作品の想いをしっかりと汲み取っていただいて
とても嬉しかったです。」と感極まった様子でコメントしました。

この日はハナレグミが本作の主題歌「深呼吸」を弾き語りという形で披露!
その歌声とメロディに観客は聞き入る様子を見せ、中には涙を流すひともみられました。

また、この「深呼吸」のMVを是枝監督自ら手掛けたことも発表!
本作で阿部さんの後輩を演じる池松さんを起用し、
映画のサイドストーリーという位置づけで撮ったことを明かしました。
是枝監督は「とっても素敵な仕上がりとなっているので、ぜひ楽しみにしていてください」
とメッセージを寄せました。

以上。