この度、映画の公開を記念して、4月24日(日)にエッセイストの海老名香葉子さんご登壇のトークイベントを行いました。
一人の女性の半生を通して本作で描かれるのは、母と息子の愛から浮かび上がる、過去・現在・未来へと変貌する世界と、それでも変わらない市井の人びとの想い。ヒロインと同じく、激動の半生を送ってきたエッセイストの海老名香葉子さんをお招きし、ご自身の体験を交え映画のご感想や見どころを伺いました。

【開催概要】
■開催日時:4月24日(日)15:10〜15:35 (13:05の回上映後)
■開催場所:Bunkamuraル・シネマ (東京都渋谷区道玄坂2-24-1 6F)
■登壇者  :海老名 香葉子さん(エッセイスト)

【トーク内容】

◆ 『山河ノスタルジア』 感想
海老名:とにかく撮影の素晴らしさを感じましたね。
中国大陸の壮大さ、山や河…それらを雄大に捉えられていて素晴らしかったです。でも単に景色が大きい、というだけではなく
物語の中から捉えた風景で、かつ街で暮らす人々の営みも感じることができました。あとは、映画の中では急速に発展していく
中国を描いていましたが、日本の高度成長期の頃と重なる部分もあったりして面白かったですね。あの頃の日本は、とにかく働け働けの精神で、
戦時中の寂しさや辛さを忘れるように働いていたんです。細部の登場人物たちに、そうした時代が反映されているようで興味深かったです。

◆『山河ノスタルジア』で描かれる「故郷」から想うこと
海老名:映画の中では、主人公のタオが長い年月の中で一人故郷に留まり続けますよね。私は、生まれ育ったのが東京の下町でしたが、
戦時中は石川県能登の疎開先で暮らしていました。そこも私の大切な故郷のひとつにはなりましたが、やはり両親や兄弟が亡くなって
一人になったときに、まだ戻るのは危ない、と止められましたが絶対に東京の下町に帰りたい!と戻りました。
私にとって、故郷は心の中で力を与えてくれる大切な場所です。きっと、それはタオにとってもそうだったのではないかと思いました。

◆離れ離れに暮らすタオと息子ダオラーからみる親と子の関係性について
海老名:タオは、目で演技をしているなと思いましたね。彼女の目を見ているだけで、タオの人生が見えてくるようなそんな印象を受けました。
息子に対して母としてすべきことができなかった…という思いがよく現れていましたよね。印象に残ったのは映画で描かれる「親子」の関係。
親子が離れ離れに暮らすということがどれだけ寂しいことか…ジェンシンと息子のダオラーが一緒に住んでいながら、会話をインターネットの翻訳で
済ますというのは悲しいことですよね。心を通わせる努力をすれば通じあうはずなんです。一緒に住んで、情をかける。
私も家に内弟子がいますけれど、家族同然です。そして、子供を抱きしめるということは、すごく大切。叱ることは必要だけれども、
その裏でしっかりと「あなたには私がいる」ということを伝えなければいけないと思いますね。

◆時代を経ても、曲を聴けば思い出す…母親が教えてくれた子守歌
海老名:昔は、当たり前に子守歌があって、それを聞かせながら育てていたんです。私も母から「江戸わらべ唄」を聞いて育って、
それを子供たちにも歌っていました。あるときに、子供と下町資料館に行ったときにたまたま、次男が「江戸わらべ唄」を口ずさんで…
それを聞いた資料館の方が、「これはめずらしい!後世に残したいので是非歌声を録音させてください!」と、私のところにいらっしゃって…(笑)
恥ずかしいんですけれど、資料館で私の歌が流れているんです。映画の中でも、タオが好きな曲を息子が聞いて母のことを思い出す
シーンがありましたけれど、歌はその時のことや気持ちを思い起こさせる力があるんだと思います。

以上

<今後のイベント> ※以下すべて会場Bunkamuraル・シネマ
◆5月3日(火)17:45〜18:05 (15:40の回上映後)
ゲスト:藤井省三さん(現代中国文学者/東京大学文学部教授)

◆5月5日(木)15:10〜15:35 (13:05の回上映後)
  ゲスト:コウケンテツさん(料理研究家)

◆5月7日(土) 17:45〜18:05(15:40の回上映後)
  ゲスト:菊地成孔さん(音楽家 / 文筆家)