常に時代を挑発し、世の常識に疑問符を投げかける映画監督・園子温。構想25年を経て結実したモノクロームのSF作品である監督最新作『ひそひそ星』の公開を控える鬼才・園子温という人物の生態に迫るべく、376日に渡って彼を追い続けたドキュメンタリー映画『園子温という生きもの』は、5月14日より新宿シネマカリテほかロードショーとなります。

本作は、2014年にMBS「情熱大陸 映画監督・園子温」を手掛けたドキュメンタリー映像作家・大島新が、テレビには収まりきらない規格外のその人物の魅力を描きたいという想いで、放送後の2014年9月から一年にわたって撮影を敢行。撮影現場での姿のみならず、自身の考える“表現”論、映画という枠を飛び越えた多岐に渡る活動をつぶさに捉えたものになっています。
本作の公開を控え、メガホンを取った大島新監督が、日本大学芸術学部で特別講義を行いました。世界的鬼才のありのままの姿を収めた本作は学生達の大きな刺激となるとして、『園子温という生きもの』上映付きの講義が決定。映画学科の学生を相手に講義とQ&Aを行いました。映画監督・大島渚を父に持ち、園のみならず、唐十郎、美輪明宏、秋元康、田中慎弥など多くのトップランナー達をドキュメンタリーとしてカメラに収め続けた大島監督も、表現に対してひとかたならぬ思い入れを持つ人物。父である大島渚とも違う独自の表現論について熱く語りました。

日本大学芸術学部映画学科特別講座
日時:4月21日(木)19:40〜20:30(映画上映後)
会場:日本大学芸術学部江古田キャンパス 東棟地下1階EB-2教室(東京都練馬区旭丘2-42-1)
講師:大島新(ドキュメンタリー映像作家・『園子温という生きもの』監督)/聞き手:鳥山正晴(日本大学芸術学部教授)

『園子温という生きもの』の上映を終え、壇上に上がった大島新監督は、開口一番「この映画は若い人、特に表現者を志している人に誰よりも観てほしいと思っているので、こういう機会を持てたことをすごく嬉しく思います。ぜひ友達にも宣伝してください」と、この機会を切望していた様子。
鳥山正晴教授が「園子温はすごく破天荒で自由な人という印象がありますが、映画を観ると、この時代にこういう生き様だと息苦しいんじゃないか、生き辛いんじゃないかと感じました。園さんを1年間取材してみて、彼に対する考え方が変わったことはありますか?」と切りだすと、大島監督は、「撮っているうちに徐々に距離も縮まって印象が変わったということはあります。でも、つかみどころのない人で、多面体のような人でもあります。」と返し、鳥山教授の“生き辛さ”という感想を受けて「人物ドキュメンタリーって、観ている人の世代とか生きている立場によって感想が全く変わってくるんです。でも、色んな感想が出てくるところが映画の豊かさだと思います」とコメント。そして、「この映画を観終わった人の感想で“園子温という人物がますます分からなくなった”というものがあるんですが、それこそが園さんという人物を表しているような気がします」と分析する。
大島監督は長年TVドキュメンタリーの分野で活躍しているが、TVドキュメンタリーと映画ドキュメンタリーの違いについて、「見せ方が全く違ってきます。映画は映画館に座ってもらえたらよほどのことがない限り最後まで観てもらえるけど、TVはいつチャンネルを変えられるか分からないことを常に念頭に置く必要がある。だから、飽きさせないために情報を途切らせないとかナレーションといった“お作法”のようなものがあります。今回はそこから解放されて、嬉しかったのと面白かった半面難しさもありました。」と説明。大島監督は、一度「情熱大陸」で園監督を被写体にしており、その後ドキュメンタリー映画として改めて撮影し直しているが、そのことについて、「大抵は1度撮って完結というか自分でも満足することが多いですが、園さんに関しては“被写体としてTVサイズではない”“この人はもっと面白いだろうな”と思ったんです。そして、「情熱大陸」の時はメジャー系の作品を監督している時期で、それは園子温本来の居場所ではないんだろうと感じていました。撮影の終わり頃に、自主映画として『ひそひそ星』という作品を次に撮ることを知って、それを追ってみたいと思って、放送終了の挨拶と合わせて改めて打診をしたんです」と、本作製作の経緯を明かす。本作は97分であることに対して、実際カメラを回した素材は170時間にも及んだといい、大島監督の話に真剣に耳を傾けたり、メモを取っていた学生達もこの数字が上がったところで思わずどよめきが起きた。「周りのディレクターと比べてそんなに回さない方なんですが、今回はかなり回しました。現場で面白いことが起きるとこの後何が起こるんだ?という期待もありました。」と振り返る。
大島渚という偉大な監督を父に持つ者として劇映画は作らないのかという質問にはキッパリ否定をする。「人物ドキュメンタリーは自分に合っていると思うし、その人が何を考えているのか、どういう風に生きてきて今をどう生きているのかというのを間近に見て自分なりに解釈していくのがすごく面白いんです。」と、強いこだわりを明かす。

学生からは次々に質問の手が挙がり、昨年のTOKYO FILMeXで園監督最新作『ひそひそ星』を観たという学生が、本作で捉える『ひそひそ星』のメイキング風景のいくつかを挙げて「この場面を観た上で『ひそひそ星』を観るのと、後で観るのとでは全く解釈が変わってくるのではないか」と質問を投げかけた。大島監督がその学生にどちらが先だといいと思うかと逆に聞くと、その学生は『ひそひそ星』を挙げ、大島監督は逆の反響を伝えつつも、その意見に大きくうなずいていた。
本作を通じて観客に感じてほしいことについて、「自由に生きて自由に表現をするということについて。それは素晴らしいと思う一方なかなか簡単なことではないんです。園さんとお付き合いしていると、これだけ自由に、好きなことを続けてやり続けていることのすごさを感じるんです。僕も表現する人間のひとりとして勇気とか力をもらいながら制作していました。」と語った。
最後に、本作を観たという被写体・園子温は、「正視できない。俺が(人に見られるのが)イヤなシーンばっかり人が面白がるんだよ」と語ったと明かすと教室からは大きな笑いが起こった。大島監督は、「経験上、被写体が手放しで喜ぶものは観客にとっては力がなかったりするんです。それは被写体にとってイヤなものが映っているのか映っていないことだと思うので、今回の園さんの感想は褒め言葉として受け止めようと思います」と締めくくった。

5月14日(土)新宿シネマカリテほかにてロードショー
園子温監督作品『ひそひそ星』と同時期ロードショー