本作は、ペドロ・アルモドバル監督、園子温監督もほれ込んだスペインの驚異の新鋭カルロス・ベルムト監督の劇場デビュー作。
2014年のサン・セバスチャン国際映画祭にてグランプリ・監督賞のダブル受賞に輝きました。白血病で余命わずかな少女アリシアは、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。彼女の願いはコスチュームを着て踊ること。娘の願いをかなえるため、失業中の父ルイスは、高額なコスチュームを手に入れることを決意する。この彼の行動が、心に闇を抱える女性バルバラと、訳ありの元教師ダミアンを巻き込んでいく。
出会うはずのなかった彼らの運命が予想もしない悲劇的な結末へ・・・。独創的なストーリーに、全編を貫くブラックユーモア、まったく先読みできない巧みな構成、そして想像を絶するラストは各界から絶賛されています。

「それはファンタジーであり、エロティックであり、暴力と死についての物語である。(略)『マジカル・ガール』は現実を乗り越える魔法についての映画だ。」
(柳下さん/朝日新聞3月18日)「端正で冷たく、無慈悲で恐ろしい。「一番恐ろしいところをあえて見せないことで、さらなる恐怖をもたらす」やり方は、多くの映画監督が挑んで、しかしなかなかうまくいかない鬼門なのだが本作は見事にそこをクリアしている」(高橋さん/週刊プレイボーイ3月7日)などと、新聞や雑誌などで独自の目線で本作の魅力を紹介していただいたおふたりのトークは白熱したものに…!

【開催概要】
■日時  :4月10日(日)受付15:15/イベント 15:45〜(上映:13:30〜)
■会場 :新宿シネマカリテ(新宿区新宿3丁目37−12 新宿NOWAビルB1F)
■登壇者 : 柳下毅一郎さん(映画評論家・翻訳家)、高橋ヨシキさん(デザイナー・ライター)

【トーク内容】
★うまくいくといいな、という希望が気持ちいいくらいに裏切られる!
映画としてよくできている!

柳下氏:すごく面白かったです。実は、町山智浩さん(映画評論家)から正月に「柳下さん、絶対好きだよ。ブニュエル的で」と勧められていたんですけれど、
観る前に言うなよっ!(笑)と。でも、『マジカル・ガール』でバルバラが、お金を集めるために入っていく「トカゲ部屋」のシーンは、
ブニュエルの『昼顔』で、カトリーヌ・ドヌーブ演じる売春に溺れる主婦が、東洋人に渡された箱で危ないプレイをするシーンと近いですよね。
どちらも「何かが起きた、何かがある」と思わせて、直接的には描かないんです。あと、フィルムノワールとしてみても面白い映画ですよね。
女性のせいで破滅する男を描きつつ、逆に破滅する男のかっこよさを高めているような感じもあって。
劇中、ダミアンが覚悟を決めて「バルバラのために」と覚悟を決めて、スーツをバチッと決めるシーンは、
男を取り戻したような雰囲気で、かっこよかったですね。印象的なシーンです。

高橋氏:すごく面白かったです。前半は、よくあるヨーロッパ映画でまじめか!と思ってたら、途中でギャグもあったりして話の残酷さと
上手く調和していて面白んですよね。「うまくいくといいな」という展開が、気持ちいいくらいに裏切られるんですよ。
例えば、バルバラは一見理解のない夫に幽閉されている可哀想な妻なんだけれど、プロットが進むと、ひっくり返されて…。
まさか怪物を必死で閉じ込めている夫だとはという。そういう裏切られる展開の連続で話が進んで行くのがすごいんですよ。

柳下氏:脚本としてすごくよくできている。設定を1つでもしゃべるだけで、全部がネタバレになっちゃうくらいに、すべて繋がっていて。
日本のアニメファンのアリシアでコスチュームもステッキもこだわりが強いのに、なぜ髪型がショートカットなのか…
そういうところからしてもうネタバレですからね(笑)観ているものがマジックにかかってしまうような作品だと思います。

★「見せないものの必然性」が描かれているから、想像したくなる
見せないものの方が、映画としての力を持つ

高橋氏:興味深かったのは、バルバラが「トカゲ部屋」で何をしていたかは描かれていない。でも、その前にバルバラの身体に古傷があるのを
観客は観ている訳だから、その中で何か行われていたかがより想像できる。「結果」を先に見せて、想像を誘発するというのはすごいですよね。
いろんな映画で大がかりに「見せすぎる」作品はありますけれど、見せることに価値は生じないんですよね。

柳下氏:確かに、「もったいぶってないで見せろよ!」と言ってしまいたくなる映画はありがちだけれど、『マジカル・ガール』は、見せないものの方が力を持つ、
ということを考えさせる作品ですね。本作は、「向こう側で起こっていることを隠す」というのが、ひとつテーマとしてあって、
例えば、かつてのバルバラとダミアンの間で何が起きたのか。ルイスが裏で何をしているのか、アリシアが父に何を想っているのか…
リアリティがあるのは、見せないからこそなんですよね。そこでいうと観客も監督の魔法にかかっているような感じですよね。

高橋氏:次の作品は、アルモドバルがプロデューサーだとか。
これがデビュー作ですからね。次回作、楽しみですよね。

柳下氏:きっと、製作費も本作よりもたくさん出るでしょうし、どんな映画ができるのか期待ですね。

以上