常に時代を挑発し、世の常識に疑問符を投げかける映画監督・園子温。構想25年を経て結実したモノクロームのSF作品である監督最新作『ひそひそ星』が、5月14日より新宿シネマカリテほかにてロードショーとなります。本作は、鬼才自ら2013年に設立したシオンプロダクションの第一回制作作品。『地獄でなぜ悪い』(13)『ラブ&ピース』(15)と同じく、園子温が20代の時に書き留めていたオリジナルの物語が、“いま”を映す映画として、満を持して産声を上げました。
そして、園子温が映画では語りきれなかったメッセージをビジュアル・インスタレーションとしてさらに発展させた、自身にとって美術館での初の個展となる展覧会「ひそひそ星」が4月3日(日)より7月10日(日)の3ヶ月に渡って開催されます。展覧会では、「ひそひそ星」がそのシークエンスを飛び出し、独立した三つのポエム空間として凝縮されています。
展覧会スタートに先駆け、4月2日(土)に関係者に向けてオープニングが開催され、本展覧会と映画『ひそひそ星』などについて語るトークを実施いたしました。

園子温 展「ひそひそ星」オープニングトーク
日時:4月2日(土)18:00〜18:30
会場:ワタリウム美術館 展示室(東京都渋谷区 神宮前3丁目7−6)
登壇:園子温、卯城竜太(Chim↑Pom)、エリイ(Chim↑Pom)
聞き手:和多利浩一(ワタリウム美術館)

園子温による個展「ひそひそ星」の歴史は、昨年6〜7月に高円寺のGarterで行われた同名の自身初の個展にさかのぼる。当時の個展のキュレーターを務め、園に展覧会の誘いをしたのはChim↑Pom。
卯城は、「園さんはもちろん映画監督なんだけど、やってきたこと全てを芸術家の活動として捉えなおしたら面白いなと思って。アクティビスト的な活動も多かったし、ジャンルに囚われていない。それを展示として見せてみたいなと思ってやったのが“ひそひそ星”展なんです」と当時を振り返る。当時、園は卯城に説明したのが「ひそひそ星」と対になっているのが東京ガガガ(園がかつて主宰していた路上パフォーマンス集団)ということだという。園は「高円寺は東京ガガガの拠点でもあったので、当時を彷彿とさせるワイルドなものにしたいという想いはありました。」と振り返る。会場の建物全てを覆う300メートル以上の横断幕に肉筆のメッセージを公園でひたすら書き、腰が上がらなくなるほどだったと振り返る。
和多利は、「高円寺の展覧会は園さんの“うるさい部分”と“静かな部分”の両方が表現されていて、それぞれ7割、3割ぐらいのキュレーション振りが見事でした。今回の展覧会はかなり映画寄りに静かにまとめていきたいと思いました」と両者を比較。和多利から今回の展覧会のオファーを受けた際、園は、「展覧会も、自主映画と一緒で1本目は和気あいあいで許されるところがあるけど、2本目は厳しい目ににさらされることになるから気を引き締めないと・・・」と怖さと迷いも感じていたことを明かす。

話題は、25年前に約1年かけて書かれた555枚の絵コンテをもとに作られた監督最新作の『ひそひそ星』へ。「この映画は、25年前に初心で書いたシナリオを、現在の商業にまみれた僕がもう1回全部を振り出しに戻す決意も込めて作ったものだから、すごく重要なんです。」と思い入れたっぷりに説明。一方で、「この映画は完成させたくなくて、編集をずっとやってて、音入れもまだこれから続くんです」と並々ならぬ思い入れがあるようで、「人類の想い出を配達する宇宙船の話だから、もし完成した場合、土の中に寝かせて時間を超えて他の時代の人が観てくれればいいなと思っていた。」と語る。
卯城は映画について、「信じられないほどの感動とインスピレーションを受けた」と絶賛。続けて、「映画は映画なんだけど、ジャンルを超えて人間が作る芸術のひとつの極致として色んな角度から見ることができる」と“ひそひそ星”という世界の魅力について語る。エリイは「びっくりした。こんな映画今まで観たことないし、これは歴史的な1本になると確信しました」と熱っぽく語った。和多利は、「今回展示される絵コンテをきちんと見たら、映画がこれにかなり忠実に作られていることが分かります。多分6〜7割は活かされてるんじゃないか」と語ると、卯城も「SFに時代が追いついたということなんですね」と賛同する。

園は「ひそひそ星 園子温作品集」(朝日出版社より4月下旬一般発売/予価2,300円)に、“ひそひそ星”について2万字にも及ぶ文章を寄せているが、それについて「直観的に作った映画を、その文章を書いて、さらに詩として表現することで、なぜこの映画を作らなければならなかったのか整理できて明確に言えるようになった」と語る。卯城は、「1本の映画を作ることで、展覧会になったり本や文章になったり、ひとつの作品に色んな人がインスパイアされていって、違う形を作っていく。抽象的でありながら現実を描いてもいるから皆が主体者としてシェアしたくなる。この映画にはそういう魅力がある」とまとめた。
園は、「これから未来に作る映画の全部が映画『ひそひそ星』に詰まっている」と自信を込めた。本展覧会は、映画鑑賞の予習・復習の粋を超えて、“ひそひそ星”の世界を十二分に体感できる貴重な機会になっている。

園子温 展「ひそひそ星」 開催概要
2016年4月3日[日]−7月10日[日]
休館日:月曜日 開館時間:11時より19時まで [毎週水曜日は21時まで延長]
入館料:大人 1000円 / 学生[25歳以下] 800円 / 小・中学生 500円 / 70歳以上の方 700円
ペア券:大人 2人 1600円 / 学生 2人 1200円
主催/会場:ワタリウム美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-7-6
http://www.watarium.co.jp/exhibition/1603sono/index.html