『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で2015年の賞レースを総なめにしオスカー4冠に輝いたアレハンドロ・G.・イニャリトゥが監督・脚本・製作を務め、いまだかつてない製作費をかけて大自然が猛威をふるう極寒の地で自然光のみを使った9ヵ月間のロケ撮影を敢行した『レヴェナント:蘇えりし者』(4月公開)。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『ブラッド・ダイヤモンド』『アビエイター』『ギルバート・グレイプ』でアカデミー賞に4度ノミネートを果たすも今だ無冠のレオナルド・ディカプリオが、悲願のオスカー獲得を狙う。2013年の俳優休業宣言を覆し本作への出演を快諾しただけあって、格闘シーンで鼻を折るほどの体当たりの熱演を見せている。

そして全米の拡大公開の直前となる1月6日(現地時間)、ニューヨークのAMCロウズ リンカーンスクエアで、ニューヨークプレミアが開催された。会場には主人公を演じるレオナルド・ディカプリオ、昨年「バードマン」で初のオスカーを手にしたイニャリトゥ監督、ドーナル・グリーソン、フォレスト・グッドラックら出演者に加え、音楽を担当した坂本龍一氏も急遽出席し、初めて、ディカプリオ、イニャリトゥ監督、坂本龍一氏の3名が揃った豪華なレッド・カーペットが実現した。

『バベル』(06)でも「美貌の青空」など坂本氏の2曲の楽曲を使用したイニャリトゥ監督は、坂本氏の大ファンでもある。「彼の曲には余計なものがなく優雅で感動的だ。(今回の音楽には)感動的な静寂がある。(静寂という)間が映画にとって重要な役割を果たすんだ」と坂本氏の音楽が作品にとってとても重要な役割を果たしているとイニャリトゥ監督は語っている。坂本氏の音楽に大きく心を揺さぶられたと語るのはディカプリオで、「サカモト氏の音楽はこの映画のテーマそのものを表現していると思う。初めて聞いたとき、まさに求めていた音楽だったから強く感銘を受けた」と語った。

セリフの少ないこの作品で音楽の占める役割は大きく、それが楽しみでもあり、プレッシャーでもあったという坂本氏は、「監督の要望に総て応えられるような方法があればよいのだが、残念ながらこれという方法はない。だから崖を登るような監督の膨大な要求を一つ一つクリアしていった」と感慨深げに語った。

LA時間の10日17時(日本時間11日10時)には、いよいよ作品賞、監督賞、主演男優賞、音楽賞にノミネートされているゴールデン・グローブ賞の授賞式がスタートとなる。1月14日にノミネート発表、2月28日に授賞式となるアカデミー賞に向けて、大きなターニング・ポイントとなるゴールデン・グローブで『レヴェナント:蘇えりし者』がどれだけの賞を獲得するか、全世界の注目が集まっている。

レッド・カーペットでのコメントは次ページの通りです。

レオナルド・ディカプリオ
出演の決め手は監督だった。脚本のすばらしさに魅了された。絶体絶命の状況で発揮される人間の不屈の精神や、生への執念の根源を描いている。監督はドキュメンタリーのように、異次元の世界や大自然を限りなく追求していた。彼がリアリティにこだわり抜いたからこそ役者として、最高の環境で仕事ができた。本物の大自然の中で集中して演技に臨んだんだ。ヒュー・グラスの冒険は強く心を打つテーマだ。亡霊のように死の底からはい上がってきた彼は勇気を奮い起こして諦めることなく進んでいく。
サカモト氏の楽曲はそれを表現している。曲を聴くと大きく心が揺さぶられるんだ。音楽の持つパワーに関してはうまく説明できないけど、彼の音楽はこの映画にふさわしい。まさに求めていた音楽だったから強く感銘を受けたんだ。

アレハンドロ・G・イニャリトゥ(監督)
この映画のテーマは“蘇える”ということだ。誰にでも経験があるはずだ。人生に絶望しても、人はやり直す。傷を癒やして、また失敗する。そして、またやり直す。この作品で描くのは何度も蘇える男の話だ。
ここ3年くらい、坂本龍一さんの曲が大好きなんだ。『バベル』にも2曲提供してもらった。それから仲良くなって、今回もお願いしたんだ。彼の曲には余計なものがなく、優雅で感動的だ。
この作品には、映像から想像してもらうシーンが多い。説明は加えずに映像そのものが味わえる。あるのは映像と音、そして静寂と間だ。間が重要な役割を果たすのは会話と同じ。実際の言葉より、その場の空気や間で伝わることは多いんだ。

坂本龍一(音楽)
イニャリトゥ監督の要望は、アコースティックと電子音楽を何層にも重ねたものでした。だからその2つを融合させた。加工され作り込まれた電子音楽と音質の良いオーケストラを組み合わせる大変な作業でした。
映画が持つ力というのは素晴らしい。作曲すること自体が、僕のインスピレーションの源になりました。俳優たちの演技は見事で、感動的でした。そして、監督の力量は、言葉では言い表せないほど素晴らしいものでした。
セリフが非常に少ない映画なのですが、映像と音楽と音響効果がセリフの代わりにストーリーを伝えています。だから膨大な量の音楽が必要となったのです。
監督の要望にすべて応えられる明確なやり方…そんな手法が僕にあればいいんだけど、残念ながらこれだという正解はないので、崖を登っていくかのように監督の膨大な要求を1つ1つクリアしていきました。