あと11年で完成させることには意味がない。急ピッチで進む建築の問題点とは!?光嶋裕介×入江正之、力説!映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』公開記念イベント
アントニ・ガウディ世紀のプロジェクト「サグラダ・ファミリア」にまつわるドキュメンタリー映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』が12月12日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開いたしました。本作の公開を記念し、建築家の光嶋裕介さんと入江正之さんが初日のトークイベントに登壇しました。
◆概要◆
●日時:2015年12月12日(土)
●場所:YEBISU GARDEN CINEMA (渋谷区恵比寿4-20-2恵比寿ガーデンプレイス内)
●ゲスト:光嶋裕介(建築家)、入江正之(建築家・早稲田大学教授)
アントニ・ガウディ世紀のプロジェクト、サグラダ・ファミリアにまつわるドキュメンタリー映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』が12日に公開初日を迎え、YEBISU GARDEN CINEMAにてスペシャルトークイベントを開催。ガウディ研究家の第一人者で多くの著書を発表している建築家・早稲田大学教授の入江正之氏と、今夏、大好評を博した展覧会「特別展 ガウディ×井上雄彦」の公式ナビゲーターを務めた建築家の光嶋裕介氏が登壇し、本作を通してガウディとサグラダ・ファミリアについて熱いトークを繰り広げた。
本作を3度見直したという入江氏は、「ガウディ本人は不在ですが、ガウディと関わり、ガウディを継承された方々のインタビューを通して、サグラダ・ファミリアを現在の状況から過去へと掘り下げていく、とてもよくまとまったドキュメンタリー映画でしたね。映像も綺麗ですし、3度見ても全く飽きない」と絶賛。
一方、大学院時代、入江氏の講義を受けて、ガウディの魅力に取り憑かれたという光嶋氏は、「建築というのは、設計者がクライアントと対話しながら未来予想図を描いていきます。最初はイマジネーション(想像)から始まり、やがてクリエイション(創造)になっていくわけですが、今、入江先生がおっしゃたように、ガウディの凄さの一つは、ガウディが死者であること」と力説。「設計者不在でありながら、これだけの人を惹き付け、これだけのものを成し遂げさせようとするところに意味がある」と目を輝かせる。
これに対して入江氏は、「ガウディが最終的に辿り着いた理念というのは、『自然が生成するように、建築も生成できないか』というところなんですね。そこにある『生命感』こそ、最も大切なこと」と語気を強める。ただ、サグラダ・ファミリアの建設における現況について入江氏は、「スタッフには心から敬意を表したい」としながらも「作業のコンピュータ化」については警鐘を鳴らす。
現在、ガウディ没後100周年の2026年完成に向けて急ピッチで作業が進められているが、「あと11年で完成させることに意味はない」と語る入江氏。「ガウディが遺したサグラダ・ファミリアの10分の1の石膏模型が、スペイン内戦で粉々になってしまったんですが、現在の継承チームがそれを拾い集めて再生したわけですね。これには本当に頭が下がる思いですが、その反面、大きな問題も出てきた」と指摘する。
「それは何かというと、模型を再生するときに全て計測することによって数値が出てくるわけですが、その数値と形態を見ていくと、一つの法則がわかってくる。それらを全てデータ化してコンピュータに入力し、航空技術のソフトを駆使すれば、今は三次元データで何でも作ることができるわけです。ただ、一度死んだデータを再構築する中で、果たしてガウディが求めていた『生命感』は生まれるのだろうか。そこが一番大きな課題だと思う」と持論を展開。
光嶋氏も、「バッハが作曲した楽曲でも、コンダクターが変われば音楽も変わる。設計図は楽譜のようなもの。ガウディは、模型こそ作りましたが、『この図面通りに作れば私のイメージ通りになる』というものは遺していない。『これは私の作品だ!』というエゴがなく、もっと違うところを彼は見ていた」と分析。さらに、「今、時間と共にきちんと継承されていかなければならないのは、ガウディ建築の表面的なフォルムではなく、そこに隠された(数値化できない)見えない部分。それは、サグラダ・ファミリアを完成させること以上に大切なことだと思いますね」と強調していた。
<プロフィール>
光嶋裕介(こうしま・ゆうすけ)/建築家
建築家。一級建築士。1979年、米ニュージャージー州生まれ。2002年早稲田大学理工学部建築学科を卒業。2004年早稲田大学大学院修士課程建築学専攻、修了。2004 – 08年ドイツのベルリンにあるザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツに勤務。2008年 -光嶋裕介建築設計事務所を開設。2012 – 15年、首都大学東京にて助教、桑沢デザイン研究所および大阪市立大学で非常勤講師をつとめる。2015年 -神戸大学客員准教授。主な作品に《彩輝館》(2015)など多数。主な著書に、『みんなの家。〜建築家1年生の初仕事〜』(アルテスパブリッシング)、『幻想都市風景』(羽鳥書店)、『建築武者修行—放課後のベルリン』(イースト・プレス)など。
入江正之(いりえ・まさゆき)/建築家・早稲田大学教授
1946年生まれ。建築家・早稲田大学教授。工学博士。1977~78年バルセロナ建築大学ガウディ講座留学。1990年「アントニオ・イ・コルネットに関する一連の研究」で日本建築学会賞受賞。『アントニオ・ガウディ論』(早稲田大学出版部)、『ガウディの言葉』(彰国社)、『図説ガウディ』(河出書房新社)他著訳書多数。建築作品に《実験装置/masia2008》(第22回村野藤吾賞)、《行燈旅館》(日本建築学会作品選奨)、《明善寺》、《漱石山房記念館設計コンペ1位》等多数。