それでは、長編コンペティション部門の受賞作と受賞者のコメントをかいつまんで紹介!
 
◆最高賞パルムドールは、偽りの家族と共にフランスに亡命したタミル人の男性の姿を描いた『ディーパン』が受賞!

 〈カンヌ国際映画祭便り13〉で既にお伝えした通り、映画祭終盤の21日(木)に正式上映された『ディーパン』は、フランスの名匠ジャック・オーディアール監督が、無名俳優を夫婦役に起用して移民問題に切り込んだ社会派ドラマながら、エンターテインメント的要素も盛り込んだ快作だ。ジャック・オーディアール監督の最上作とは言い難いものの、テーマの掬い挙げ方、圧倒的な演出力は流石としか言いようがない。
 審査員長のコーエン兄弟に授賞式でパルムドールだと告げられたジャック・オーディアール監督は、夫婦役の俳優2人を伴って登壇し、「感動しています。そして俳優に感謝します。彼らがいなければ映画もできなかったですし、パルムドールを受賞することもなかったでしょう。今年はミヒャエル・ハネケ監督が参加してなくて良かったよ(笑)。コーエン兄弟から賞を受け取れるなんて、本当に素晴らしい! ダルデンヌ兄弟じゃないですよ(笑)」と冗談を交えつつ、興奮醒めやらぬ面持ちで語った。
 授賞式直後の受賞者会見に臨んだジャック・オーディアール監督は、「映画の最後は、男が女の願いを受け入れるハッピーエンドにしたよ。男が女の願いを承諾する形がいいなと思えたからね。僕が興味を覚えるのは、他人の視線なんだ。レストランのテラスでバラの花を売っている人を、他の人はどのように感じているのかってね」とコメントした。

◆次点のグランプリは長編処女作『サン・オブ・サウル』で、ハンガリーの新鋭監督ラズロ・ネメスが受賞!

 グランプリを受賞した『サン・オブ・サウル』は、映画祭序盤の15日(金)に1回だけ正式上映された(〈カンヌ国際映画祭便り5〉参照のこと)秀作で、監督は1977年にブタペストで生まれたラズロ・ネメス。3本の短編映画を経て撮った長編デビュー作の本作で、見事に栄冠を勝ち取った。強制収容所で同胞の殺戮の後処理を担うユダヤ人男性の姿を描いた『サン・オブ・サウル』は、筆者が会期中で最も衝撃を受けた作品であり、個人的には本作に出会えたことが今年の最大の収穫であった。
 授賞式で、映画祭関係者とカンヌの人々に感謝したラズロ・ネメス監督は、“シネフォンダシヨン・レジデンス”に参加したことに言及した上で、「この題材を選んだのは、破壊されていく世界を見てほしかったからです。問題は今も終っていません。そして、この作品は是が非でもフィルムで撮影したかったんです。僕らの世代にとって非常に大切なことだから。フィルム映画こそ、映画人の魂であり、映画の魔法なのですから」と力強くコメント。
 また、ラズロ・ネメス監督は受賞者会見でも「僕は今でも、ヨーロッパで行われたユダヤ人大量殺戮の歴史に取り憑かれているんです。ハンガリーでは強制収容所送りになったユダヤ人が数多くいました。それは歴史の1ページにすぎないとは思いません。この問題を違う角度から扱ってみたかったのです。数がどんどん減っている生存者の子孫たちに伝える事が重要だと思っています」と真摯に語った。

◆監督賞は、『黒衣の刺客』を手掛けた台湾の名匠ホウ・シャオシェンが受賞!

 21日(木)に正式上映された(〈カンヌ国際映画祭便り13〉)『黒衣の刺客』は、名匠ホウ・シャオシェン初の武侠映画。まるで水墨画のようなモノクロ映像で始まり、その後に展開するカラー映像の幻想的かつ圧倒的な映像美で観客を酔わせるアート映画だ。
 22年前の『戯夢人生』での審査員賞以来、2度目の受賞となったホウ・シャオシェン監督は、授賞式で「カンヌに来たのは7回目で、以前にも賞を戴きましたが、これは特別です。映画監督は難しい仕事なんです。資金調達も大変ですしね。映画製作チームに感謝します」とコメント。
 受賞者会見では「ある程度の深さに辿り着くと、“人間”について、その生き方について話すようになります。そして、それが文化になるのです。“人間”について物語った時から、何か普遍的なものになるのです」 と述べた。
(記事構成:Y. KIKKA)