映画祭終盤の23日(土)。短編コンペティション部門の出品作9本の正式上映が11時&16時の2回に渡って行われ、“カンヌ・クラシック”部門では2作品が上映。また、公式部門第2カテゴリーの“ある視点”部門と併行部門の“監督週間”は本日で閉幕となった。

◆アイスランドの大自然を舞台にしたグリームル・ハゥコーナルソン監督の『ラムズ』が“ある視点部門賞”を獲得!

 全19作品が上映された“ある視点”部門のアワード・セレモニーが、19時15分から映画祭ディレクターのティエリー・フレモーの司会によりドビュッシー・ホールで催された。今年、この部門の審査員を務めたのは、イザベラ・ロッセリーニ(委員長)以下、サウジアラビアの女性監督ハイファ・アル=マンスール、レバノンの女性監督&女優のナディーン・ラバキー、フランスの男優タハール・ラヒムらの総勢5名。授賞式に引き続き、“ある視点部門賞”の『ラムズ』が上映され、それをもって閉幕した。

 最高賞の“ある視点部門賞”に輝いたのはアイスランドの新鋭グリームル・ハゥコーナルソン監督の長編2作目『ラムズ』。アイスランドの辺境の村のに暮らす老兄弟と羊の絆をユーモアを交えた語り口で綴ったドラマだ。人里離れた村の隣同士に住む老兄弟グミーとキディーは、先祖代々から受け継いできた羊の世話に人生をかけてきた。だが2人は、この40年もの間、全く口をきかないほどの不仲が続いていた。そんなある日、キディーの羊が疫病に侵され、保健所から殺処分を命じられる。村がパニックに陥る中、兄弟は絶滅の危機にさらされた優良な羊を守るため、40年ぶりに力を合わせることになる。
 審査員賞は、クロアチアのダリボア・マタニック監督の『ザ・ハイ・サン』が獲得。民族対立の歴史に翻弄され続けてきたバルカン半島の隣接する2つの村を舞台に、3つの異なる年代(1991年、2001年、2011年)に展開する古典的な禁じられた愛の物語をヴィヴィッドに描いた作品だ。

 監督賞は17日に上映された(〈映画祭便り8〉を参照)『岸辺の旅』の黒沢清監督が受賞。授賞式に登壇(既にカンヌを離れていたが、フランスで撮影した自作の編集でパリに滞在中だったためカンヌにトンボ帰り)した黒沢清監督は、「本当に驚いています。ささやかな、地味な作品から一つの輝きを審査員の皆さんは発見して下さった。そういうことが起こるのがカンヌなんだなぁと思います」と感激の面持ちで語った。
 その後、受賞者パーティの席を抜け出し、賞状を手にしながら日本記者たちの取材に応じてくれた黒沢清監督は、「7年前(『トウキョウ・ソナタ』で審査員賞受賞)は妻の病気のためカンヌ滞在1日で帰国してしまったため、授賞式に参加できず、全然受賞した実感がありませんでした。今回は妻も一緒に来られて嬉しいです」と照れながら語り、「審査員長のイザベラ・ロッセリーニさんが『私は亡くなった母がいつも私のそばにいるような気がしていて、それは特殊なことだと思っていました。ですが、貴方の映画を観て、あり得ることなのだと思い、感銘を受けました』と言って下さったんです。嬉しかったですね」とコメントした。

 ルーマニアのコルネイユ・ポルンボユ監督が、ある才能賞を受賞した『トレジャー』は、祖父が埋めた宝物を掘り出したいという隣人の誘いに乗ってしまった33歳の男の姿を描いた物語。
 期待すべき新人賞は、ニーラジ・ガイワン監督が先ほど国際批評家連盟賞を受賞したばかりの『フライ・アウェイ・ソロ』(伝統的なモラルが支配する聖地の町で繰り広げられる切ない愛の物語)と、イランの女性監督イダ・パナハンデシュが同国の婚姻契約制度をモチーフにして描いた『ナヒード』が同時受賞した。受賞結果は以下の通り。
(記事構成:Y. KIKKA)

☆“ある視点”部門受賞結果
●ある視点部門賞
『ラムズ』グリームル・ハゥコーナルソン監督(アイスランド)
●審査員賞
『ザ・ハイ・サン』ダリボア・マタニック監督(クロアチア)
●監督賞
黒沢清監督『岸辺の旅』(日本)
●ある才能賞
『トレジャー』コルネイユ・ポルンボユ監督(ルーマニア)
●期待すべき新人賞
『フライ・アウェイ・ソロ』ニーラジ・ガイワン監督(インド)
『ナヒード』イダ・パナハンデシュ監督(イラン)