映画祭10日目の22日(金)、快晴。本日、“コンペティション”部門で正式上映されたのは、メキシコのミシェル・フランコ監督の『クロニク』とフランスのギョーム・ニクルー監督の『ヴァレー・オブ・ラヴ』。特別上映部門にはマーク・オズボーン監督のアニメ映画『リトルプリンス 星の王子さまと私』が登場。“ある視点”部門では4作品が上映されている。また、監督第1作目&2作目を主な上映対象とする併行部門の“批評家週間”は、本日で閉幕し、“シネフォンダシヨン”部門の授賞作品も発表された。

◆メキシコの新進監督ミシェル・フランコ監督はティム・ロス主演による英語作品『クロニク』でコンペ参戦!

 1979年生まれのミシェル・フランコは、2009年に初監督作『ダニエルとアナ』を“監督週間”に出品。2012年に“ある視点”に出品した2作目の『父の秘密』が“ある視点”部門賞を受賞し注目された。この際、審査委員長を務めていたのがティム・ロスだった。監督4作目となる本作『クロニク』は、終末医療をテーマにしたヒューマン・ドラマだ。
 主人公は末期患者の在宅ケアをする介護士ダビッド(ティム・ロス)。彼は4人の患者を担当し、彼らの世話を親身にしつつ、失われかけた患者と家族の絆を取り持とうとするが……。

 朝の8時30分からの上映に続き、11時から行われた『クロニク』の公式記者会見には、脚本も兼務したミシェル・フランコ監督、2人のプロデューサー、撮影監督、主演したティム・ロスと共演女優3人(ロビン・バートレット、サラ・サザーランド、ナイレア・ノルビンド)が登壇した。
 本作の製作のきっかけは2010年に亡くなった祖母の終末介護を担当した看護士の姿に感動したことだと明かしたミシェル・フランコ監督は「看護士がエンジェルだという意味じゃない。終末ケアをする人の人生はどんなものなのかに興味を覚えたんだ」とコメント。一方、ティム・ロスは「全てはカンヌで始まった。彼の映画(『父の秘密』)を観て驚いたね。そして、彼の新たなプロジェクトに興味を惹かれたんだ。看護士の物語だと聞き『男の看護士もアリだよね』って話になり、今ここに居るというわけさ」と、新たな才能に惚れ込んだ旨をフランクに語り、笑いを誘った。
 その後、脚本をティム・ロスと密接に関わって発展させたというミシェル・フランコ監督は「第1稿をティムに送ったら、彼は2時間後に『OK、読んだよ。話し合おうぜ』って連絡してきた。全くエゴのない、とてもシンプルなプロセスだった」と、名優とのコラボの喜びを語った。

◆ギョーム・ニクルー監督の初コンペ作『ヴァレー・オブ・ラヴ』はジェラール・ドパルデューとイザベル・ユペールが共演!

 『ストーン・カウンシル』で知られるフランスの中堅監督ギョーム・ニクルー(1966年生まれ)のカンヌ初登場作『ヴァレー・オブ・ラヴ』は、フランスを代表する名優、ジェラール・ドパルデューとイザベル・ユペールを元夫婦役で配して描いた“喪失感”の物語。
 半年前に自殺した写真家の息子ミカエルから受け取った手紙(招待状)の指示に従い、アメリカを訪れた元夫婦がネバダ州のデス・ヴァレー(死の谷)で再会する。だが、もう何年も疎遠だった2人は……。

 15時からの正式上映(1回だけの上映)に先立ち、12時30分から行われた『ヴァレー・オブ・ラヴ』の公式記者会見には、監督&脚本したギョーム・ニクルーとプロデューサー2名、ジェラール・ドパルデューとイザベル・ユペール、そして共演したアメリカ人俳優ダン・ワーナーが登壇した。
 フランスを代表する大御所俳優ジェラール・ドパルデューが姿を現すとあって、欧州のジャーナリストが大勢詰めかけた会見だったが、予定が立て込んでいたため冒頭の写真撮影と挨拶を聞いただけで中座することに。

◆マルシェ(見本市)関係者がごっそりと去り、のんびりムードが漂う中、“プレス・ランチ”に参加!

 あれほど賑わい、混み合っていたクロワゼット大通りも閑散としてきた。商談を済ませた配給会社や製作会社などのマルシェ関係者がごっそり去ったせいだが、授賞式を明後日に控えた我々報道陣にとっては、まだまだ気が抜けないのが実情だ。
 ところで、昨年は突然の大雨で中止になった“プレス・ランチ”が、今年は好天の下で無事、開催された。このイベントは、カンヌ市の市長が世界中から映画祭に集ったジャーナリストと、長編コンペティションの審査員団を昼食に招待し、屋外で南仏プロヴァンス地方の伝統料理を饗する粋な催し(映画祭のラベルが張られた特製オリーヴ・オイルのお土産付き!)で、会場は、市内を一望できる旧市街地の高台にあるカストル博物館前の広場。今年も、地方色豊かな伝統衣装に身を包んだ市民たちが立ち並んで音楽を奏でる中、カンヌ市長自らが参加者を会場入り口でお出迎え。ハードスケジュールをこなさねばならぬ報道陣にとっては、一息つける楽しい場なのだが、参加した報道陣向けの写真撮影タイムも設けられるので、審査員たちのカジュアルなサマー・ファッションを捉えられる絶好の場でもある。

◆日本人ボイスキャストもカンヌ入りし、レッドカーペットを歩いた『リトルプリンス 星の王子さまと私』

 『リトルプリンス 星の王子さまと私』(11月公開)が、19時より招待部門でソワレ上映され、現地入りした日本人ボイスキャストの津川雅彦(飛行士役)、瀬戸朝香(母親役)、鈴木莉央(女の子役)の3人が、各国のボイスキャストと共にレッドカーペットに登場した。
 本作はフランスのサン=テグジュペリが生んだ不朽の名作「星の王子さま」をモチーフにして、紙人形によるストップ・モーションアニメとCGを融合させて描いた意欲作だ。勉強漬けの日々を送る9歳の少女が、隣家の老人と親しくなる。元飛行士だった彼は、若き日に不時着した砂漠で出会った星の王子さまとの思い出を語り始め……。上映後には、津川雅彦、瀬戸朝香、鈴木莉央の3人が日本の報道陣に対して質疑応答する場が設けられている。
(記事構成:Y. KIKKA)