映画祭9日目の21日(木)。本日は朝から冷たい雨、その後に晴れ。“コンペティション”部門では、フランスのジャック・オーディアール監督の『ディーパン』と台湾のホウ・シャオシェン監督作『黒衣の刺客』が正式上映。“ある視点”部門ではルーマニアのコルネイユ・ポロンボイユ監督の『トレジャー』など、2作品が登場。“監督週間”では三池崇史監督の『極道大戦争』が上映された。

◆フランスのジャック・オーディアール監督は移民問題を扱った『ディーパン』で4度目のコンペ参戦!

 脚本家から監督に転身し、1994年の監督デビュー作『天使が隣で眠る夜』でカメラドール(新人監督賞)、1996年の『つつましき詐欺師』で脚本賞、2009年の『予言者』でグランプリと、カンヌで確実にステップアップしてきたフランスの実力派監督ジャック・オーディアール。2012年の前作『君と歩く世界』は無冠に終わったが、4度目のコンペ作となる『ディーパン』は、“移民問題”に切り込んだタイムリーな作品である。
 内戦での敗戦が濃厚となったスリランカのタミル族戦士ディーパン(アントニアサン・ジェスタサン)は国外逃亡を決意。難民申請をクリアすべく全く赤の他人の女性と少女を妻子に仕立て、偽装家族3人でフランスへと渡る。彼らは治安の悪いパリ郊外の低所得者用団地で暮らすことになり、ディーパンはその団地の管理人の仕事を得る。だが、その団地がチンピラやくざの抗争の場となり……。修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の強者ディーパンが戦士としての本領を発揮し、ゲリラ戦でチンピラたちを撃退する終盤のシーンが実に圧巻で胸がすくのだが、プレスからは最後のロンドンのシーンに対して賛否両論が巻き起こった。

 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた『ディーパン』の公式記者会見にはジャック・オーディアール監督、共同脚本家のノエ・デュブレ、プロデューサー、タイトルロールを演じたアントニアサン・ジェスタサン、偽装妻を演じたスリランカの女優カリエスワイ・スリンヴァサン、チンピラやくざの首領を演じたフランスの男優ヴァンサン・ロティエが登壇した。
 毛色の異なるラブストーリーを描きたかったというジャック・オーディアール監督は、本作について「偽装家族が最後には本物の家族になるラブストーリーであり、スリラーでもあるんだ」とし、「あくまでも本作はフィクションなので、政治的発言はしないよ」と記者たちに釘をさした。

◆台湾の名匠ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督が時代劇アクション『黒衣の刺客』で久々にコンペ参戦!

 ホウ・シャオシェン監督は1989年の『悲情城市』でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞し、カンヌでは1993年の『戯夢人生』で審査員賞を獲得。以降、1995年の『好男好女』、1996年の『憂鬱な楽園』、1998年の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』、2001年の『ミレニアム・マンボ』、2005年の『百年恋歌』でコンペに参戦した。
 今回、10年ぶりのコンペ作となる『黒衣の刺客』は監督初の武侠映画で、舞台は9世紀、唐代の中国。13年前に誘拐された後、刺客として育てられた隠娘(スー・チー)が密令を帯びて両親の元へ帰ってくる。その任務は、かつての許婚者であり、今は地方財政を牛耳る暴君となった田委安(チャン・チェン)を倒すことだった。だが任務中、窮地に追い込まれた彼女は、運良く日本人の青年(妻夫木聡)に助けられる。彼は乗船していた遣唐使船が難破したため、鏡磨きを行いながら旅を続けており……。セリフを最小限に押さえ、幻想的かつ圧倒的な映像美で女刺客の悲しい運命を描いた本作は、極めてアート性の高い作品だ。

 12時30分から行われた『黒衣の刺客』の公式記者会見にはホウ・シャオシェン監督、俳優陣のスー・チー、チャン・チェン、妻夫木聡、シュウ・ファンイー、ジョウ・ユィン、ニッキー・シエが登壇した。
 カンフー映画も数多く観ているが、特に好きなのが日本の侍映画で、その影響を強く受けていると語ったホウ・シャオシェン監督は「日本映画での“刀”の戦いはリアリティがある。それと同様のリアルさ、エネルギー、パワーを表現したかった」という。一方、妻夫木聡は「カンヌに初めて来ましたが、刺激を受けています。カンヌに出品される作品にかかわれて光栄です」と頬を紅潮させながらコメントした。
 その後、夕方の18時30分からは、日本人ジャーナリスト向けにホウ・シャオシェン監督と妻夫木聡の囲み取材がセッティングされ、会見では言葉少なかった妻夫木聡が、様々な撮影エピソードを明かしてくれた。

◆残念ながらカンヌ入りしなかった『極道大戦争』の三池崇史監督は、女装姿のサプライズ動画でアピール!

 三池崇史監督の“監督週間”出品作『極道大戦争』が、20時30分からJW マリオット・ホテルのクロワゼット劇場で上映された。『極道大戦争』はヴァンパイアのヤクザに噛みつかれた人間が次々とヤクザ化し、壮絶な戦いを繰り広げる奇想天外なアクション作品で、出演は市原隼人、リリー・フランキーら。
 残念ながら三池崇史監督は新作撮影のため現地入りを果たせず、本作の舞台挨拶には謎の刺客を演じたインドネシアの俳優ヤヤン・ルヒアンが立った。その後、上映直前にサプライズ動画(黒の留袖に鬘とメイクで完璧に女装した“芸者姿”で登場した三池監督によるビデオ・メッセージ)が流され、会場は爆笑の渦となった。
(記事構成:Y. KIKKA)