映画祭8日目の20日(水)。空が晴れ渡り、徐々に気温も上昇。朝晩は冷え込むもののカンヌらしい陽気に。“コンペティション”部門では、イタリアのパオロ・ソレンティーノ監督監督の『ユース』、中国のジャ・ジャンクー監督の『山河故人』が正式上映。ミッドナイト上映部門には鬼才ギャスパー・ノエ監督の『ラヴ』が登場。“ある視点”部門ではフランスのローラン・ラリヴィエ監督の『アイ・アム・ア・ソルジャー』などの3作品が上映されている。また、学生映画が対象の“シネフォンダシヨン”部門の全18本は本日から22日の3日間に渡っての上映だ。

◆イタリアの常連監督パオロ・ソレンティーノは超豪華キャストを起用した『ユース』でコンペに参戦!

 1970年生まれのパオロ・ソレンティーノ監督は、カンヌに初登場した『愛の果てへの旅』(2004年)以降、『家族の友人』(2006年)、審査員賞に輝いた『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』(2008年)、『きっと ここが帰る場所』(2011年)、アカデミー外国語映画賞を受賞した『グレート・ビューティー 追憶のローマ』(2013年)と、長編作品は全てコンペ選出されている常連監督で、そのイマジネーションあふれる圧倒的な映像美に定評がある鬼才だ。
 6度目のコンペ作となる『ユース』は、スイス・アルプスの超高級リゾートホテルを舞台に、既に引退した作曲家兼指揮者のフレッド(マイケル・ケイン)と、現役で新作の脚本に取り組むベテラン映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)の友情を軸にして、人生の意味を問うた完成度の高い人間ドラマだ。甘美な音楽も秀逸だし、80歳を目前にする昔からの親友役を演じた名優2人を始め、出演陣の好演も光っている。

 朝の8時30分から上映に続き、11時から行われた『ユース』の公式記者会見にはパオロ・ソレンティーノ監督とプロデューサー2名、出演俳優のマイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズ(15日に続き2度目の登壇)、ポール・ダノ、ジェーン・フォンダ(本作での特殊メイクが秀逸!)が出席した他、登壇しきれなかった共演女優、音楽家、製作者ら関係者6人が会場に現れ、記者席最前列に陣取って会見を見守った。
 会見では、主演したマイケル・ケインが「50年ほど前に『アルフィー』でカンヌに来た。作品は賞を獲ったが、私自身は受賞できなかった。だから今回はリベンジしに帰って来たよ」と切り出してジョークを連発。会場を笑いと喝采で包んだ後、本作の出来に満足している旨を熱く語った。
 一方、パオロ・ソレンティーノ監督は、“老い”という題材を取り上げたことについて「実際のところ、とても興味深い題材だと思ったんだ。我々には後どれくらい時間が残されているのかを考察するのはね。そして楽観的なフィルにしたかった」とコメント。またウズベキスタン人記者から見事な演技のアンサンブルについて問われたハーヴェイ・カイテルら出演陣は、それぞれの思いを口々に語り、パオロ・ソレンティーノ監督を褒め讃えた。

◆ジャ・ジャンクー監督は中国・日本・フランス合作映画『山河故人』で参戦!

 中国を代表する映画監督ジャ・ジャンクー(1970年生まれ)は、2006年の『長江哀歌』でヴェネツィア映画祭金獅子賞を受賞した逸材で、カンヌのコンペは本作『山河故人』で4度目(2002年の『青い稲妻』、2008年の『四川のうた』、脚本賞を獲得した2012年の『罪の手ざわり』に続いて)の参戦となる。さらに昨年は長編コンペティション部門の審査員を務め、今年はフランス映画監督協会から本年度の“黄金の馬車賞”の受賞者に選ばれ、5月14日に“監督週間”で授賞式と『プラットホーム』(2000年)の記念上映が行われている。
 『山河故人』は、女性教師と彼女に思いを寄せる2人の男性の運命を1999年、2014年、2025年の三部構成でダイナミックに描いた大河ドラマで、初の海外ロケ(オーストラリア)も敢行。現代中国の社会問題を浮き彫りにしたスケールの大きい意欲作だ。
 1999年の山西省。小学校教師タオは炭鉱で働くリャンと恋愛関係にあった。だが、タオはリャンの友人の実業家ジンシェンからプロポーズされ、結婚を承諾する。傷心のリャンは2度と戻らない覚悟を決めて故郷の街を離れていく。やがてタオは男の子を出産し、ジンシェンは息子を“ダラー”と命名する。2014年。ジンシェンと離婚したタオは一人暮らしをしていたが、タオの父親の葬儀に出席するため、疎遠になっていたダラーが戻ってくる。タオは母子関係を修復しようとするが、ダラーから彼がジンシェンと共にオーストラリアに移住することを告げられる。2025年のオーストラリア。長い寄宿舎生活のため、もはや中国語をほとんど話さなくなった19歳のダラーは、母親と同世代の中国語教師ミアと出会い……。

 12時30分から行われた『山河故人』の公式記者会見には、ジャ・ジャンクー監督とプロデューサーの市山尚三、タオ役のチャオ・タオ、青年期のダラー役のドン・ズージェン、リャン役のリャン・ジンドン、ジンシェン役のチャン・イー、ミア役のシルヴィア・チャンが登壇した。本作では日本の作曲家、半野喜弘が音楽を担当しているのだが、その起用理由を問われたジャ・ジャンクー監督は「彼は昔からの友人で、フィーリングが合うんだ」とコメントし、台湾出身の大女優&監督のシルヴィア・チャンに対しては「演技のみならず英語ダイアローグの指南役としても活躍してくれた」ことに謝意を述べた。

◆ジャン=ユーグ・アングラードが“ある視点”部門出品作『アイ・アム・ア・ソルジャー』で、久々のカンヌ入り!

 22時からは“ある視点”部門に出品されたフランスの新鋭監督ローラン・ラリヴィエの初長編作『アイ・アム・ア・ソルジャー』を鑑賞。
 失業した30歳のサンドリーヌ(ルイーズ・ブルゴワン)が故郷のルーベに戻り、叔父アンリ(ジャン=ユーグ・アングラード)が営むケンネル(犬の仲買業)を手伝うことにするが……。本作は横行する東欧からの”犬の密輸入“を題材に、ルイーズ・ブルゴワンが男社会に立ち向かう気丈なヒロインを演じた社会派ドラマの力作で、映画の題名は劇中にも流れる名曲「ミスター・ロンリー」のフランス語タイトルに由来(英題はその直訳)している。上映前に監督らと共に登壇したジャン=ユーグ・アングラード本人は、劇中のうらぶれた老け役とは異なり、甘いマスクはまだまだ健在&チャーミングであった。
(記事構成:Y. KIKKA)